SHIBUYA BUNKA SPECIAL

shibuya1000を聞く! シブヤ地下のファッションって?

shibuya1000の初日3月13日には、副都心線渋谷駅構内に、線路部分を含む約50メートルのランウェイを配したファッション・ショー「shibuya 1000 Collection」が開催されます。2012年の東急東横線へ開通を待って眠っている線路を舞台に、「渋谷の未来」への思いを込めてコレクションを発表するのは、メンズブランド「NO ID」、「GOLDGELD」、レディースブランド「deep sweet easy」、「LANG DIMENSION」の4ブランド。多くの問題を乗り越えて1年越しの企画を実現したというプロデューサーの首藤伸治さんに、ショーへかける思い、地下鉄ならではの苦労・エピソードなど、これまでの取り組みについてお話を聞きました。(2010年3月12日掲載)

shibuya1000 イベント企画「shibuya1000 Collection」
開催日時 3月13日(土)25:30〜27:30(受付24:30、要予約)
開催場所 副都心線 代官山側プラットホーム

首藤伸治さん 1977年北海道苫小牧市生まれ。19歳で上京し、国内外のファッションブランドで販売や店舗マネージメントなどを経験。プレス・実店舗・MDなどをリンクさせるトータルプロモーションを打ち出し27歳で独立。現在は店舗コンサル、企業やアーティストのブランディング、モード学園講師などを手がける「ブランディスト」として幅広く活躍する。

現在の副都心線には「新しいものに挑戦するパワー」と「普遍性」が共存している

--線路でファッション・ショーを、というアイデアが生まれた経緯を教えてください。

副都心線渋谷駅の地宙船模型の置かれたホーム突き当たりの空間って、これまで私にとってすごく気になる場所でした。仕事の関係で副都心線は毎日利用していて、帰るときにはその場所に立って電車を待つことも多くて…。最初に「shibuya 1000」のお話が来たときには「やっぱり縁があったんだな」と思いましたね。それから、2012年にはあの部分を境界にして東横線と副都心線が相互直通運転をスタートさせるという話を聞き、今度はあの場所に「未来」を感じました。現在のホームでは、東横線方向にのびた線路には壁がドーンと立ちはだかっているんですが、それが解き放たれたときのパワーってすごいだろうな、と。壁を撤去すると同時にあの線路の新たな1歩がスタートするわけですからね。ただ、一方で私は線路ってすごく「普遍的」な存在でもあると思うんですよね。一度設置したら動かないものですから。現在のあの空間は、相互直通を控えて「新しいものに挑戦するパワー」と「普遍性」とが共存している状態。それってまさに私にとっての「ブランド」の考え方そのものなんですね。ファッションってやっぱり普遍性を求めていて、その中に新しいものを求めていくっていう考え方なので。あの空間とブランドの世界観が上手くリンクした状態から、「だったらここでファッション・ショーをやりたいです」っていう企画が生まれました。この場所以外にはないですね。ショーのコンセプト「渋谷の未来」には「副都心線の未来」というテーマも掛かっています。

--渋谷の地下でファッション・ショーを開催するということで、こだわった点はありますか?

ショーのもう1つのコンセプトに「洗練されたアンダーグラウンド」っていう考え方を入れています。一般的に地下鉄・地下空間といえば、B系なスタイルとか、ヒップホップな感じをイメージすることが多いですが、逆にそこで綺麗なドレスを着ていてもしっくりハマったりするのが渋谷の特徴。決まったスタイルではなく、いろいろなものを吸収したり、受け入れることが出来て、ちょっと外しても洗練されているように見えてしまったり…、空間がそういう手助けをしてくれる状態こそ渋谷のファッションなのかなって、僕は感じていますね。ただの「アンダーグラウンド」にはならないこの空間のあり方が渋谷のファッションそのもの。今回のショーでは「洗練されたアンダーグラウンド」を表現するつもりです。

2012年に東急東横線との相互直通運転が開始される予定の東京メトロ副都心線渋谷駅中央の線路

地下の本当に一番深いところから発信する新しい未来、新しい文化を感じて取ってもらえたら

--コレクションにはどのようなメンバーが集まっているんでしょうか?

モデルはメンズ・レディース合わせて20名で、これからの未来が楽しみなモデルさんを中心に集まってもらいました。僕も業界的にはまだ若手ですが、一方で演出・音響・ライティング・映像などのスタッフは、第一線で活躍するハイレベルなメンバーが揃っています。線路でショーが出来るなんて通常考えられないから、「せっかくだったら楽しもうよ」と集まってくれました。大御所たちが作り出す世界観の中で、いかに未来ある表現者を楽しませてあげられるか。また今回は歌手のステファニーなどのライブ、さらにイラストレーターであるYOICHIROのペイントなど、ライブパフォーマンスも展開します。彼はルイ・ヴィトンのパーティなどでも絵を描いたりしていて、経験豊富。

図式としては、地下空間にYOICHIOROの絵があって、その後ろに安藤さんの地宙船模型があって、その先にファッション・ショーの光が見えたり、映像が天井に流れているのが見えたりっていう見え方も考えていますね。終電から始発までという制限時間の間に準備もありますから、ショーは実質2時間位でしょうか。今回は深夜の駅構内ということもあり、完全招待制で行います。ただショーの模様はすぐにyoutubeなどで流していこうと考えていますので、ぜひ多くの人たちに観て欲しいですね。

--線路でファッション・ショーを行う難しさは?」

これまで僕がショーを手がけた会場って、ホールとか、きちんと設備の整った「ファッション・ショーのための場所」がほとんど。世界的にも線路でのショーって、前例が少なくハードルが高い場所だと思います(笑)。今回もなにより「この場所を使う」っていうことが一番の課題でしたね。線路って、駅の中にあっても「道路」なんですよ。ホームは駅の管轄なんですが、1歩線路に入ると道路扱いで、たとえ使っていない線路であっても許可がないとホーム下に降りることさえできない。今回の企画は東京メトロさんと、東急さん、様々な方たちにご尽力いただき、実現しました。本当に有り難いと思っています。通常のファッション・ショーと違うのは、観客が上から見下ろすショーだっていう点ですね。普通はランウェイが高いところにあったり、観客と同じ目線だったりする形なんですが、今回はモデルが見下ろされるファッション・ショー。モデルにホームから階段で線路に下りていくように歩かせるのは、同じ目線から下に下りていくという流れが欲しかったからですね。

--その他にはどんな問題がありましたか?

まず電気量の確保ですね。「万が一何かあったら」っていうことを考えると、地下鉄を走らせるための電源を使うわけにはいかない。そうするとホームのフロアにある電源って、掃除用のコンセントしかないんですよ。今回は東京メトロさんにご協力頂いて、別のフロアからも電源を引っ張ってくるような処置をしています。電気量を抑えつつも照明の色を表現出来るかなど、日々戦っている状況といいますか、イベントの迫る現在でも解決できていない問題の一つです。あとは音の問題。副都心線の渋谷駅って、ドームの部分が吹き抜けになっていて地上まで繋がっているんです。だから音を大きく出せば地上に漏れてしまう。一方で空気が吹き抜ける場所だからこそ、ある程度音を出さなきゃいけなかったり。それからコンクリートで囲まれている空間になると、今度は体育館に近い音の響き方がします。アーティストが歌う立ち位置も考えないと、自分の考えている声と全然違うペースで音が来てしまったりしますからね。そういう問題も大きいですね。

--最後に、今回のショーをどういう風に楽しんでもらいたいですか?

副都心線渋谷駅の構内にある壁面。東急東横線との相互直通化にあたって開通する予定

未来を感じてもらいたいです。普段は出来ない場所、正直普段はあまり注目されていなかった場所だと思うんですが、そこでこういったファッション・ショーをやることによって、いろんな人達のいろんな視線が集まってくると、パワーは大きくなります。渋谷っていろんな人達が集まってきて、すごくたくさんの文化が生まれる場所なんですが、私はこれまで表面の地上部分しか見ていなかったんですね。でも、地下って渋谷が持っているいろんなパワーが凝縮されている場所ですから。その地下鉄の本当に一番深いところで新しい何かが生まれようとしている。線路でショーをやることによって、それがニュースとして流れていくことによって、渋谷っていう場所の奥深さ、懐の深さというか、パワーを感じてもらいたいですね。ショーにOKがでた事自体が感動なんですが、そうやって渋谷から発信していくもので、若い子たちも、キャリアのある先輩方も、なにか一つでも刺激をもらってくれたらいいなと思いますね。私たちは「明るい未来」「子どもたちのための未来」っていうのをテーマに動いてますから、渋谷の地下から発信する新しい未来、新しい文化っていうのを感じて取ってもらえたらと思います。

--今後の目標はありますか?

来年の「Shibuya1000」へ向けてやっていきたいです。ただ2012年には副都心線と東横線の相互運転が始まるので、それまで。開通してしまうと使えないので、実現できたとしても今回含めて3回でしょうね。もし今回、何かトラブルが起きてしまったら第1回で終わりかもしれません(笑)。私にとってあの壁(東横線開通時に外れる壁)って、ファッション・ショーができなくなるので壊して欲しくはないのですが、一方で壊れることがスゴク楽しみという気持ちもあるんですね。渋谷の地下から発信する未来へ向けた新たな試みと、副都心線渋谷駅構内のあの線路の新たなスタートは、私にとっても鳥肌が出るくらいすごい経験になると思います。

渋谷との出会いを聞かせてください北海道から上京して、一番最初に来たのが渋谷でした。センター街が見たくて。実家にいるときは、テレビドラマで出てくるセンター街の殆どは夜の風景ばかりで、「恐い」っていうイメージが強かった。初めて昼間のセンター街を見たときは、それほど悪い印象は受けませんでしたね。ただあまりの人の多さに「今日は『祭り』なのかな?」と。でもよく見ると祭りの雰囲気はなくて、ただ人が多い…。その後、「きっとここからいろいろなものが生まれているんだろうな」という思いで、とにかく「渋谷のまち」を歩きまわるようになりました。

最近は渋谷を利用されますか?「消費者が今何を求めているのか」を知るマーケティングの拠点として、渋谷を利用しています。例えば「shibuya109」、ギャルって部分が取りざたされて大人にはとちょっと踏み込みにくいイメージがあったりしますが、実際には世界のデザイナーたちが見に来る、つまり世界のファッションに影響を与えている場所なんですね。だから109の周りにくる子たちはよく観察します。一方で東急百貨店さんなどにやってくる大人の方達も見ますし。渋谷にはとにかくいろんな人種が集まってくるので、「人間ウォッチング」することで「次はコレくるな!」っていう流行を先読むヒントになりますね。ファッションってルールがなくて、流行も次にどれに火がつくかわからないんですが、僕が重視するのは「ちょっと浮いた格好をしているけどしっくりきてるな」っていうもの。単に「その人(モデル)が着ているからいいな」っていうものは流行にはなりづらいですが、それが一般の人達に受け入れられるかどうかがポイント。「コレいける!」と思ったら攻めますね(笑)


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