街の発展の原点である「東横デパート」を最後に見納めておきたい
3月15日の東横線と副都心線の相互直通運転の開始に伴い、地上駅舎の旧・渋谷駅が営業終了。さらに3月31日には、渋谷駅と共にターミナルデパートとして愛され続けてきた「東急東横店東館」も、78年間の歴史に幕を下した。1934年(昭和9年)、日本を代表する建築家の一人である渡辺仁さんの設計で地上7階建ての「東横百貨店(現、東急東横店東館)」がオープン。渋谷駅周辺には高い建物がほとんどない時代、ターミナル駅と接する新しいスタイルのデパートの誕生は、誰もが憧れる東京の新名所として注目を浴びた。以来、一つの人生にも匹敵する歳月にわたり、同デパートは「渋谷の街」の長老として戦中や戦後復興、東京オリンピック、高度経済成長、若者文化の隆盛など、街の発展を見守り続けてきた。その間、東急東横店は1954年(昭和29年)にハチ公広場側に「西館」、1970年(昭和45年)に東急プラザ向かい側に「南館」が新たに加わり、街の発展と歩調を合わせるように「東急東横店(東館・西館・南館)」もその規模を拡大。さらに東横線・旧渋谷駅やJR山手線とも渾然一体なり、現在ではどこまでが渋谷駅でどこまでが東館なのか、「迷宮」「ダンジョン」という呼び名に相応しく、その区別をしっかりと出来る人はなかなか居ないだろう。見納めツアーの主役である「東急東横店東館」が一体どの部分を指しているのか、本題に入る前にその特殊な構造を改めて確認しておきたい。
まず、上記の施設図をご覧ください。この図を見て初めて知った人もきっと多いと思うが、渋谷ヒカリエの向かい側に立つ東館は、1号館から3号館の3棟から成り立っている。渡辺仁設計で78年前にオープンしたのが「東1号館」で、当時は一般的に「東横デパート」と呼ばれた。その後、玉電ビル(現、西館)の竣工及び東京高速鉄道(現、地下鉄銀座線)の開通に伴い、1937年(昭和12年)に銀座線・渋谷駅ホームのある「東2号館」を増築。さらに戦後に東横線・旧渋谷駅と接する「東3号館」を建て増しするなど、交通機関の乗り入れなどに合わせて拡張工事が行われてきた。これから始まる解体工事では、この東1〜3号館に加えて、JR山手線の頭上をまたぐ「中央館」も含まれている。そこで、今回の見納めツアーでは最も古い「東1号館」を中心に「東2号館」「東3号館」の一部を巡り、その全貌を明らかにしたい。「かまぼこ屋根」の旧渋谷駅にばかり注目が集まりがちであるが、当特集企画を通じ、川を跨いで立つ建築史上稀有な東館の唯一無二なデザイン性と、渋谷の発展に寄与してきた存在感の大きさを改めて感じ取ってほしい。