#シブラバ?渋谷で働く、遊ぶ、暮らす魅力を探る

KEYPERSON

カオス的な空間から生み出される渋谷のカルチャーを世界とクロスさせたい

イラストレーター・アートディレクター佐藤豊彦さん

プロフィール

1958年大分県生まれ。1982年にイラストレーターとしてデビュー。1984年にはグラフィックデザインを手がけSTUDIO SUPERを設立し、新潮社や文藝春秋、婦人画報などの装丁やデザインに携わるように。その後は、イラストレーター「sato richman」として、さらにデザイナーやWeb制作者として、マルチなフィールドで活躍。現在、グラフィックデザインやアートディレクションを中心とするsuper studio,inc、デジタル素材制作を行うsuper material,inc、Webサイトの制作や運営をカバーするsuper web,incの代表を務める。現在、進行中のWORLD X SHIBUYAでは、アートディレクションを担当。


渋谷発のアートを世界に発信する「WORLD X SHIBUYA」がスタートしました。第1弾として、現在、ロサンゼルスとウェブ上のセカンドライフでギャラリーが開かれています。この企画のアートディレクターを務める佐藤豊彦さんは、渋谷を拠点にイラストレーターやグラフィックデザイナーなどマルチなフィールドで活躍してきたクリエイター。その佐藤さんが見た渋谷の街の変遷や、渋谷カルチャーの魅力とは。

渋谷ではトレンドシーズが滅茶やたらに現れる

--渋谷に事務所を構えた時期は?

大学時代は本郷に住んでいました。アパートの近くには大正時代に建てられたような古いビルや老舗の飲食店が残っていて、アーティストを支援する画廊なんかもありましたね。アパートの隣の不動産屋の親父は、いつも「お茶を飲んでいきなよ」と、親切だったなぁ(笑)。そんな昔ながらの文化が根付く本郷も捨て難かったけど、新しい刺激を求める気持ちが勝って渋谷に目が向きました。古いモノを愛でることへの価値も感じていましたが、メディアに関わる人間として常に新しいカルチャーを吸収する必要があると思って。そういう意味では、渋谷は空気を吸っているだけでも情報が飛び込んでくる街ですからね。そんな理由で代々木深町(渋谷区富ヶ谷)に移り住んだのがイラストレーターとして多忙を極めた1986年。当時の渋谷はファイヤー通りが隆盛し、とくにサブカルチックな雑貨ばかりを集めた文化屋雑貨店なんかが面白かった。渋谷消防署の坂の上のエリアには、すでにサザビーやアニエスbが進出して大人っぽいエリアになっていましたね。代々木深町を選んだのは、当時、「第二裏原宿計画」といって、その界隈を文化の拠点にしようという計画があったから。それで段々とおしゃれなエリアになっていったんですよ。そのころ、田中康夫さんと仕事でご一緒していましたが、『なんとなく、クリスタル』の冒頭も代々木公園の周りをジョギングするシーンで始まるんですよね。

--渋谷と他の街は、何が決定的に違うのでしょうか。

トレンドの流れが速いことでしょう。渋谷では、トレンドシーズ(トレンドの種)が滅茶やたらに現れますよね。以前、1年間、渋谷を歩く若者にインタビューをして、トレンドシーズを探る仕事をしました。その情報を企業にイントラネットで公開するマーケティングサイトを作ったんです。その時に、渋谷では、ニットの帽子をかぶる人が多かったり、夏なのにマフラーをしていたり、なごみ系の和カフェが出来たり、随分早い段階で他の街でも流行するファッションがいち早く生まれているんですよ。でも、面白いのは、渋谷を発祥とするトレンドが必ずしも渋谷で消費されないこと。一例を挙げると、ヤマンバと呼ばれる女の子が登場した時、ストリート系のカルチャー誌やファッション誌がこぞって取り上げました。すると、ドーナツ化現象のように、東京近郊のトレンド感度の高い若者が影響されて、そのファッションで身を固めて渋谷にやって来る。つまり、渋谷の生み出すトレンドがメディアを介して渋谷にフィードバックされる構図になっているんです。それが過剰に進んでテレビに取り上げられるようになると、若者の間に「もう遅れている」という感覚が広がってブームが終わるんですよ。

加速度的なメディアインフルエンスが起こる街

--どうして、そういう現象が渋谷で起こるのでしょうか。

はっきりとした答えは出せませんが、街の年齢構成は無関係ではないでしょうね。例えば、銀座にもトレンドはあって、「こんなワインバーができました」などと取り上げられて客が集まるという構図はあります。銀座でもメディアインフルエンスは起こっているわけですが、銀座を紹介するのは落ち着いた媒体。それに比べて渋谷の街の年齢構成は、トレンドをキャッチアップしたがっている若者とピタリと重なりますよね。若者が情報を発信し、カルチャー誌やファッション誌を介して、別の若者が受け取る。若い子はメディアに対する警戒心がまったくないから、そのまま渋谷にフィードバックする。そういう加速度的なメディアインフルエンスが生じているのでしょうね。

--以前に比べ、渋谷の街の年齢構成に変化は表れていますか。

僕が見るところでは、コアとなる年齢層は下がっていますね。ただ、東急や西武をはじめとする百貨店のフォローアップが大人を呼び戻している功績は大きいと思いますよ。渋谷はターミナルであって、大人も通過するわけだから、若者以外のニーズが生じるのも当然です。僕自身も、渋谷に大人の文化を求め、中心から少し外れたエリアを歩くことが多い。「渋谷には大人向けの飲食店がない」という声も聞きますが、確かに駅前から見渡すとセンター街が壁になって大人っぽい店は発見しづらい。でも、裏から見れば、神山町や桜丘町、宮益坂などには良い店がたくさんありますよ。最近、特に気に入っている「清山」という蕎麦屋はかなり完成度が高いと思いますし、雪月花のような大人のためのBARや金田中のような大人向けの料亭もあります。それから、東急本店通りの一方通行の道は、渋谷で飲んだ時に最後に遊んで帰る道ということから、昔は「ラストロード」と呼ばれていましたが、最近は、その界隈にも新しい傾向の飲み屋がいろいろとできているようですねよ。

「WORLD X SHIBUYA」ロサンゼルスでの展示風景

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