渋谷区は都市における緑の減少に伴う、ヒートアイランド現象を軽減するため、全国に先駆けて平成13年4月に「渋谷区みどりの確保に関する条例」を施行し、屋上緑化に積極的に取り組んでいます。条例の施行から平成18年9月末までに、渋谷区の屋上緑化計画の申請数は498件、総緑化面積は73,392平方メートルに上り、都市型の緑地再生の方向性を見出してきました。では、次なるステップとして、屋上における農園や果樹園を作ることは、果たしてできるのでしょうか。渋谷区役所神南分庁舎で屋上緑化見本園の世話を続ける、環境保全課環境計画推進係の方に、都市型のアグリカルチャーの可能性について話を聞きました。
1. 渋谷から始まる“アグリカルチャー”という名の新しいムーブメント
2. お客さんの喜ぶ顔が見える場を―“朝市”から広がる農家と消費者のコミュニケーション
--いま屋上緑化見本園では、何を作っているのですか?
「渋谷区みどりの確保に関する条例」を策定に伴い、平成13年6月に神南分庁舎の屋上(320平方メートル)に実験を兼ねて緑化見本園を作りました。もともと業者さんがメンテナンスを行っていたのですが、現在は環境保全課の職員の中で、私はここやるから、あなたはこっちやってね、と土いじりが好きなメンバーで面倒をみています。大きくは洋風庭園、芝生、和風庭園、家庭菜園、果樹園に区分けしています。菜園ではサツマイモ、ジャガイモ、アスパラガス、ニラ、ネギ、春菊、ミント、カモミール、レモンバームやのらぼう菜、また市場ではすでに出回っているが、路地もののイチゴはこれから・・・。そして、こちらの果樹園では姫リンゴ、ブルーベリー、キウイなどを植えています。キウイは3年前から植えているのですが、まだ実ができないです。雄花は咲くんだけど、どうも雌花が咲かないみたいで・・・(笑)。
--どんな野菜でも作れるのですか?
菜園は土の盛り方を10cm、15cm、20cmと変えて、成長の度合いや、夏場の渇水期における水の保湿にどのくらいの差が出るのか試しています。また屋上であるため、土の下にウォーターバンクというスポンジのような保水層を敷いています。屋上菜園では、乾燥に強い植物を使い、弱い植物を使わないようにしています。例えば、サトイモは乾燥にすごく弱いんです。作ってみたところ、作れば作れないことはないんですが、かなり気を付けなければならない。なるべく手を加えないで作ろうと思うと、なかなか難しい。だから屋上菜園には、確かに適なさない作物もあると思う。でも、ミントのように比較的乾燥に強い植物であれば、問題なく作れますよ。まずは、それぞれの植物の癖を知ることです。
--屋上は風も強いと思うのですが、その影響はいかがですか?
樹木は、どうしても土厚が必要になりますが、重量を軽くするため、土の下の方にはパーライトのような鉱物を発泡させて軽くした素材を使っている地区もあります。また台風などの強風で木が飛ばないように、器具を使って木の根をしっかりと縛って固定しています。そうしないと高木・中木の場合、とても危ないですね。あそこにレモンユーカリの木がありますが、どんどん大きくなるので、ちょっとマズイなと感じて、少し前に安全な高さに木を切りました。それから当初心配だったのは、風で土壌が飛ぶのではないか、ということ。でもやっている中で、屋上に置くための土壌を上手に選択すれば、さほど問題がないことが分かってきました。菜園では主に風で飛びにくい中国の泥炭を使っています。なにしろ屋上では、軽くて、しかも風で飛ばないことが、一番大切なんですよ。
--セルリアンタワーや、マークシティーの屋上でも菜園はできますか?
高層ビルはものすごく風が強く、樹木などは難しいので、植えるなら高木ではなく、芝や草花など、背の低いものにするしかない。また高すぎてチョウや鳥などもいけないこともあるので、受粉が必要なものは避けた方が良いでしょうね。ちなみに、ここ神南庁舎にはとにかく鳥や昆虫がたくさんやってきますね。昨年、発泡スチロールの箱で稲を作ったのですが、穂が付いたとたんに雀がやって来て、全部食べられちゃいました(笑)。当然、網もするんだけど、隙間から入ってしまうんです。でも、たくさん鳥たちが菜園に来るのも楽しいので、あえて撃退したりはしませんよ(笑)。
--風以外に神経を遣うことはありますか?
植栽全体の重さにもすごく気を遣っています。この建物は昭和40年代のもので、屋上の耐荷重は出来た当初は1平方メートル当たり300kgまでは大丈夫と言われていましたが、建物も老朽化しているため、1平方メートル当たり180kgのルールを作ってやっています。土の重さに、土に吸収される水分の加重も考慮しなければなりません。また、そこにあるポリバケツに90リットルの水を入れていますが、その周りにはなるべく重いものを置かないようにしています。ですから、土だけではなく、枕木だって、なるべく軽いものを選んで使っていますよ。
--農薬や化学肥料は利用していますか?
屋上では、原則的にそういったものは使いません。自然農薬みたいなものが基本。害虫がいたら、それを食べる益虫がいて、益虫を殺さないために殺虫剤は使いません。アブラムシなら、アブラムシを食べる益虫がいるので、それを大事にする。それでも足りない場合は、石鹸水などのような環境に影響のない範囲ものを使用するようにしています。また肥料は堆肥など有機的なものを使用し、化学肥料は一切使いません。周囲への環境も配慮し、影響のないものを使うようにしています。
--これからの都市型の「農」とは?
渋谷区には農家がいる、とは聞いたことはありません。でも、こうした屋上や様々なスペースを利用して、これから菜園や果樹園が増えていく可能性は十分考えられます。実際に、廃校となった原宿中学校を利用して福祉施設「渋谷区ケアコミュニティ・原宿の丘」では、NPOが運営している屋上の実験農園がありますし、また渋谷区立中幡小学校では校庭の端に大きな畑を作って、先生と子供たちが農業体験学習の一貫として様々な野菜づくりに励むなど、都会、渋谷で菜園を楽しむ人は確実に増えています。最近は芝、セダムなどでマンションの屋上を緑化して、住人たちの憩いの場として活用する例が多くありますが、そのうちに住人の中には、実際に自分で花や野菜を育てたいという声も高まっていくのではないでしょうか。都会に生きる現代人は、きっと土に手を入れることを欲していると思いますよ。もし、家の屋上を緑化したいと考えている人がいるなら、私たちはこういったやり方がありますよ、って教えることができます。ぜひご相談ください。
(編集部より)東京、渋谷における都市型の“農”のこれからの在り方と可能性について伺ってきました。日本の自給率は40%、農家のいない渋谷だけを考えれば、その自給率は極めて0%に等しい現状です。家賃が高く、スペースのない都会において、唯一、残されている空き地こそが屋上と言えます。道路がどんどんアスファルトと化し、土の見える場所が次々に消えてなくなる中で、屋上スペースを菜園、果樹園化していくことは、地球温暖化や食量難を解決する糸口になるばかりか、私たちの精神的なバランスを取る意味でも大変有意義なことかもしれません。今後、「渋谷産」という表記の付いた野菜が、市場に出回る日は思った以上に近いかもしれませんよ。
神南分庁舎屋上の一般公開について | |
住所: | 渋谷区宇田川町5-2 渋谷区役所神南分庁舎 |
電話: | 03-3463-1211(代) |
曜日/時間: | 月〜金曜日(祝日を除く)午前9時〜午後4時30分 ※神南分庁舎3階環境保全課で受付をしてください。 |
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