02 MEMORY 70 YEARS AGO
2022/6/28 公開
2013年に閉館した「東急東横店東館」の解体工事では、数年間の歳月を要した。なぜ、建物を壊すだけなのにそんなに時間がかかるのだろうか? かつての浅間山荘事件のように大きな鉄球を建物にドーンとぶつけて一気に破壊できれば良いのだが、現代ではそんな乱暴な方法が許されるわけがない。特に渋谷駅の場合は、JR山手線、埼京線、東京メトロ銀座線の3路線の運行を妨げず、かつ大勢の人びとが行き交う通路を一切止めずに安全に解体工事を進める必要がある。そのため、工事は終電後の午前1時から始発4時までの約3時間に限られる。さらに解体時、周囲に影響を与えやすい振動の強い重機は使えず、ワイヤーソーでコンクリートブロックを少量ずつ切り出しながら運び出さなければならない。繊細で手間のかかる作業を繰り返さなければならないのだ。2013年3月の東横線代官山駅地下化切替工事では、一夜にして地上線を地下線に切り替えるという前代未聞の大工事が行われたが、その際にも鉄道の運行を一切止めなかった。「東京の足を止めてはならぬ!」という日本の鉄道会社らしい美学さえ感じる。
下記の動画は代官山駅の切替工事の様子を、渋谷文化プロジェクトで制作・配信したものだが、世界各国からの視聴回数は290万再生(2022年5月時点)を超え、賞賛や驚きのコメントが多数寄せられている。
さて西館・南館の解体状況(2022年5月時点)であるが、2021年9月から始まった本格工事は、既に9カ月目を迎えている。11階建ての西館、8階建ての南館は現在、5階フロアまで解体が進み、だいぶ高さが低くなってきた。
渋谷スクランブル交差点のQFRONTからは、ハチ公前広場の後方に国道246号側の「渋谷駅桜丘口地区」建設中の高層ビルの姿が見えるなど、工事着手前と比べて、駅周辺の風景がだいぶ変わった。テレビのニュース映像からもそう感じている人が多いに違いない。
西館・南館は、5階フロアまで解体が進みコンクリートがむき出しになっているが、考えてみれば、11階建ての西館はもともと4階建ての玉電ビルを増築したものである。いわば、解体が進む現在の高さこそが、開業時の玉電ビルの高さに相当する。11階建ての西館(当時の東急会館)が完成したのは1954(昭和29)年であることを考えると、約70年以上前の渋谷駅の姿が、解体工事によって一時的とはいえ復活したことになる。2階から玉川線、3・4階から銀座線が飛び出し、さらに8階建ての東館屋上から4階建ての玉電ビルの屋上まで子ども向けの遊覧ケーブルカー「ひばり号」が運行するなど、現在の渋谷とも引けを取らない、近未来的な当時の渋谷駅の姿を思い起こさせる。工事風景を眺めながら、そんな想像を膨らませればきっと楽しみも倍増するはずだ。