「渋谷駅街区」プロジェクトは、JR渋谷駅と旧東横線渋谷駅の駅舎、および駅に直結する東急百貨店東館・西館・南館などの商業施設全体を建て替える計画だ。2027年頃までに段階的に3本の超高層・高層ビル(東棟・中央棟・西棟)が建て替えられ、「渋谷の顔」となる玄関口がすべて一新される。五輪開催年である2020年までに、そのビル群のうち1本、渋谷駅の新たなランドマークとなる東棟(高さ約230m)が先行して開業することが決まっている(中央棟・西棟は、2027年度開業予定)。ちなみに東棟はセルリアンタワー(約184m)、渋谷ヒカリエ(約183m)の高さを50m近く上回り、渋谷最大級の商業施設が誕生する。オリンピックで日本を訪れる世界の人びとを、魅了する施設に間違いなくなるだろう。
もう一つ、東棟で注目すべき点がある。最上部、屋外と屋内からなる展望施設だ。渋谷随一の高さ(地上約230m)からの眺望は、代々木公園の後方に広がる新宿の超高層ビル群や六本木・都心方面、さらに西側には富士山など、素晴らしいパノラマが広がる。世界一人通りが多いとも言われる「スクランブル交差点」を眼下に見下ろす、渋谷のダイナミズムが体感できる「新しい渋谷の観光名所」としても楽しみだ。忠犬ハチ公像や渋谷スクランブル交差点、SHIBUYA109など、すでに観光都市としての知名度の高い渋谷ではあるが、駅上の展望スポットとして新たに加わり、渋谷のエンタテイメント性をますます高める装置となりそうだ。
同時に駅の通路や駅前広場なども一新される。人混みを避けながら行き交う状態の東口(渋谷ヒカリエ側)とハチ公広場側の自由通路を拡大。スリバチ状の地形を利用して、渋谷駅街区と宮益坂方面・道玄坂方面をつなぐデッキや、3階JR線改札・銀座線改札と道玄坂方面をつなぐデッキなどが整備されるなど、利便性の高い歩行者ネットワークが形成される。さらに東棟内には、渋谷ヒカリエと同じく、円柱の吹きぬけ空間である「アーバン・コア」を配置。地下の東横線・副都心線渋谷駅から地上や上層階へ、人びとの縦移動を誘導するアーバン・コアは、エレベーターやエスカレーターにより上下を結び、多層的な歩行者ネットワークが拡充される。特にスリバチ地形の谷底に位置する渋谷駅は、地下から地上、地上から坂上まで、歩行者にとって決して優しい移動ではない。簡便かつスムーズな縦移動の整備は、歩行者のストレスを軽減させる大きな役割を果たす。もう一つ、従来の渋谷駅はキャパシティがとても小さく、人びとがあふれ出し、常に大混雑が続いていた。駅周辺の通路を立体的に構成することにより、今まで以上のキャパシティを獲得できるという利点も生まれる。東京五輪を控え、人びとの来街増加が予想される中で、ストレスなくスムーズな人の流れを作るためには、アーバン・コアが最も重要なファクターとなるだろう。