03 DEMOLITION WORK
2022/6/28 公開
今回は特別な許可を得て、解体中の西館・南館の工事現場の様子を取材、撮影させてもらった。南館2階から、まずは山手線へ向かう階段下にあった「本家しぶそば」跡地へ。
既にコンクリートがむき出しの状態で店舗の面影は全く残っていないが、なんとなく、「かーきーあーげー」という注文を伝える店員さんの声が頭の中でこだまする。再開発後、しぶそばが渋谷の地に復活することを期待して待ちたい。
続いて、2階のしぶそば跡地から3階へ向かう。移動時の階段ホールには、壁面ペイントが2年前に東急東横店が閉店した当時のまま残る。3階に上がると視界が一気に広がり、広いスペースに出る。
ここはかつて「伊東屋」があった店舗跡だ。銀座に本店を構える文房具店「伊東屋」は、1975(昭和50)年に東邦生命ビル(現在の渋谷クロスタワー)に出店。2000(平成12)年に銀座線渋谷駅改札口の向かいの南館3階に店舗を移転し、渋谷で45年、東横店で20年の歴史を持つ文具店として愛されてきた。
窓ガラスには、まだ「ITO-YA」のロゴが残り、ここが確かに伊東屋であったことがわかる。さらに店舗から銀座線渋谷駅の到着改札口とつながる階段は、まだ解体されずに残っている。おそらくこれが見収めになるだろう。
かつて多くの人びとが乗降したホームの賑やかさはなく、ただ暗闇が広がる。その暗闇の先は、まだ銀座線線路が残る。2020年1月の銀座線渋谷駅の移設後も渋谷マークシティにある車両車庫への出入りのため、朝夕に銀座線はこの階段の奥を往来しているという。
さらに階を昇ると、解体中の5階フロアのコンクリートがむき出しとなっている工事現場の最前線へとたどり着く。この世は儚く移ろいゆくものだが、ここに立つとかつての賑わいがまるで夢物語であったような不思議な感覚を覚える。日中の工事が終わった現場は静寂な空気だけが漂っていた。
見上げれば目の前には、高さ約230メートルの渋谷スクランブルスクエア東棟がそびえ立っている。その後方には渋谷ヒカリエが覗き見える。渋谷スクランブルスクエア東棟の低層部には、ガラス窓は一切なく白い壁となっている。
実はこの白い壁の部分に「中央棟」(地上10階、地下2階建て、高さ約61メートル)が連結する形で建設される。さらに現在、私たちが立っている南館には「西棟」(地上13階、地下5階建て、高さ約76メートル)が建ち、3棟体制の巨大な渋谷スクランブルスクエアが2027年度中に完成する計画だ。東急東横店に代わる新たなファサードとして「次世代の渋谷」を担う。
その一方で、反対側の渋谷フクラス方面に目を向けると、渋谷フクラス2階部からタクシーの乗り場の中央部まで、歩行者デッキが伸びているのがわかる。一方向は直角に曲がり京王線側に向かうが、南館側に伸びるデッキは途中で行き止まりとなっている。
決してトマソン物体ではない。なんとなく想像がつくと思うが、ここに渋谷スクランブルスクエア西棟が接続するのだ。完成すれば、渋谷フクラスから渋谷スクランブルスクエア西棟・中央棟・東棟、渋谷ヒカリエまで、施設内を経由した移動が容易になることだろう。
さらに上から俯瞰して西館を見てみると、まるで断面図のように西館内に内包されている銀座線線路の筒状の部分が見て取れる(上記写真のピンク色の部分)。将来的には渋谷ヒカリエのヒカリエデッキから銀座線屋根上を通じ、渋谷マークシティまで歩いて移動できる空中回廊「スカイウェイ」の建設も計画され、今まで幹線道路や鉄道に阻まれてきた渋谷の東西移動がかなりスムーズになる見通しだ。
都市基盤整備を担当する東急株式会社の北村健太郎さんによれば、「ここまでの西館・南館の解体工事の進捗は、約1年半で全工程の30%程度。ここから銀座線線路を鉄骨で仮受けして、地上まで壊していくが、鉄道運行に影響を与えないように慎重に進めなければならず、今まで以上に難しい作業となる。地上までの解体工事の完了は、2024年度末になる見込み」だといい、地上に至るまでにトータル4年半の歳月を要するそうだ。その後、西館・南館の地下階の解体及び整備を進めながら、同時に中央棟、西棟の建設工事に着手していく予定だという。