渋谷は、あらゆるノリが混然となってうごめくミクスチャーな街
あのグチャグチャ感は、ロンドンもニューヨークもかなわない
田中知之 (Fantastic Plastic Machine)
DJ/プロデューサーとして国内外で活躍。ダンスミュージックに自身のルーツを散りばめた独自の音楽スタイルがワールドワイドに支持され、海外約50都市でプレイするほか、国内外の様々なブランドのパーティー、ショーでもDJや選曲を務める。また、リミキサーとしてもFATBOY SLIM、James Brown、DJ OZMA、小泉今日子などの楽曲を手がけている。2009年4月29日には大沢伸一、☆Taku Takahashiとともに、avex20 周年を記念したプロデューサーユニット・ravex(レイベックス)名義でアルバム「trax」を発売。
--そうした問題を抱えているクラブは、日本以外にもありますか?
もちろん国によっていろいろな弊害があります。カリフォルニア州では、バーも含めてお酒を深夜2時以降に提供してはいけないという規制があるので、クラブの営業も2時までです。カリフォルニア州では、夜中のお酒はプライベートな空間でしか飲めません。だから「東京だけが」とは言えませんが、それでもやはり大人が踊ることが怒られるという風営法には納得できません。結局現在は誰もがそうした状況に甘んじてあきらめているという状況です。僕は、大の大人が夜中に踊ることは、そんなに罪なことであるはずないと思います。法に守られることによってクラブミュージックがより健全で安全なものになっていけばいいと思います。
--渋谷のクラブシーンの特徴を聞かせて下さい。
渋谷では円山町にクラブが多く並んでいますが、正直なところ「安全な場所」というには円山町は説得力に欠ける部分もあります。僕だって、ラブホテルの入り口の横にクラブの入り口があるのはどうかなと思うし、イメージとしてあまり良くないですから…。ただ、騒音などのナーバスな問題をクリアする組み合わせとしては面白い。そんな所は世界中を探してもありません。僕らは、海外から渋谷のことを質問されると、いつもあの渋谷のメルティング・ポットな、何でもありな感じを伝えてきました。ここ10年ほどは、海外のインタビューなどで「ああいうところで遊んだり、飯を食ったり、DJしたりしている俺らがつくる音楽が、いろんなものとのミクスチャーになり、どんどんケオティックになっていくのは当然だと思う」という風に答えてきました。渋谷のあのグチャグチャ感は、ロンドンも、パリも、ニューヨークもかないません。
--あのグチャグチャ感はどこから生まれるんでしょう?
渋谷は若い、新陳代謝が激しい感じがします。やはり若い人があれだけ集まると、とんでもないものが出てきますからね。もちろん渋谷にだって昔からの老舗もあると思いますが、若い人が多いということは悪いことではない。ガングロだって一つの文化ですよね。僕は、海外の何者にも影響されない、純粋に国産の文化や風俗が生まれることは非常に好ましいことだと思っていて、そういう意味で、渋谷には独自のファッションやトライブを感じます。それを僕らが理解できるかどうかという問題はさておき…。あまりにも独特なので、その辺りには海外の人も注目します。渋谷の文化を海外の人が模倣するような流れもあったり…面白い場所です。
--今後、渋谷にどのような変化を期待しますか?
結局どんな場所でも、廃れていくものは廃れ、淘汰されていきます。その中でも、渋谷という場所で勝ち残っていくことは、難易度の高いことだと思います。実際にレコード屋さんだったところもどんどん違う店舗になっていますし。渋谷は新しい業態が生まれたり、新しい飲食店が来たり、放っておいても勝手に新陳代謝していく街です。計画的な再開発でどうこうできる次元は超えていると思います。恵比寿、代官山辺りだったらそういうことも可能でしょうが、渋谷については現実が先を行っていて、計画なんて誰も信用しないというか、目先のことで精一杯というか…。ある意味では、そちらの方が健全ですよね。
--現在の音楽ユーザーをどう捉えていますか?
音楽との出会い方がどんどん変わってきています。最近の若い人は、CDのことを「マスター」と呼ぶそうで、その「マスター」をパソコンに取り込んじゃったら、そのパッケージを持っていることがダサいから捨てちゃうという話を聞きました。音楽との関わり方が、これまでとは全然違う人たちが生まれてきています。ただ僕は、マテリアルに対する執着は変わっても、ライブ感に対する反応や期待は変わらないように思います。そういう期待が僕らにあるから、まだ音楽のビジネスをやっていられる。渋谷からレコード屋が減ろうが、CDがマスターと呼ばれようが、アナログレコードをプレーヤーで再生する機会が少なくなろうが、音楽に対する世の中の欲求というのは決してなくならないと思っています。渋谷のクラブでDJして、お客さんがすごくいい笑顔を見せてくれる。それが答えなのかな…と。音楽から人が遠ざかったわけではないんですね。
--ライブ感を得るには、場所や時間を共有することが大切になってきますね。
渋谷には、音楽だけでなく、例えばお笑いのライブを無料でやっているところ(ヨシモト∞ホール)もあります。お笑いのライブも、テレビのブラウン管を通して見るものと、劇場で見るものとはまるで違う。空気感は絶対に配信できないし、販売もできません。食についても、渋谷のムルギーでカレーを食べたら、通販で買ったものを食べるよりおいしいし、洋服にしても、実際に人とコミュニケーションして買う楽しさや、手に入れる瞬間の喜びってありますよね。いろんな意味で、ライブは生で感じるもの。でも今は便利な部分を優先することで、そういうライブ感をみすみす逃してしまうような部分はあります。自分にとっての反省点でもありますが。でもそうは言っても、やはり、そうしたライブ感はなくならないだろう…という期待はあります。
--音楽と渋谷の結びつきが強くなるといいですね。
音楽だけに突出してほしいというよりも、いろんなものが混然一体となっているところがいいんじゃないでしょうか。それぞれの要素がバランス良くあればいいと思います。それでもどんどん淘汰は起きるでしょうが、渋谷の街に受け入れられなくなったからといってすべてが駄目なわけではなくて、今の渋谷の街のあり方というのが、そういう形なんじゃないかなと思います。
--大沢伸一さんとTakuさんと一緒に、4月にアルバムを出しますね。
これはエイベックスの20周年企画で、大沢伸一さんと、m-floの☆Taku Takahashiさんと一緒にプロデュースチームを組んで、ravexとして活動を始めました。ちょっと面白いことをやろうということからスタートした企画なんですが、1年以上にわたるレコーディングを経て、ようやくアルバムの発売が4月29日決まりました。
--今後の展開について教えて下さい。
音楽を手に入れる方法は今後どんどん変わっていくでしょうから、音楽ビジネスのあり方も、今までみたいにレコード会社がCDだけを売って大勢の社員を食べさせてきたようなことは、多分難しくなっていくだろうなと思います。ただ、お金を得る手段や方法は当然変わるでしょうが、音楽そのものは決してなくならないと思っています。ただ、作り手側からすると知的財産みたいなものをきちんと分配していく仕組みが整備されていけばいいという期待はあります。でも一時みたいに、コピーコントロールCDは生産されなくなってきていて、それはやはり音楽を知る機会をなくすのは良くないということだと思いますし、難しい問題ですね。個人的には今、昔のレコードを買うことにはまっています。50年代のジャズのオリジナル盤とか…というのも、そういうものは絶対に配信では手に入らないので。音も今のCDとは全然違って、アナログならではの深みがあります。すでにレコードを2万枚以上持っていると思うのですが、この間確定申告をしたら、2008年が人生で最もレコードを買ったことがわかりました。今は逆にそういうものが面白いというか、尊く感じるようになりましたね。
■リリース情報
アーティスト:ravex(レイベックス)
タイトル:trax(トラックス)
発売日:2009年4月29日
品番:[CD+DVD]AVCD-23790/B [CD]AVCD-23791
価格:[CD+DVD]¥3,990(税込) [CD]¥3,059(税込)
エイベックス創立20周年記念+手塚生誕80周年、Mondo Grossoの大沢伸一+Fantastic Plastic Machineの田中知之+m-floの☆TakuTakahashiによる話題のプロジェクト=ravex(レイベックス)のアルバム『trax(ト ラックス)』が遂に完成。
■参加アーティスト
安室奈美恵 / 東方神起 / LISA / 土屋アンナ / BoA / 千紗(GIRL NEXT DOOR) / 後藤真希 / TRF / VERBAL(m-flo) / MONKEY MAJIK / 安藤裕子 / DJ OZMA ※収録順