善き人のためのソナタ
上映・公演は終了しました。

2006年/ドイツ/138分/配給:アルバトロスフィルム
1984年、東西冷戦下の東ベルリン。国家保安省(シュタージ)局員のヴィースラーは、劇作家のドライマンと舞台女優である恋人のクリスタが反体制的であるという証拠をつかむよう命じられる。成功すれば出世が待っていた。しかし予期していなかったのは、彼らの世界に近づくことで監視する側である自分自身が変えられてしまうということだった。国家を信じ忠実に仕えてきたヴィースラーだったが、いつの間にか反体制のはずのドライマンとクリスタの自由な思想、音楽、文学、生活、そして愛に影響を受け、今まで知ることのなかった新しい人生に目覚めていく。ふたりの男女を通じて、あの壁の向こう側へと世界が開かれていくのだった・・・。
東西ベルリン統一から17年。ようやく明かされた監視国家の驚くべき真実。
1989年のベルリンの壁の崩壊は、その3年後に起こったソビエト連邦の解体と並んで冷戦時代の終焉を告げる最も重要な出来事であった。しかし共産圏の中では最も経済的な発展を遂げたと言われ、強固な共産主義体制を確立していた旧東ドイツ(旧ドイツ民主共和国)でその支配の中枢を担っていたシュタージについては、東西ドイツ統一後も、長い間映画のテーマとして描かれることはほとんどタブー視されていた。そして17年を経た今、やっと人々は重い口を開き、当時の状況を語り始めた。
『善き人のためのソナタ』はベルリンの壁が崩壊する5年前の東ドイツを舞台に、その残忍さ、非情さにおいてナチス時代のゲシュタポにも比較されるシュタージという強大な監視システムに初めてメスを入れ、一党独裁の恐怖統治内部のおぞましい腐敗と愚劣な為政者たちによって翻弄される芸術家たちの苦悩を浮き彫りにした見事なヒューマン・ドラマであり、哀切極まりないラブ・ストーリーである。本国ドイツでは06年3月に公開されて以来、既に155万人の観客を動員、6ヶ月以上に渡るロングランを現在も更新中、また07年度のアカデミー外国語映画賞ドイツ代表にも選出されている。
「この曲を本気で聴いた者は、悪人になれない」
この緊迫感に満ちた物語は、ヴィースラー大尉がシュタージ文化部部長グルビッツから、劇作家ドライマンとその恋人で同棲している舞台女優クリスタを監視し、彼らが反体制である証拠を見つけるように命じられたことから始動する。彼はドライマンのアパートに盗聴器を設置し、屋根裏に陣取って四六時中監視を続けることになる。ある日シュタージによってあらゆる創作活動の権利を剥奪され、無力感にとらわれている演出家イェルスカがやってきて、ドライマンに “善き人のためのソナタ”という曲の楽譜を贈る。「この曲を本気で聴いた者は、悪人になれない」という言葉と共に。
盗聴器を通して聞こえてくる人間味に溢れた言葉、交わされる愛、そして美しい、天からもたらされたようなソナタ・・・。それらに耳を傾けているうちに、次第にヴィースラーの内面に変化が生じ始めるのだった。深く愛し合っているはずのふたりを引き裂き、分断させ、相互不信へと追いやってしまう理不尽な権力による支配・被支配の歪んだ構造。それらがやりきれないようなリアルさで見事に浮かび上がってくる。
東ドイツに定住した数少ない知識人、ブレヒト。
ヴィースラーがふたりの芸術家に仄かな共感を抱くきっかけとなるのが、ドライマンの部屋からひそかに持ち出したブレヒトの詩集であったことは、きわめて示唆的といえよう。
叙事的演劇を提唱し、<異化効果>の概念を生み出した二十世紀を代表するドイツ人の劇作家・詩人であるベルトルト・ブレヒトは、ナチスが台頭するとアメリカに亡命し、赤狩りの風潮のなかで非米活動委員会に喚問されるやアメリカを去り、東ベルリンで没した。生涯、あらゆる非人道的な権力機構に抵抗し表現の自由を求めて闘った偉大な作家ブレヒトは、最晩年に「いつとは誰も分からぬものの、いつの日にか実現することは誰にでも分かっているドイツ統一。それは戦争を通して成し遂げられることはあるまい」と語っている。ブレヒトにとって東西ドイツの統一は、最後に残されたかけがえのない希望にほかならなかったのである。『善き人のためのソナタ』には、自由、世界の変革を求めてやまなかったブレヒトのラディカルな思想が通奏低音として流れているのは間違いない。
一流の俳優とスタッフを惹きつけた、新人監督の渾身の作。
初監督作にして世界で大絶賛を浴びるのは、弱冠33歳のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク。歴史学者や目撃者への取材、記録文書のリサーチに4年を費やし、人類史上最大の秘密組織・シュタージの内幕を驚くべき正確さで描いた本作は“近年のドイツでもっとも重要な映画”と称賛された。
出演は、自身も監視された過去を持つ東ドイツ出身の名優ウルリッヒ・ミューエ(『ファニーゲーム』)。変わりゆくヴィースラーの哀しみと歓びを静かに物語る。ほかにもドナースマルクの脚本は、その完成度の高さから、マルティナ・ゲデック(『マーサの幸せレシピ」』)、セバスチャン・コッホ(『トンネル』『飛ぶ教室』)、といったドイツの一流の役者たちを惹きつけた。
製作陣には撮影に、『壁のあと』のハーゲン・ボクダンスキ、編集は『名もなきアフリカの地で』や『ビヨンド・サイレンス』のパトリシア・ロンメル、そして音楽は『リプリー』や『イングリッシュ・ペイシェント』でアカデミー賞を受賞したガブリエル・ヤレドが担当し、美しいソナタを提供した。ドイツ映画が新境地を求めて世界的に通用する音楽を選ぶのは珍しいが、監督の強い希望により製作の初段階から母国語をフランス語とするガブリエル・ヤレドに翻訳台本が送られ、パリやロンドンで何度も話し合いがもたれた。ヤレドはこの映画の製作陣に敬意を示し台本段階でこのプロジェクトに加わることに同意、哀しく美しいピアノ曲“善人のためのソナタ”を提供した。また、レコーディングは世界でも最高峰のプラハ交響楽団によって行われた。
洋画
監督・脚本:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演:ウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ
料金:施設参照
※表示されている料金は全て税込みです。
※やむを得ない都合により、開催スケジュール及び内容が変更になる事があります。詳細は各主催者へお問い合わせ下さい。







