まちづくりに「でかいハードがなきゃ」という発想は不要。
渋谷全体が学校になり、みんなが学びに来る街に――。
マーケティング・コンサルタント、株式会社ジャパンライフデザインシステムズ代表取締役社長、立命館大学大学院経営管理研究科教授。1942年生まれ。武蔵野美術大学造形学部産業デザイン科卒業。経営戦略の立案、地域活性計画まで幅広く活動。時代を週単位で分析し続けている週刊「NEXTHINK」はウィークリー情報分析誌の草分け的存在。21世紀の商業、観光、産業の経営を学ぶ「文化経済研究会」を主宰。その他、日本デザイン機構・理事、京都ブランド研究会・座長等を務める。東京都市大学都市生活学部(2009年4月開設)客員教授就任予定。近著「ブルーバード・マネジメント」「世界目線構想力」「ライフスタイルコンセプト」ほか多数。
--文化の集積に当たり、「時」にこだわる理由は?
時を過ごすということは、生きていることの実感です。ですから、ライブが重要だし、そのためにシアターが必要。例えば、東アジアの中から世界に向けてプレイヤーオンステージのチャンスを作れば、ショートフィルムがファクターになって、今まで映画をやらなかった連中が出てきています。例えば、ショートプレイ、短い演劇を30分に限定して世界から募集するとか…。監督は蜷川幸雄から世界のすごい人まで、「あーら」って言って、それだけでもずっと見ていたいと思います。3時間や5時間と言われればしんどいですが、30分劇の3本セットを順番にやるなら、見られますね。私は、演劇は生き方、生き様、考え方を伝えていく最もライブな芸術だと思います。総合芸術はバーチャルである映画から、演劇に移っていくっていう流れがこれから出てくると思います。それは高い限定思想の中にあるからこそです。もちろんそれを放送で公開してもいいと思います。私は、美術などのように細分化されたものではなく、もっとライブシアター的なアーツが重要だと思います。そう考えると、渋谷は「動画」で行くべきだと思います。動画といっても、フィルムではなく、それ以上に「ライブ」性が意味を持つ演劇を主体にして、ミュージカルとか、ダンスとか、直接感動を得ることのできるリアリティーのある祭典というようなものを渋谷に望みます。渋谷全体がシアターであり、ステージであるという具合に育っていくと、これはすごいですよ。
--渋谷を世界的な視座で捉える、ということですね。
渋谷は、住んでいる人の街にしちゃ駄目です。世界の人にとっての渋谷にしなければ。そのことを心得て、非常にイメージがいいから渋谷に住んでいるという具合に反転しないといけません。例えば、カンヌは5万人ちょっとの町ですが、隣のニースは35万人。しかし、カンヌの方が有名になってしまったのは、カンヌの映画祭があったからです。カンヌ国際映画祭は、30年で世界の映画祭になりましたが、最初に発案したのは、カンヌの市役所のやる気のある、たった1人でした。
--構想が大きいですね。
結果を急いではいけません。黙って続けることでしょうね。「今回どうだろうな」なんて、そういうこと言うんじゃない。やると言ったら、黙って10年。10年やったら100年やる。それが100年の計です。目先の結果を待つよりも、100年の計を立てるべきです。100年ぐらいやれば、世界が次につながる。知恵は、一時の対応策では駄目です。今、百貨店もしょうがないから、ちょっと安くしようとかやってますでしょう。そういうのは存在価値を自らなくしています。モノが求められている社会が終わろうとしているのに、モノを安くしたら売れるとまだ思っているというのは、商人ではっても、何を引き受けたかを忘れてしまった人々だと思います。今は、何が大事なのかを問いかけ、そこに戻る時。街は何が大事なんだろうかと。それをあまり考えないうちから、「渋谷どうするんだ」みたいなことをやると、私はやはり駄目だと思います。地球社会がやってきたわけですから、地球社会の中で貢献と役割を引き受ける都市でないと、地球都市としては残れません。ですから、我々は日本の東京のローカル都市である渋谷を、何か儲かる場所にしようという発想を、世界の都市に変えていく。世界の都市の小型都市が集結したのが東京であると。東京という都市は、つまりフレームに過ぎないわけですね。
--大きな構想ですが、実行には現実的な作業が必要になりますね。
私は小さな単位から行くことがまず大事だと思います。先も言いましたが、結果を急いではいけません。1,000軒のギャラリーが集結するためには、まず10軒。今渋谷にギャラリーは10軒どころかもう少しあります。その中で、いいところを褒めてあげることが大事です。褒めると、それは情報化されますから。褒めるに値するものは少ないので、そこにトライアルしようという人も出てきます。それをコツコツ積み上げれば、だんだんとギャラリーは増えていきます。速度を上げることもできますが、ある程度時間をかけないと駄目。100年の計というのは、少なくとも10年単位の計を持たないと。100年に向かって、あと20何年かあるとすれば、やはりあの何もなかった焼け野原から生まれて、ビジョン、構想力があって、当時は野心と見られたけども、そういう流れがあって、今日があるわけです。これからは21世紀へのビジョンを語る。どこが、誰が語れるのだろうかというのが、これからの企業戦略だと思います。例えば、百貨店の売り場を全部10坪に仕切って、全部ギャラリーにして貸しちゃったらどうだろう。全部貸すのが嫌だったら、まずワンフロア貸したらどうだろう…と。変なバーゲンをやっても人は来ないのであれば、いっそ全部ギャラリーにしてみる。すると、オープニングがあったり、歌舞伎の小袖衣装だけの展覧会をやりたいという話があったり、いろいろな提案が生まれます。例えばその時は、江戸美術という特集をやって、みんなにやってもらうとか。結局そういうのは、告知と組み合わせと回数ですから。それに対して、時折ボーンボーンと勢いを付けるのが、渋谷のカルチャーカーニバル100とか、例えばそんなコンセプトになってくるのでしょうね。
--「世界」へ向くとき、どの地域を意識するべきでしょうか?
もう少しアジアの文化に貢献する必要が私はあると思います。アジアはそういうステージシティーを持ってないために、まだ姑息(こそく)で後進的なところがあります。ですが、もう文化的に伸びるエリアはアジアしかありませんから。しかも、日本は東の果てです。この東の果てから太陽が昇ります。東洋という言葉には、オリエンテッド、つまり第一主義という意味があります。日本のマークが日の丸であるのは、日本から見た日本じゃありません。世界から見た日本をマークにしているのです。20世紀は、アメリカをリーダーシップにした力の、文明の時代でした。21世紀の文化とは多様性そのものです。そういう意味でも、次の未来オリエンテッドを我々が引き受け、あえて少数民族と呼びますが、そういう人たちが集団を形成していく時に、彼らにチャンスを与え、その多様性を受け入れて行く――これこそが21世紀の豊かさであり、文化だと思います。
--「時」を生み出す原動力は?
一番重要なことは、やはり募集するということです。アイデアも常に募集するし、コンテストそのものが募集です。つまり、世界の人の力を借りるわけです。やろうという人にチャンスを与え、そのエネルギーを借りて、ステージに乗っていただく。だから、こちらとしては、演劇・ライブだったら、そのステージをプロデュースする――という概念でやる必要があります。それを金でやろうと思ったら、誰か連れてくることになり、誰がその金を払うんだみたいな話になります。ただ、そういうことも場の価値観が上がってくると、カーネギーと同じように、ぜひ出てみたいという人が世界から集まります。地方のいわゆる公民館みたいなものって、自分たちの金でやろうと言ってもやることがないから、子どものお父さんを描いた似顔絵大会とか、そんなことをやるでしょう。結果、誰もそこで発表したがらなくなる。逆に「あそこだけは避けたい」になりますから、ハードがいくら立派でも駄目ですね。
--今後の渋谷のまちづくりは、視点をどこに置けばいいですか?
誰に貢献しようとしているのかを見る必要があります。例えば、高齢社会がこれだけ現実となっているのに、相変わらず高齢者に使いにくい駅のまま放置されているというのは、ひとつの切り口になります。極端にいえば、「高齢者用の百貨店にしたらどうだ」みたいな妙なアイデアにもつながります。ただ現実に日本は、50歳以上が人口の半分、5,000万人から6,000万人に向かっているような社会を、どこよりも早く実現してしまいました。それを思って街をパトロールすれば、渋谷がどれだけ出来の悪い街であるかはすぐに分かります。それは指摘していかないと、直しようもありませんから。もしくは、車いすの人にとって、東京は使いやすいかどうか。10人から100人ぐらいで、車いすで移動して、ここ駄目、ここ駄目って全部毎回発表する。発表されたからやるっていうことがあっても構わないと思いますし、それによって1時間でも早く解決のシナリオが生まれればいいわけです。実際に現場におられる人の立場から事をなしていくという、そのチャンスをやはりつくらなければいけないと思います。
--生活者の視点から渋谷の街を変えるというストーリーをつくるための仕掛けが必要なのですね?
言葉、アイデアが重要になりますから、どのアイデアで回すかということです。次に、そのアイデアに対して応援団を付けられないだろうかと考えます。これもアイデアを進める速度を上げるということです。最終的には、より多くの人によって維持されるということが一番重要です。最後は、顧客によって維持されるというのが原則ですから。そうすると、量を増やしていくことが大事です。どこの企業がやるということではなく、いろいろな力を借りてやっていくということですね。
--未来の渋谷は、どういう街になってほしいと思いますか?
渋谷自身が学校になればいいと思います。スクールを内在した街です。学びに来る街。学びというのは、生涯学習という観点で、いろいろなものを楽しく習うということです。これを複合し、支援していけば、それこそ渋谷に毎日行くということも起こり得ます。例えば、映画を観ても、それは何の学習をしているかという具合に置き換えて認識していく必要があると思います。いろいろな意味で、学ぶことは一人一人の自己解決能力を引き上げることにつながります。料理に行ったら、料理の写真撮ったり、レシピを聞いたりしますね。平日のアイドルタイム1時間で、あのシェフから直接レッスンが受けられる教室があったり…そんな風になれば、どの業種・業態にも専門家がいて、生徒としてやってくるお客さまに学びをプログラム化してイベントにする。これを渋谷全体で行えれば、渋谷は生活大学ですね。生活文化大学としての渋谷になります。
--「ライブ」という要素と「学び」はリンクするのですね?
そうです。ライブ体験も、全部スクーリングですからね。まず、「お前、渋谷に行ってこいよ」と、「あそこでそれこそ3泊ぐらいすると、いろいろなものが分かるよ」という具合です。都市は、未来学習の場であり、多面学習の場です。つまり、情報集積の場なのです。パリはクリエーターの大学でした。パリに行かないと絵描きにもなれなかった。そこで暮らし、働くこと自身が学びの中にありました。ニューヨークはよりステージ性が高くなりましたが、千住博さんは、いまだにあっちにアトリエを置いて帰って来ません。世界で学習し、世界の中で評価を探そうと思えば、そこにいなければ駄目なんでしょう。渋谷は、世界から生徒と先生を集めなければいけません。
--そう考えると、何かの祭りがある時はまさに「学園祭」ですね。
そう、学園祭です。学園祭は全部模擬店でしょう。模擬店で、儲けを設定をして行います。立命館大の学園祭の時、生徒に「目標をセットしなさい。たこ焼きはどんなたこ焼きだったら今売れるかを考え、そして何個ぐらい売れるだろうかを考え、そしてどういうような店だったらいいかを考え、それを実現しなさい」ということでした。「何かやろうよ」でやっちゃ駄目です。すると、実際にたこ焼きを10倍ぐらい売ったグループが出てきました。彼らは面接の時、その事実を話しただけで、全員希望する企業へ入りました。学園祭で「何かやりましょうよ」なんて言っているだけでは駄目です。渋谷の場合は、フリーマーケットも含めて、プレゼンテーションエリアを用意して、代々木公園も借りてワーッとやる。これは大変な集積になります。コミックカルチャーに対しては、サマーコミックカーニバルを何月にやるよ、とか。エリア全体で取り組めれば、コミケのような貸し会場ではなく街の規模ですから…それは変わると思います。
--未来に向けて今やるべきことは?
結局、重要なことは構想と発想の中に種をまかないと、育たないということです。やはり目標管理じゃありませんが、我々のビジョンを、抽象的であったとしても、イメージとして受け取ることができれば、みんなそっちの方向に向かって行きます。そのイメージを先鋭的に先行させるようなゾーンと時をつくろうということが大事だと思います。表参道でもその昔、木を植えようというビジョンが生まれ育ちました。そういうものは戦略的先行サンプルです。それをどこに形成するかというと、渋谷にはBunkamuraがあると思います。これを我々の戦略的な卵として、ほんとに大事にしているのか。東急本店のBunkamuraをBunkamura 1号というのであれば、Bunkamura 2号が今度の上に乗っかるというように、Bunkamuraの連鎖で、渋谷をBunkamuraそのものに変えてしまう。先ほど申し上げた「学校にする」というのは、「渋谷をBunkamuraに変える」ということです。光悦村のように。このビジョンを、絵に描いたり、字に書いたりしながら打ち出されるのが、いわゆる渋谷文化運動のお役目だと思います。こうしたことをきちんと本という形でまとめておくのも大事だと思います。我々が絶対に中軸に置くべき着眼は、そこに既に出ているわけです。それを薄めるような形容をしてはならない。経済を先に考えちゃ駄目です。文化が経済を起こす。文化というものは、ある場を越えれば経済を起こすことは、世界が既に教えてくれています。
(谷口さんの最新刊から)
「ブルーバード・マネジメント―足元のブルーバード財に戻れ」
(ジャパンライフデザインシステムズ刊/2,100円)
経営資源も、経営ビジョンも、市場も、人材も、顧客も、希望も、夢も、すべて私たちの足元に十二分にある。われわれは、自らの中に全く生かされていない、使われていない資源が多々あることに気づかねばならない。この世界的な混迷の時代に、今私たちが持つべき真の経営視点「青い鳥の経営戦略」とは何か。拡大から足元へ、本書は今戻るべき経営視点の本質を明らかにする。
「GLOBAL IMAGINATION−世界目線構想力」
(ジャパンライフデザインシステムズ刊/2,100円)
「市場の次なる価値目線−ライフスタイル・コンセプト」
(繊研新聞社/1,800円)