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アウェイ・フロム・ハー 君を想う

上映・公演は終了しました。

2006年/カナダ/110分/配給:ヘキサゴン・ピクチャーズ+アニープラネット

本年度のゴールデン・グローブ主演女優賞を受賞し、アカデミー賞の主演女優賞(ジュリー・クリスティ、ドラマ部門)、脚色賞の2部門にノミネートされた、美しくも切ない愛の物語。

 『スウィートヒアアフター』や『死ぬまでにしたい10のこと』などで注目され、“過去10年間でカナダが生んだもっとも偉大な役者のひとり”と評価される女優サラ・ポーリー。短編で監督としての手腕を発揮してきた彼女の長編映画デビュー作『アウェイ・フロム・ハー君を想う』は、アリス・マンローの短編「クマが山を越えてきた」を自ら脚色し、メガホンをとった大人のラブストーリーだ。ポーリーは若干という表現がぴったりの29歳だが、複雑な人間心理を巧みな演出と映像で表現し、完成度の高い成熟した作品に仕上げている。
 結婚生活44年目となるフィオーナとグラントを中心に展開するのは、記憶と夫婦生活を軸にした美しくも切ない愛の物語。大学教授とその教え子だったインテリ夫婦が突然、予期しない事態に見舞われるところからドラマはスタートする。陽気で美しい妻フィオーナの物忘れが次第に激しくなり、やがて医師からアルツハイマーと診断される。現実を受け入れることを拒否する夫妻だが、帰宅の道のりを忘れたことでフィオーナは老人介護施設への入所を決断する。フィオーナの病気は、長きに渡る夫婦関係のなかで記憶がどのように作用するかのメタファーだ。人間は“残したい記憶”と“忘れたい記憶”を選択できるが、極限下でそれは可能なのか? 時折よみがえるフィオーナの記憶をビジュアル化することで完璧に見える夫婦の間に長年横たわっていたヒビをほのめかす演出が見る側の不安をあおり、夫妻が直面するであろう厳しい現実を予感させる。
 ジュディ・デンチ主演の『アイリス』や若者に支持された『きみに読む物語』などアルツハイマーがテーマとなった作品が近年、注目されている。病気のつらさを前面に押し出すスタイルが共通していて、お涙頂戴のクライマックスとなっている。それに対しポーリーは、病気の妻を見守る夫に焦点を当てている。グラントが愛妻の病気と対峙し、忍耐と自己犠牲、真の愛の在り方を学んでいく過程は意外だが非常に前向きで崇高な雰囲気さえただよう。愛妻の人生から存在が欠落してしまう孤独感と寂寥感を受け入れる姿、悲しい状況下で見いだした永遠の愛を糧に再生する男の心の旅路をポーリーは叙情的に描き、幾重にも重なる心模様を浮かび上がらせる。夫婦愛の素晴しさ、そして夫婦の絆を再確認させてくれるドラマはまさに、<21世紀の『ある愛の詩』>と呼ぶにふさわしい。
 原作者マンローは、2005年にはタイム誌が選ぶ「世界でもっとも影響力のある100人」に選出されたこともあるカナダを代表する作家のひとり。人間の心の機微を丹念にすくい取る深い洞察力はもちろん、女性らしさと骨太さが共存する文体、皮肉なユーモア感覚に満ちた作品はベストセラー・リストの常連でもある。「好きなものはそのままであってほしいから、小説を安易に改作するのは好きではない」と語るポーリーは、マンロー作品のエッセンスを忠実にスクリーンに写し出すことに成功している。
 ヒロインのフィオーナを演じるのは、『ダーリング』でオスカーを受賞後、テレンス・スタンプやウォーレン・ベイティとの恋愛で映画界をにぎわせたジュリー・クリスティ。オスカー候補となった『アフターグロウ』以来、客演やカメオ出演はあるものの積極的に女優活動をしていなかった彼女が10年ぶりに主演に復活。ハル・ハートリー監督の『No Such Thing』で共演したポーリーに請われたこともあるが、彼女の才能に感服し「サラの初監督作のヒロインをほかの女優に演じさせたくない」と思ったそう。記憶を失いつつあるなかで、表には出なかった脆さや傷つきやすさが顕著になるフィオーナをエレガントに演じている。記憶のかけらが蘇りそうになる瞬間の表情にさまざまな思いをよぎらせる巧みな演技でゴールデン・グローブ賞主演女優賞を獲得したばかりだ。夫グラントにはカナダ映画界のアイコンでもあるゴードン・ピンセント。無表情のなかに深い哀切をにじませるというカリスマティックな快演を披露している。フィオーナが愛情を寄せるオーブリーを演じるのはマイケル・マーフィ。言葉を発しない身体不自由者という難役に挑戦し、見事にねじ伏せた。オーブリーの妻でマリアン役のオリンピア・デュカキスがドラマにスパイシーな味わいを加えている。老いた伴侶を介護する境遇を受け入れていたが、グラントとの出会いで人生の新たな一歩を踏み出す勇気を得るマリアンの微妙な女性心理をリアルに演じ切った。すべてのキャスティングはポーリーが脚色中から考えていた通りだが、素晴しいアンサンブルの実現で物語にさらなる深みが出たといえるだろう。

洋画

監督:サラ・ポーリー 出演:ジュリー・クリスティ、ゴードン・ピンセント、オリンピア・デュカキス、マイケル・マーフィー

料金:施設参照

※表示されている料金は全て税込みです。
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