渋谷は若者が自分たちの生き方を主張していく場
「高品質で多様性のある街」になってほしい
1981年東京大学法学部在学中に司法試験に合格。以後司法試験受験指導を開始。大学卒業後司法研修所入所。司法研修修了と同時に弁護士登録。司法試験、司法書士、公務員講座のほか、企業法務研修などの講師を務める。1995年、司法試験指導のキャリアを活かし「伊藤真の司法試験塾」(現在の伊藤塾)を開塾。その後、法科大学院入試・公務員試験・司法書士試験・行政書士試験・宅建試験の受験指導を開始。大学での講義のほか、代々木ゼミナールの教養講座講師、日経ビジネススクール講師、全国各地の司法書士会、税理士会、行政書士会などの研修講師も務める。著書は多数あり、中でも「伊藤真の試験対策講座」シリーズ(弘文堂)は、大学法学部のテキストにも使用され、司法試験・法科大学院入試など法律の資格試験対策のみならず、現役の法科大学院生や学部生など法律を勉強する学生に広く浸透している。
--実際渋谷で開校してみて、いかがでしたか?
集まって来る人たちも当初想定した人たちですし、渋谷の駅前もセンター街の若者、246の落ち着いた雰囲気、セルリアンタワー方面のIT企業など、結構すみ分けができていますよね。ですから、ここで勉強している人も渋谷の駅前に行って、その雑踏の中で遊びたいと思いながらも、合格してから遊ぼうと、逆にすごいモチベーションになるんですね。考えてみれば、政治とか憲法とかいう観点でも、代々木公園からデモやパレードなどをスタートしたり、イラク戦争反対の若者たちが渋谷に集まってピースウォークを行ったり、古くは1950年代に朝鮮戦争反対とかハチ公前の渋谷事件などが起こったりと、渋谷は若者たちが平和を主張していく発信の場でもあったわけです。ですから若者が文化を発信するだけじゃなくて、自分たちの生き方、自由、平和、そうした世界に通用する普遍的な価値みたいなものを主張していく場としての渋谷というイメージがある。そこに校舎があることが法律を学ぶ人にとってもすごく刺激的です。ハチ公前で政治家の演説もあれば、街宣車もいる。まさに、さまざまな自分の主義主張をぶつけ合うそういう場ですからね、渋谷は。政治みたいに構えないで、主張できる場…ということで、すごく面白い街だと思いますね。自分の生き方だとか、政治をファッションとして取り込む、スタイルとして取り込む、そういう新しい政治の主張がここから生まれてきているような気がします。音楽に合わせサンバや、化粧や変装をしながらピースウォークやパレードを行い、自分の権利を主張したりする場。だから政治もひとつの文化、スタイルとして若者たちが自分たちなりにアレンジして主張できる。渋谷はそういう自由のある場と言えるのではないでしょうか。
--それは生徒さんにとっても重要な環境になるわけですね?
そういうものを見て参加したり、駅前に行けばいろんな声が聞こえる訳です。駅前で歌を歌ったり、パフォーマンスを行う人は、渋谷の街には多いですよね。それこそ公共の場で自由に行ったりするわけですよね。若者が自分の言いたいことや考えていることをメッセージとして歌に乗せてみんなに発信できる場があるというのは素晴らしいことだと思います。だからそれは街のふところの深さでしょうか。
--昔の若者と今の若者で「声の上げ方」で違いはありますか?
大ざっぱに言えば、おとなしくなった。回りの目を気にする。それから間違うことを恐れる。だから常に正解や正しいことを求めようとする。私たちの塾では、人と違う意見をいうことは素晴らしいことなんだ、価値のあることなんだ、その場やみんなに合わせる必要はないと教えています。もちろん楽しみの場や飲み会の場などでは必要かもしれないけれど、でもいろんなことを考えたり議論する場では、むしろ人と違うことを言うことが素晴らしいことなんだということが、実は憲法の一番大切な価値なんですね。憲法で「個人の尊重」と13条で言っていますが、それは人と違うことは素晴らしいということを言ってくれている。そういうことを伝えていかないと、やっぱりみんなと同じが安心となってしまう意識がちょっと強くなってしまいますね。
--渋谷の街をぶらっと歩くことがありますか?
結構歩きますよ。この辺(桜丘)から代官山、中目黒、西郷山公園方面ですね。ただ、どんどん開発されていくのが気になります。昔外国人用の住宅があった鶯谷の開発現場では、縄文時代の大変貴重な遺跡が出たにもかかわらず、開発計画が進んでいます。渋谷区は遺跡が大変豊富で縄文時代の遺跡など100以上あるのですが、そういう歴史の上に自分たちはいるわけじゃないですか。開発でも、過去の遺跡や遺産への配慮がもっとあってもいいんじゃないかと思います。それは必ず将来、例えば集客につながったり、いろんな意味でプラスになるはずなんですね。マンションを建てるために2000年以上も昔のものを壊すってどうなんだろうか。もちろん経済の効率性などもあると思いますが、せっかく文化の街渋谷なんだから経済的効率性では計れない価値もあるんだ?ということをもっと発信してもいいなと思います。「目先の経済的効率では計れない価値があるんだ」ということを遺跡なども含めもっとアピールできたらいいなと思いますね。それが文化でもあり、一方では人権でもあるんですね。人の権利、生きる権利、または平和だとかも一つにあるわけですよ。もっと言えば人間らしさというものなのかもしれませんね。経済的物差しで計れないものを、もっといろんな形で発信できればいいですね。
渋谷にセルリアンタワーができて、人の流れがずいぶん変わり、便利になりましたね。渋谷にああいう大きなホテルがなかったので、大きなパーティーだとかお客さんを呼んだりした時に、これまでは新宿とかにいかなくちゃいけなかったんです。それが渋谷のセルリアンタワーでできる。ほんとに重宝しています(笑)。ステータスのあるホテルが渋谷にできたというのは大きいと思います。
--渋谷の課題はどのように考えますか?
246をはさんだ南側と北側だったり、表参道だとか松濤など、地域ごとの特性をもっと鮮明にしたらいいかなと思いますね。だから、「高品質で多様性のある街」。それが交わって一つになるんじゃなくて…それぞれが独立して個性を持っている地域。でもそれは街づくりという点で、行政がかなり意識してないといけないんですよね。ここはこういう雰囲気で、ここはこういう雰囲気…なんかそういう個性があると、散歩していてもいろんな個性が見えてくるので面白い。同じような街並みだったりすると面白くないですよね。もっとそれぞれの地域の個性を主張するというのがあってもいいかな…。もう一つは、渋谷の地元で生まれ育つ子供たちへの教育。もっと地元の子供たちにいろんなことをしてあげたい。もっと将来の担い手、渋谷を発信してくれる子供たち、この街で生まれ育った子供たちを宣伝マンにして発信するというのはすごく大切だと思います。地元の子供たちが楽しめるイベントなどがもっとあってもいいなと…。
--渋谷の街は将来的にどういう街になっていってほしいですか?
やはり「高品質で多様性のある街」。それと地元の若者というところで、コミュニティーの活性化。コミュニティーバスがありますよね、そういうのがすごくいい。お祭りとかも含めて、古くて昔からのいいもの。そういうものをきちっと残していくことかな…。昔と今の共存、それは多様性に含まれるかもしれないですね。個性が打ち解けちゃうものじゃなくて、それぞれが個性を主張して、そして共存できる。それはまさに、憲法が求めている「多様性を求めながら、共に生きる」ことと同じ。そうしたことがこの街のイメージとしてできていたらいいなと思います。
--最後になりますが、新刊「続ける力〜仕事、勉強で成功する王道」が発売されましたね。
この前に「一点集中力」という本を出しました。一点集中力というのは何か物事を成し遂げるために自分に持てる力を一点に集中して突破するという力?これは受験でも、仕事でも、家庭内の問題を解決するようなときでも、みんな共通なのかなと思います。単なる集中力じゃなくて、一点に集中させる。昔から火事場のばか力という言葉があるように、人間にはすごい力があるようなんですね。そういうことを含めて、これを鍛えていけば自分の思っているものいろいろ成し遂げられる。そういう本です。続ける力というのは、改革や変化も大切ですが、改革や変化とともに変わらず続くものというのも、また大切。だから変わる面と変わらない面をきちっと見極めることが大事なんですね。「続ける力」では、続けていくことの大切さだとか、三日坊主をどう乗り越えていけばいいのか、そのノウハウを含めて本にしました。