渋谷は東横線で通学していた時代からなずっとじみのある街
ただ、親子で行く場所が少ない。家族で遊べるところがほしい
6歳からヴァイオリンを始め、青山学院初等部・中等部、桐朋学園大学を経て1994年イェール大学音楽学部大学院修士課程アーティスト・ディプロマコースを卒業。あくまでもアコースティックな音色にこだわり、年間100本以上のコンサートを開催し、全国各地で数多くの観客を集め新たなクラシックファンを獲得している。2006年には「高嶋ちさ子 12人のバイオリニスト」を立ち上げ、大いに注目を集める。今年は5月に新イタリア合奏団と共演し、12月にベルリン・フィル・ヴァイオリンアンサンブルとのツアーも予定されている。現在、演奏活動を中心としながらも、テレビ・ラジオ番組の出演、本の執筆など、そのキャラクターが評価され、活動の幅はさらに広がりを見せている。
--ヴァイオリンは、小学校1年生から始められましたね?
幼稚園の時に隣のクラスの女の子が学芸会で弾いているのが、とにかく絵的に格好よかった。音楽はもともと好きだったし、弾いてみたくなりました。「もっと早く始めたい」って親には言っていたのですが、その前にやっていたピアノがあまりうまくいかなくて「ピアノができない人がヴァイオリンできるわけないから」と言われてずっと反対されていました。小学校入った時点で「まだどうしてもやりたいんだったら」ということで始めることができました。
--「12人のヴァイオリニスト」を立ち上げたきっかけを教えて下さい。
もともとはオーケストラを作りたかったのですが、オーケストラは80人ぐらい必要なんですよね。そんなことスポンサーなしではできないので、じゃあ手始めに「12人」という感じで…。ちょうど女子十二楽坊も流行っていたこともあり(笑)。同じ時期に、ベルリンフィルのヴァイオリン・アンサンブルと一緒に仕事をすることがあって、ヴァイオリンだけというのも面白いなと思いました。でも、やはりゆくゆくはオーケストラを作ってみたいとも思っています。
--オーケストラを作りたいって考えるようになったのは何故でしょう?
今はソリストとして大きな舞台でソロを弾くことがほとんどですが、私の最初の仕事は、オーケストラのメンバーでした。オーケストラで弾くことの楽しさは、また格別でほかでは味わえません。たまに「オケに戻りたいな…」と思ったりすることがありますが、それはかなわぬ夢な感じなので、「じゃあ自分のをつくっちゃえ」と(笑)。私はヴァイオリンを弾くのも好きなのですが、コンサートを組み立てたり、プログラムを考えたりすることもすごく好きで、コンサートに行っても、「この曲の次はこの曲の方がいいのに」とか、「何でこんな曲やるんだろう、自分だったらこうするのに」とか、そうしたことをすごく思います。例えば映画音楽みたいなものを普通にクラシックのコンサートでやってしまえるような、バランス感覚のある若いメンバーと指揮者を集めて…。お客様に充分楽しんでもらえるようなプログラムを作って、何かやりたいですね。そのプロセスというか手始めというところに、今のこの12人ヴァイオリニストがあるということです。
--バラエティー番組にも出演されていますが、トークと演奏ではテンションは違いますか?
違いますね。音楽は演奏し始めたら最後まで行くしかありません。消しゴムで消すような訳にはいかないのでふざけられません。ですから真剣に弾きますが、トークは多少変なことを言っても「言っちゃった」とか「すみません、今のは無かったことに」とか、まあ何とかなるという部分もあるので、普通にその時感じた事を話します。ただ母は、「あなたはテレビに出るとすごくいい子ぶっているから」と言われます。それなのに「毒舌ヴァイオリニスト」とか言われて(笑)…。私、ヴァイオリンを弾く以外で緊張したことはありません。ヴァイオリンを弾く以上に怖いことはない。それに比べたら、ある意味トーク番組というのは自然な感じでいられます。
--トークと音楽が交わる部分で、クラシックの楽しい場所を生み出せそうですね。
そうですね。上手な演奏は上を見たらキリがありません。もちろんそうした演奏を聴いて感動する人もたくさんいますし、芸術として残さなければいけない部分はすごくあると思います。ですが、これだけいろんないい音楽がある世の中で、やはり一度もこういうジャンルを聴いたことがない人たちにとっては、すごく聴きづらい音楽だったり、耳を澄まさなきゃ聞こえないような音だったりすると、やはり食いつきにくい部分もあります。それをどのように誘導していくのかが、私に出来ることではと思っています。コンサートでも曲と曲の間にトークをしますが、ヴァイオリンの話だったり、これから弾く曲の話だったり、「じゃ、お聴きください」っていう風に誘導していくために言葉を使っています。
--これからの音楽教育についてはどのように考えていらっしゃいますか?
今、実際に子育てをしていて思うのは、教育用のおもちゃの音楽は必ずモーツアルトなんです。「しつこいよ」って思うぐらい(笑)。「モーツアルト=子どもの脳に良い」みたいな刷り込みですね。でも、「今どきモーツアルトみたいな柔な音楽聴いていたら、世の中渡っていけない」というのが私の持論です。CDとかではなく、何かもっと生のオーケストラの曲とか、小さいうちから聴きに行ってほしいと思います。それが普通になっていたら、もっと音楽が身近に感じられるし、「じゃ、私、あの楽器やろうかな」と自分から言えるような環境が生まれる。それが大事だと思います。日本人は、楽器ができる人がすごく少ない人種だと思います。海外に行っていた時には、楽器を専攻してない、例えば法律を勉強している人とかお医者さんの卵でも、楽器ができる人がすごく多かった。楽器とボランティアと本職、この3つがそろっていて当たり前。まぁ、あと運動もあるので、運動か楽器でしょうね。勉強が辛くなったら楽器で息抜きをするとか、そうしたことができる環境作りを、もっと大事にした方がいいかなと思います。
--誰かが引っ張っていかないと、そうした考えが生まれてきませんね?
そうですね。子どもは小学校に入ったら勉強、勉強になるので、お母さんたちは子どもがいろいろ吸収できるうちに、どれだけのことを吸収させるかということを一生懸命やっている。で、そうなるとやはり一番が英語になるようです。もちろん英語も大事ですが、もう一歩踏み込んで、音楽にふれる機会を増やしたらいいのにと思います。エリートの会社、エリートの学校、大学にはいい音楽部、いい音楽クラブがあるんですね。ちょっと鼻持ちならない感じもしますが、理想ですね。
--今後の渋谷に期待することは?
新しくできたミッドタウンなどは家族連れを狙っている感じがあるのですが渋谷には親子で行く場所が少ない気がしますね、本当に。渋谷にもう少し家族で遊べるところがあれば、住みやすい明るく健全な街づくりになると思います。せっかく公園などもありますからね。
--小さいころにご縁がある街としては、将来どんな街になってほしいですか?
昔からは、道玄坂はちょっと大人っぽくて、公園通りは子どもっぽいイメージがありました。そういう自分たちなりの区分けが昔はちゃんとありましたが、今はそういうことすら考えられないほど雑然としていて、ビルに入っても上の階のことは全くわからなかったりして、ちょっと怖い雰囲気があります。もう少し、この通りはこういうイメージで、この通りはこういうイメージでという統一感のとれた街づくりがあった方がいいと思います。若者を一掃するのではなく、センター街は若者の街として好きに行け、109はこんなところにあっちゃいけない、あっちでしょ…みたいな(笑)。メリハリの利いた街づくりに期待します。もう少しメリハリがあった方が、場所が記憶としても残りますから。
--今後の活動を教えてください。
来年ぐらいから、子どものためのコンサートを開いていきたいなと思っています。12人のヴァイオリニストももちろん使いますが、親子連れが来て、彼女たちと音楽を一緒に楽しめるようなコンサート出来たらと考えています。お城のような外観のホールを選んで、そこに行くときはみんなおしゃれして、ホールでコンサートを聴いて、終わって外に出ると楽器がいっぱいあって、一緒にみんなで遊んで、最後に食事をして帰る…。クラシックコンサートも行くだけでなはくて、行った後にも楽しめるような、お祭り感覚のものを作っていきたいなと思います。
「高嶋ちさ子の音楽案内〜心が10倍豊かになるクラシック〜」
(11月17日発売)
音楽の新書としては異例のヒットを記録した「ヴァイオリニストの音楽案内」(PHP新書)に続く、初心者のためのクラシック音楽入門ガイド第2弾。著者・高嶋ちさ子さん自身が大好きな曲を中心に、名曲50作品を選りすぐって紹介。アメリカのオーケストラに所属していたときの経験や、現在のソロ奏者としての立場から、裏話を交えてユーモアたっぷりに紹介する。
(PHP新書、756円、ISBN:978-4-569-70281-0)
CD「高嶋ちさ子の名曲案内〜心が10倍豊かになるクラシック〜」
(10月1日発売)
PHP新書で高嶋ちさ子さんが紹介する名曲100曲から、選りすぐりの30曲の聴きどころを抜粋。クラシック入門に最適なアルバムです。
(2枚組、コロムビアミュージックエンタテインメント、2,000円)
クリスマススペシャル
「ベルリンフィル・ヴァイオリンアンサンブル with 高嶋ちさ子」
12月06日(土)14時開演(13:30開場)/会場:東京国際フォーラム ホールC/料金:S7,000円 / A6,000円 / B5,000円(全席指定)。イープラス、チケットぴあ、ローソンチケットなどで好評販売中。