渋谷川沿いの新たな水辺空間の誕生として注目されるのが、「渋谷ストリーム(旧渋谷駅南街区。2018年秋開業予定)」だ。渋谷川を挟んで西に旧東急東横線の高架、東に明治通り。渋谷駅周辺で唯一川が地上に顔を出し、渋谷と川の深いかかわりを感じさせてくれるエリアだ。2013年3月、東横線と副都心線の相互直通運転に伴い、東横線渋谷駅と代官山駅間の線路は地下化。その東横線旧渋谷駅ホーム及び高架が撤去された跡地には、“渋谷のオアシス”ともいうべきスペースが誕生する。
これまで渋谷川は降雨時を除いてほとんど水が流れていなかったが、この度、官民連携により清流復活水で水流を取り戻し、「壁泉」とよばれる水景施設を整備する。さらに、並木橋付近までの約600メートルの緑豊かな遊歩道とともに、渋谷川上空に広場を整備することにより、にぎわいと潤いに満ちた空間を取り戻す計画だ。渋谷と代官山、渋谷と恵比寿をつなぐバイパス、結節点としての役割も担い、街と街の連携および相乗効果をより高めていくことになりそうだ。
従来、渋谷の顔といえば、センター街や公園通りへの玄関口となるハチ公広場側をイメージする人が多いだろう。その一方、反対側に位置する渋谷駅南口は「渋谷の裏」「渋谷のB面」として、独特な雰囲気を持った場所であった。再開発による明るい水辺空間の創出は、渋谷駅直結の好立地な商業エリアを生むだけに留まらず、恵比寿・代官山方面への人の流れも大きく変える。多くの人びとが交錯しエネルギーに満ちたハチ公広場側に対して、癒しを与える水辺空間を有する同エリアは、渋谷のまちに新たな魅力をもたらしてくれるだろう。
2016年秋に「渋谷駅南街区」の施設名称が「渋谷ストリーム(SHIBUYA STREAM)」と決まり、その計画詳細が明らかとなった。高さ約180m、地上35階建ての大規模複合施設(延床面積約116,700平方メートル)。コンセプトを「クリエイティブワーカーの聖地」とし、ITや映像、デザインなど、様々な分野のクリエイティブワーカーたちが集い交流し、様々なチャレンジができる場を目指す。「流れ、小川、絶え間なく続く」などの意味を持つ「ストリーム」の名称は、緩やかに流れる渋谷川沿いの立地と、ここから世界に向けて新しいモノ・コトを発信し続けていきたい、という想いを込めたものだ。
各フロアは、1〜3Fに約30店舗の商業施設、4Fにクリエーター向けのコワ−キングスペースとスモールオフィスのほか、自転車通勤をサポートするサイクルカフェ、フットサルコートとしても使える多目的広場。9〜13Fに客室数約180室のシティホテル、14〜35Fに渋谷エリア最大級の総賃貸可能面積を誇るオフィス。そのほか、6Fにカンファレンスルーム、別棟には新製品発表会や音楽ライブなどの用途に応えるホール(収容人数約700人規模)が設けられる。昨今、職住近接の動きが高まっているが、オフィスと商業施設、エンタテイメントスペースを複合化し、「働くように遊び」「遊ぶように働く」「すべてが仕事ですべてが遊び」、そんな仕事と遊びがボーダーレスの人々にとって渋谷らしい自由な働き方や暮らし方を具現化する拠点となりそうだ。
JR渋谷駅方面から渋谷ストリームへの移動の最大の障壁が国道246号線だ。幹線道路は、今まで渋谷の街を南北に大きく分断してきたが、今回の再開発に伴い、JR渋谷駅方面と渋谷ストリームをつなぐ「国道246号横断デッキ」が整備される。実はこのデッキは、かつての東横線の高架橋が再利用され、新しい施設に旧東横線渋谷駅の遺伝子が継承されることになる。同デッキは渋谷ストリームの2階に直結し、そのまま渋谷川沿いに並木橋の先まで通り抜けが可能となり、代官山方面への移動の利便性が飛躍的に向上する。街と街の分断を解消し、新しい人の流れを形成する歩行者ネットワークとして重要な役割を担うことになりそうだ。渋谷川上空には2つの大きな広場が新たに整備され、東側の待ち合わせスポットとしても人気を集めるだろう。
2013年3月15日、多くの人に愛されつつ85年の歴史に幕を下ろした地上の東横線渋谷駅。その記憶を次代に残すべく、国道246号横断デッキの頭上には旧駅舎のアイコンであった「かまぼこ屋根」が再現される。線路の枕木方向に半円が反復して並ぶ屋根は、その形から「かまぼこ」と呼ばれて長く愛されてきた。今回の開発ではこのかまぼこ屋根に加えて、側面の目玉型の壁などの意匠も再現される予定だ。デッキのほか、渋谷ストリームの施設内のサイクルカフェ(4階)、オフィスロビー(5階)にもかまぼこ屋根をイメージしたアーチ型のルーフが取り入れられ、旧駅舎の記憶を刻むという心憎い演出が施される。開業は2018年秋を予定。復活する渋谷川の流れとともに、人の流れも空気も一気に変わりそうだ。