BUNKA X PERSON

絵本「幸せな王子」X清水満里さん

幼い頃にだれもが出会う、金色の王子像と小さなつばめの物語。オスカー・ワイルド原作の「幸福な王子」が、清川あさみのテキスタイル作品と金原瑞人の新訳により、絵本『幸せな王子』として現代によみがえりました。これを記念して、ロゴスギャラリー(渋谷パルコ part1 B1F)では清川あさみのテキスタイル原画作品展を2006年3月15日まで開催中。「Yahoo! Beauty」などにファッション情報を提供するファッション・エディターで、「FASHIONSITE」編集長の清水満里さんが、糸や布を自由に操る清川あさみの独自の世界観 を鑑賞しました。学生時代、音楽やファッションのインスピレーションを渋谷という街から得ていたという清水さん。大人になった今、渋谷で出会ったアートは、その目にどう映ったのでしょう。
絵本「幸せな王子」(リトルモア刊)はこちら
「清川あさみ テキスタイル原画作品展」 (ロゴスギャラリー) はこちら

異素材から新しい世界を創り出す感性に刺激を受けて

--原画展を見た感想は?

実は私、清川あさみさんと同じ文化服装学院に通っていたことがあるんです。年齢も、清川さんの方が少し下ですがほぼ同年代ですので、一方的に親近感を持っています(笑)。ファッションに興味を持つ若い世代にとっては、カリスマ的存在ですよね。だからこの絵本を知ったときにも、とても興味を持ちました。絵本の中の作品も素敵ですが、写真は二次元でフラットなので、コントラストが若干強く見えますよね。原画を生で見てみると、布の素材感や糸目などがはっきりわかって、立体感や温かみを感じました。やわらかさがあって、“愛”を感じる…という印象です。

レースの下に柄の布を敷いたり、細やかなミシン目が張り巡らされていたりと、想像以上に精緻にできているのに感動しました。しかも下絵なしで作られているなんて…! 驚きです。どの作品も、アンティークのレースやビーズなど、さまざまなテキスタイルを組み合わせて作られている。その一つひとつの素材って、それぞれいろいろな人たちが作ったものなんですよね。 一人で描く絵画と違い、そういった“誰かが作ったもの”を集めて、新たな世界を創り出せるという感性が、清川さんの才能なのだろうと思いました。

--原画の中のどの作品が印象に残りましたか?

私が特に惹かれたのは、「蓮と仲間たち」などの明るいトーンの作品です。ヨーロッパの街並や、人々の悲しみを象徴するようなダークカラーの作品も印象的ですが、それらとは対照的な、夢の中のような明るい色が胸に響いて…。でも私、アートというよりはファッションの視点で見ていた面もあるのかもしれません。こんな柄の服があったら欲しいなとか、こんな生地の使い方もあるんだ、とか(笑)。私にとって、布地から抱くイメージって、中世から近世の女性たちなんです。端切れをチクチクと縫い合わせるような、手作業の温かみを感じる存在。そんな素材感を感じさせる清川さんの作品に、ファッションに携わる者として刺激を受けましたね。

絵/清川あさみ 訳/金原瑞人  絵本『幸せな王子』(原作/オスカーワイルド)より

新訳で見えてきた、人々の心情、神の視点

--この物語を、子どもの頃に読んだことがありますか?

もちろんあります。昔の絵本って、子どもが読むと、例えば人さらいにさらわられてしまいそうな気がしてくるような、底知れぬ暗さや怖さがありましたよね。『幸福な王子』もそれと同じで、小学生の頃読んだときには、悲しさや怖さを感じたのを覚えています。子どもの私は守られる側で、この物語でいえば、宝石を運んできてもらう立場だった。だから絵本に出てくる貧しい子どもたちに感情移入をして、不幸の影に怯えていたんだと思います。そして大人になった今、この『幸せな王子』を読んでみて、自分の視点が変わっていることに気づきました。与える側の気持ちも理解できるようになったんでしょうね。翻訳に現代感覚が取り入れられているので、王子とつばめの感情のつながりが読み取れるからかもしれません。施す側と施される側、両方の心情がわかりやすく描写されていて、子どもの頃には理不尽を感じた点も、リアリティを持って理解できる自分がいました。

--王子とつばめのしたことを、どんなふうに思いますか?

優しさって難しいなあと思いますね。王子とつばめがしたような、自己犠牲による施しが、必ずしも相手を救うことにつながらないこともあります。でも、この作品では、神の視点が描かれているんですよね。すべてを許して受け入れてくれる、私にとっての祖父のような存在…。そこに救いを感じるし、天使に見出された王子とつばめは、きっと幸せだったんだろうと思います。そういった物語の奥深い部分を、清川さんは俯瞰で見ているのでなく、子どもの頃に心で感じたそのままをうつしとって表現しているのではないかという気がします。だからこそ単なる絵本の挿絵とは違い、街並みにも人物にも、温かさや親しみを感じられるのだろうと思うんです。

ムダこそ文化!人々の生活を楽しくする情報を発信したい

--ずっとファッション情報の仕事に携わってきたのですよね。

私、中学生の頃からファッションにはとても興味があったんです。高校生になってからは、かわいいショップや洋服を探しに渋谷にも一人でよく来ていました。誰よりも早くおしゃれなものを見つけたい!という気持ちがあったんですよね。清川さんのように、ファッションやアートを作品で表現できる人もいますが、私の場合はそうではなかった。それに、文章を書くことにも興味があったので、ファッションの情報を提供していく道を選択したんです。おしゃれって、ある意味ムダなものですよね。でも、ムダなものって結構楽しい。私はムダ万歳!って思ってますから(笑)。それに、ライフスタイルと密接に結びついている文化でもある。そんなファッションの情報を広く発信したくて、この仕事を選び、続けています。

--今の仕事にやりがいを感じていますか?

現在は、Yahoo!のニュースカテゴリと、「Yahoo! Beauty」の中のファッション&スタイルコーナーに情報を提供しています。有名ショップの新作や、セレブのファッションバトルなどを紹介しているのですが、写真付きニュースの中でアクセス数がトップ3に入ることもあるほど注目度が高いんですよ。海外コレクションなどの情報が、一足先に自分のもとに届くことに対しては、「やめられないな--」という快感(笑)とともに、大きな責任を感じます。私が配信する記事が、日本の皆さんにとってのコレクションの情報になるわけですから、「さて、何を載せようか…」ってワクワクして、やりがいがありますね。自社サイトでも書いていますが、インターネット上の記事は、だれでも見ることができるので、消費者に近い情報といえます。さまざまな人が持つ、それぞれの興味を満たすことのできるサイトを作ることができたらうれしいです。これからも、人々の毎日がより楽しく豊かになる情報を発信していきたいと思います。

絵本「幸せな王子」
絵本「幸せな王子」 リトルモア刊(2月28日より発売)
判型:B5横 頁数:64ページ
価格:1,680円(税込)
絵/清川あさみ
訳/金原瑞人
撮影/今井智己
AD/中島英樹
原作:オスカー・ワイルド(Oscar Wilde『THE HAPPY PRINCE』1888年作)

■ストーリー全身金で覆われた、像になった王子の目に映るのは、街の人々の悲しみと苦しみ。偶然にも、王子のもとへ舞い降りたつばめは、王子の願いを叶えるため、彼がまとう金や宝石を貧しい人たちへと運びます。ふたりが、人々に運んだ幸せとは……。本当に大切なこととは何かを問いかける、王子とツバメの愛にあふれる物語。


■清川あさみプロフィール1979年9月15日、淡路島生まれ。文化服装学院在学中より雑誌のモデルとして活躍後、連載やスタイリングなどを手掛け、さらに糸や布を使ったアート作品、衣装、オブジェ、イラストレーションなどを発表。また、CMやキャンペーンのアートディレクション、舞台衣装なども手がける。オリジナリティ溢れる世界観が、アートとファッションの両面から注目を集めている。


■出版記念 展示会予定

「清川あさみテキスタイル原画作品展」 会 期 :2005年3月2日(木)-- 15日(水)10:00--21:00  最終日17:00に閉場
会 場 :ロゴスギャラリー 渋谷パルコpart1 B1F
入場料:無料

「清川あさみ×今井智己作品展」 会 期 :2006年3月17日(金)--4月9日(日)
平日 13:00--20:00(初日19時まで)
土日祝 12:00--19:00 月曜定休
会 場 :リトルモア地下
入場料:200円

清水さんにとっての渋谷とは? 家が渋谷の沿線なので、高校生のときは週に2回は通っていた思い出の場所です。洋楽、特にロックが好きだったので、よくHMVやタワーレコードに通いましたよ。おしゃれなショップを誰よりも早く見つけたくて、109で制服から私服に着替えて、一人でいろいろなお店を探検しました。それまでファッションビルしかなかったのが、神南エリアを中心に路面店ができはじめ、どんどん広がっていった時期だったので、ファッションだけでなく、フランス風のクレープがおいしい店とか、新しい発見が楽しくて仕方がなかったのを覚えています。

今後、渋谷に求めることは? 駅の周辺に、大人がほっと和めるカフェがあったらうれしいですね。駅の近くは、若い人が多くて混んでいるので…。でも、最近の若い人って優しいですよね。先日渋谷から乗った電車で一度席を立ち、また戻ったら、私が落としたストールがきちんとたたんで網棚に上げてあったんです。あれは隣に座っていた高校生がしてくれたんだと思います。 同じ沿線で、席を譲っている姿もよく見かけるし。渋谷にいる若者たちは行儀が悪いというイメージを抱かれがちですが、人目を気にせずいいことをする勇気を持っている若者もたくさんいる。それって、素敵なことですよね。

■プロフィール
清水満里(しみず・まり)さん
1976年生まれ。上智大学外国語学部でフランス語を学び、卒業後就職するが、ファッションの仕事に就くためには専門知識が必要と考え、文化ファッションビジネススクールに通う。卒業後、宝島ワンダーネット社でインターネットのファッションコンテンツを担当。その後、1年のフリー期間を経て、イーパブリッシング株式会社へファッション・エディターとして入社、2004年から取締役。

イーパブリッシング株式会社
渋谷区神宮前2-30-9-202
TEL:03-3403-2953 FAX:03-3403-2954

「FASHIONSITE」運営のほか、「Yahoo! Beauty」へのファッションコンテンツの配信など、ファッション、コスメや生活雑貨の編集・情報提供を多数手掛ける。

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