渋谷はよく文化やファッションの発信基地と言われますが
僕にとっては、ここが一番落ち着くホームタウン
株式会社メディコム・トイ代表取締役社長。東京都出身。執筆業からIT系ベンチャー企業に転進。1996年(株)メディコム・トイを設立。特撮、アニメ・コミック、映画等のキャラクターフィギュアを企画製造。2000年、自社オリジナルブロックタイプフィギュア「KUBRICK」(キューブリック)、01年にはクマ型ブロックタイプフィギュア「BE@RBRICK」(ベアブリック)を発表。国内外のアーティスト、ブランド、企業とのコラボレーションを多彩に展開している。アパレルやインテリアなど多岐に渡る事業を展開中。
--これまで大きなターニングポイントはありましたか?
実は、1996年に立ち上げてから12年間、困ったことってないんですよ、一度も。もちろん事業として見たときには、山も谷もあったような気がするんですが、もうやめちゃおうかとか、もう駄目だとか思ったことは1回もなくて、それはほんとにスタッフの努力だったり、自分の頑張りだったり、いろんなことがきっとあるんだろうなと思いますが。ちょっと格好いいことを言うと、ここがホームタウンだから、帰る場所が他にないんだというのもあります。だから、「負けるもんか」みたいなところはありましたよね、それはすごく。商品では何年か周期でエポックメーキングなものが、結果的に出来てきたかもしれません。1996年の立ち上げ当初が「REAL ACTION HEROES(リアルアクションヒーローズ)」、これは今でもライン継続していますが、可動式の12インチアクションフィギュアですね。この後2000年に「KUBRICK(キューブリック)」というブロックタイプのフィギュアが出来て、2001年に「BE@RBRICK(ベアブリック)」が出来て…というような感じです。割とその年その年でエポックメーキングな商材が出来て、それが会社の経営の基盤をどんどん厚くしていってくれたような気がします。
--BE@RBRICK誕生の背景を教えてください。
90年代後半日本でフィギュアブームが起こりました。もう今から早くも10年ぐらい前の話ですが、どんどんどんどん緻密なフィギュアを、複雑なフィギュアを、リアルなフィギュアをという方向にマーケットが向いていってたんです。その中で、当然私どももマーケットニーズを考えていくと、リアルなフィギュアをどんどん作っていこうという方向でやっていたのですが、一つの商品を作るのに1年ぐらいかかる、仕様書が電話帳ぐらいの厚さになる、工場とここを3ミリ削れとか、0.2ミリ右にずらせとか、アイラインをコンマ0.3ミリ上に上げろとか、そういう指示の繰り返しだったんです。いい加減嫌になっちゃったんですよね。嫌になっちゃったと言うとちょっと語弊がありますが、もうちょっと気楽に作れる商品作りたいなって…。
--気軽に作れる商品の先にBE@RBRICKがあったのですか?
発表してから商品として世に出るまでの時間もかかるし、それこそ生産拠点を中国にどんどんシフトしていく中で、もっとスピーディーに出せる商品はないかということを考えていて、出来上がってきたのがKUBRICKという商品だったんですね。マーケット全部が足し算の法則で動いていった中で、全部引いていったらどうなるかなと思って出来上がったのがこれで、さらに引いて作ったのがBE@RBRICKでした。9つのパーツ以外、何も付けないんです。以前、ビームスの設楽社長が、「赤司くん、これTシャツ。うちのビームスTと同じ」とおっしゃって、「これをキャンバスにしてみんながものを描くんだろう」と言われて、「そうです」と答えると、「いや、いいよなぁ」って。「これはちょっと面白い仕事を見つけたねぇ」なんていう話をいただけて、ありがたかった記憶があります。2001年にBE@RBRICKを発売した当初から、これは「真っ白のキャンバス」という発想を持っていたんですよ。
--KUBRICKは、実にいろいろな使われ方をしましたね。
私どもも最初から意図していたところではありますが、このKUBRICKをキャンペーンとかプロモーションで使っていただけるとうれしいなと考えていました。確か最初のキャンペーンが20世紀フォックスさんの「PLANET OF THE APES 猿の惑星」。ティム・バートン監督の作品だったのですが、その時に映画のチケットの前売り記録を更新したんですね。その後、ほかの配給会社の方からも、KUBRICKで何かやろうよというお話をたくさんいただけて…。ただ、映画の場合は準備から実際のマーケットに投入するまでの時間がものすごく短いんですね。以前よりは生産が早くなったけど、まだ遅いと感じていました。
--そこでどうお考えになったのですか?
じゃあ、もっと引かなきゃ駄目だと。引いて、引いて、分かったと。こちらで一つのディテールを提示して、そこに対してペイントだけで表現をするという制約を設けようと。これであれば、ある程度、ショートレンジのビジネスでも成立するんじゃないかと。そこからだったんですよね、BE@RBRICKの発想って。一切この子には物を持たせないでくれ、ペイント以外の何かをさせないでくれというところから始まっていますね。当時からやっぱりキャンバスだったんだと思います。REAL ACTION HEROESとBE@RBRICKはもう完全に真逆です。大量生産と、いわゆるほんとに時間をかけての職人仕事が一つの会社で共存している。これは端っこと端っこだなと僕は思っています。KUBRICKやBE@RBRICKが出たときに、他社さんが、これはいいビジネスモデルだと言って、いろんなところが真似されたんですよ。うちのフィギュアはひじが動きますとか、うちのフィギュアは物を持たせてもオーケーですとか・・・。でも、端っこだから面白いのであって、中間になると凡庸になってしまうと思うんです。
--伺っていると、子供のころ、キディランドに連れていってもらっていたことが、その後にも影響しているようにも感じますが。
あまり変わっていないんですね(笑)。結局、キディランドが始祖だとすると、やっぱり原宿の文化、神宮前の文化に子供のころカルチャーショックを受けたというのが、ものすごく大きいと思います。幼い頃は「わぁ、こんなにおもちゃがある」って。で、回りを見るとおしゃれな人たちがいっぱいいて、この人たちの着ている服は格好いいなと思って。だんだん大人になってませてくると、どこであの服買えるんだろう、原宿に売っているのか、渋谷にパルコが出来たって…。子供なのでそんなに高いものは買えませんから、靴下しか買えないなとか思いながら、ショーケース見ながら靴下買ったりして。その羨望と渇望みたいなところから、いろんなものが生まれてきたなという気はします。だから、ほんとにそうした意味では、自分にすごく影響を与えてくれた街だなと思います。だから好きなんでしょうね、きっと。
--渋谷の魅力というのは一体どんなところにあるとお考えですか。
渋谷は自分にとってのホームタウンという思いが自分の中にあります。例えば、仮に目黒区と渋谷区、品川区と渋谷区、港区と渋谷区と対比をさせていった時に、何の躊躇もなく渋谷を選ぶんですよね、僕は。それはたぶん自分のホームタウンだからとしか言いようがないんです、うまく言えませんが。その街、その街にものすごく魅力的なところはきっとたくさんあると思いますが、渋谷が一番自分の肌に合う。自分の価値観として、渋谷区が一番しっくりくるという気がしますね。
--逆に、渋谷の嫌な面というか、気になる点はありますか。
いろんな方たちがお見えになる街なので、当然価値観とか倫理観とかがそれぞれ違うので、マナーの悪い人もやっぱり多いなとは思いますね。でも、人が集まってくる場所というのは、どうしてもそうなっちゃいますね。そういったところがもう少し洗練されるといいなとは思います。年齢は関係ないですね。若い子でも礼儀正しい子はいますし、お年を召していてもタバコをパーンと投げ捨てて歩いている人もいますので。
--渋谷がこれから大きく変わろうとしていく中で、どんな街になってほしいですか?
「港区に負けないで頑張ろうぜ」という感じかな(笑)。港区には洗練されているところがありますね。どこか、あのしなやかさを渋谷区にももっと持ち込めたらなぁとも思います。神宮前辺りの一部のエリアがどんどんどんどんそうなっているのも自分で分かっているので、ああいったにおいが渋谷でももう少し強くなってくれると、今よりももっともっとたくさん人が来てくれるんじゃないかなと思います。街を見ていくと、例えば桜丘町とか鉢山町とか、もっと広がっていくだろうなという気がします、街として…。
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お問い合わせ:BEAMS