「渋谷キャスト」(旧渋谷宮下町計画)は、明治通りとキャットストリートの合流地点にあった「都営宮下町アパート」跡地の開発プロジェクト。東京都が所有していた都営住宅などの移転等を契機に、同都有地の有効活用と、周辺のまちづくりの起爆剤としての役割を目指し、「都市再生ステップアップ・プロジェクト(渋谷地区)」の第一弾事業として展開されている。
渋谷キャストのコンセプトは、「クリエイティブ産業の街“渋谷”を世界に発信するクリエーターズ・プラットフォーム」。明治通りとキャットストリート、渋谷と原宿の文化が融合する同エリアは、暖流と寒流がぶつかり合う潮目にも似ている。潮境はプランクトンが多く発生し、それを食べる魚が集まり、好漁場となる。2つのカルチャーがぶつかり合う同エリアも、多くのクリエーターたちが集い、交流や活動が盛んに行われる創造拠点としての役割が大いに期待されている。
今春(2017年)4月28日の開業を控えて、昨秋には「渋谷宮下町計画」の施設名称が「渋谷キャスト(SHIBUYA CAST.)」と決まり、その計画詳細も明らかとされた。高さ約71m、地上16階地下2階建ての複合施設。低層部には店舗やシェアオフィス、高層部にはオフィス・賃貸住宅が配置されるなど、「暮らす」と「働く」場を兼ね備え、渋谷らしい新しいライフスタイルを提案していく。「配役、(視線を)注ぐ」などの意味を持つ「キャスト」という施設名称は、多種多様な才能を持つ人びとが集い、一人一人が配役を与えられた俳優のように、個々の役割を果たしながらコラボレーションをすることで、新たな文化や才能を生み出す場となる意思を込める。また、キャットストリート側の玄関口には大きな広場が配置され、渋谷・原宿間の人の流れを呼び込む機能としても期待されている。
各フロアの構成は、1・2Fは「シェアオフィス&カフェ」。都内6カ所でシェアオフィスを展開する「co-lab」が入居。フリーランスや企業人のクリエーターが集まり、交流・連携し、オープンイノベーションを進めていく。1Fにはカフェスペースも併設し、シェアオフィス会員のほか、近隣ワーカーなどの一般客の利用も可能なスペースとなる。GF(明治通り沿い1F、美竹公園側からB1Fに相当)は「広場」「多目的スペース」。建物の外の広場は、この施設に集う人々に憩いの場を提供するほか、様々なイベントを開催して街のにぎわいを創出する。
多目的スペースは広場に面したフロアで、展示やギャラリー、セミナー、トークショー、レセプションなどの用途で活用していく。GFー1Fは「店舗」。東急ストアが展開する「小型スーパー」のほか、レストランやファッション雑貨店など、日常生活に彩りを与える4店舗がオープン。特にこのエリアには、今までスーパーが存在していなかったため、同施設の住人はもちろん、周辺で暮らす人びとにとっても買い物の利便性がグッとアップする朗報と言えるだろう。
2ー12Fは「オフィス」。オフィスフロアのテナントとして、渋谷を拠点とする「ベイクルーズグループ」の本社オフィス移転が決まっている。ジャーナル スタンダードやイエナ、エディフィスなどのファションブランドのほか、J.S.バーガーズ カフェ、ゴントランシェリエなど飲食店も数多く手掛ける同社は、渋谷を代表する成長企業の一つとして知られている。「co-lab」と共に同社の移転は、渋谷キャストが標榜する「クリエイターの創造活動拠点」に欠かせないメインキャストといえるだろう。そのほか、IT系やデザイン、アパレルなど、クリエイティブ企業の入居が予定されている。13ー16Fは「共同住宅」。1Rから3LDKタイプまで80戸の賃貸住宅からは、渋谷のまちを一望できる。13Fは専用の居住空間に加え、キッチンやリビングダイニングなどの共有スペースが設けられ、住人同士のコミュニティづくりをサポートしていく。さらに14Fは「サービスアパートメント」として、渋谷を訪れる国内外のビジネスマンやクリエーターなどの短期中期滞在のスペースとなる。
渋谷キャストの開業は、GW直前の2017年4月28日。再開発プロジェクトの開業としては、一番乗りを果たす。2020年の五輪を控え、渋谷ー原宿間の人の流れを加速させるハブとして大きな役割を担うことになるだろう。