渋谷は人や店舗が自然に集まって成立した街
それゆえの発見や驚きがビジネスのアイデアを生む
1965年東京生まれ。東北大学工学部出身。大学時代はボート部に所属。卒業後、大手企業を経て1992年に都市デザインシステムを設立。コーポラティブ方式による集合住宅や戸建住宅・街づくりを基幹事業とし、ホテルやオフィス、リゾートなどにも事業を拡大するとともに、近年はリノベーションにも力を注ぐ。
--一貫してオフィスを渋谷区内に設けている理由は?
高校時代から、「渋谷に事務所を出す」と、言い続けていたんです。だから、最初に鶯谷町にオフィスを構えた時には、「本当に実現したのか!」と、皆に驚いてもらえました(笑)。その後、桜丘町、道玄坂と、段々と駅に近付いてきましたが、近々、千駄ヶ谷に移転します。自分たちで自由にリノベーションできる物件ということで探していましたが、ちょうど、同じ渋谷区内の千駄ヶ谷で見つけることが出来たので。新しいオフィスは楽しい感じですよ。屋上は緑で覆って温室を置き、その中に会議室を設置したり、1階には一般の方も利用できるカフェをつくったり。渋谷にオフィスを構える魅力は、何といっても色々な人種が集まっていることでしょう。高校生や大学生、ビジネスパーソン、さらには映画を観る人や食を求めて訪れる人など客層にも偏りがない。我々のビジネスはライフスタイルの提案だから、幅広い層のスタイルを見ることが重要なんですよ。最先端の方だけを見ていては、良い発想は浮かんでこない。その点、渋谷の街なかでは、若者のファッションも、少しお年を召した方のファッションも見られる。高級店も安い店もあるから、お金持ちも、そうでない若者もいる。そして、オフィスや商業施設、住宅街などが揃い、街として完結しているでしょう。そういう街はヨーロッパには多いけど、東京にはないんですよね。それもビジネス的な発想という点にはプラスになっていると感じます。
--渋谷の街は、どのように変化しているとお考えでしょうか。
とにかく移り変わりが早いところが、個人的には結構好き。「新しい店が出来たな」「あの店は潰れたのか」「この店は潰れた店と同じ轍(てつ)を踏んでいるぞ」とか、あれこれ考えながら歩いています(笑)。こんなに淘汰の激しい街は、東京には他にないでしょう。レベルが高そうに見えても、簡単にこけてしまいますからね。それでも、絶え間なく次の店が入ってチャレンジする。その一方で、「よく続いているな」と思わされる古い焼鳥屋が営業していたりもする。その雑多さが面白いですよね。高い家賃を払える店しか入居できない街では、そこそこレベルは保たれるけど、あまり意外性はない。その点、渋谷では、「昔からあるし美味しいのかな」などと、ドキドキしながら店を探す楽しみがありますよね。それで失敗して「家賃が安いから続いているだけか!」とか、一人で毒づいたりするのが、また良いんですよ(笑)。
--渋谷がさらに魅力的な街になるには、どのような方向性に進むべきでしょうか。
人工的につくられた街はカッコいいけど、自然と人が集まって形成された街には独特の面白さがある。やはり街は個々の人間や店舗の集合として成り立つからこそ、魅力があると思います。渋谷はそういう街ですよね。歩いていると「こんな店があったのか」とか、常に発見があります。それに大規模な百貨店と、細長いペンシルビルが混在しているから、「デパートに行った後、個性的なショップを回って…」と、楽しみ方にバリエーションがある。どちらかだけだったら、街としての面白さは大きく減ってしまいます。そのように色々な文化があって面白いけど、今の渋谷は変わり目を迎えている気もする。一歩、間違うと、風紀が乱れ、雰囲気が悪化し、それによって意識の高い人が離れ、街の価値が下がる__という悪循環に陥りかねない危うさをはらんでいると思います。アメリカのシカゴが急速に荒廃してしまったように。その意味では正念場といえるかもしれません。だからこそ、街ぐるみで、街づくりに取り組む必要があるでしょう。といっても、個々の人間がまとまりを生み出すのは難しいですから、旗振り役となる企業の存在がキーポイントの一つになるのではないでしょうか。
--都市デザインシステムでは、渋谷の物件のリノベーションも行っていますよね。
個人的には小さなビルを面白くすることが、渋谷の活性化につながると考えています。たとえば、ペンシルビルから道路側に看板が飛び出している光景を目にしますよね。あれは景観として美しくないし、通行の邪魔になるし、そもそも、ああいう看板は違法です。それに対して、看板を引っ込め、更に内装や外観にデザインを加えるというようなリノベーションを、3棟ほど手がけています。ビルを購入した投資ファンドから依頼され、我々がデザインを提案するという流れです。看板を引っ込めれば、通りから目立たないおそれがありますから、最初は抵抗感を抱くオーナーが多いんですね。ところが、実際に施工すると、景観が格段に良くなるから、デザインを気にする意識の高いテナントが入り、ビルが魅力的になる。それでビル自体の価値が上昇し、家賃も上がってオーナーも喜ぶ。つまり、誰もが喜ぶしくみなのです。こうした事業を継続し、今以上に渋谷を魅力的な街にすることに貢献できたらうれしいですね。