まるで迷路のように「混沌」とした街に、僕らの好奇心はいつまでも刺激されるんです
1956年、東京都出身。慶応義塾大学商学部卒業後、東京ニュース通信社に入社。「週刊テレビガイド」「ビデオコレクション」の編集に携わる一方、マガジンハウス「ポパイ」「オリーブ」などに原稿を書き始め、85年にはフリーのコラムニストに。テレビ、ラジオ、雑誌などメディアへの出演も多く、幅広く活躍する。「青春の東京地図」(筑摩書房)、『東京版アーカイブス』(朝日新聞社)、『東京検定』(情報センター出版局)など、東京を舞台にした著書も多数。
--渋谷以外で注目するエリアはありますか?
この前取材で訪れて面白かったのは秋葉原。コスプレ服やメイド姿など、個性的なファッションをした女性や、若いカップルがたくさんいて、とにかく活気がある。例えるなら70年代の渋谷・原宿的なエネルギーを感じました。その街の人種になりきらないと、本当にその街を満喫できないとでもいうのかな。それは、何か欲しいものがあったときも、コンビニやデパートのようなところで簡単便利に買うことはできなくて、街を攻略していかないと、いつまでも見つけられない、見つからないという面白さなんですよね。そういう点では、非常に渋谷的なエリアだといえますよね。人気のメイド喫茶やゲームショップなんて、渋谷でいうと、雑居ビルの中に突如、おしゃれなカフェや流行のディスコがあるのと、感覚的にはかなり近いですよね。
--今後、渋谷の街に求められることは?
六本木や丸の内など、東京の街は再開発ラッシュで、大型ショッピングモールなんかもたくさん出来てきているけど、僕自身は渋谷の街にはそういうものは必要ないと思っています。というのも、渋谷の魅力はひとことでいうと「混沌」ですから。渋谷駅を中心に山と谷があって、放射線状に広がる渋谷は、街そのものがまるで迷路のようで、そのあちこちに、面白い店や魅力的な風景がまぎれこんでいる場所。だからいつでも、街中を使って宝探しをしているとでもいうのかな…。そういうとっておきの楽しみ方ができる街ですよね。渋谷歴の長い僕ですら、未だに踏み込んだことの無い路地があるくらい、道が入り組んでいるのが面白いんです。道玄坂辺りにも、ちょっと裏の路地に入ると、突然小さなお稲荷さんがあって昔ながらの喫茶店があって、渋谷にいながらにして渋谷ではない、どこか隠れ里に迷い込んだような感覚にとらわれるんですよ。例えば最近の大規模開発のように、「箱の中」に店がきれいに並べられて完結しているエリアとは違って、自然発生的な街本来の魅力を感じます。どちらがいいとか悪いとかではなくて、僕らの世代としては、名店と呼ばれるものは、裏道や路地にひょっこりとあってほしい、そう考えてしまいがちなんですよね。これまでもこれからも、そういう僕らの好奇心を満たしてくれる街は、やっぱり、渋谷以外には考えられないですよね。
近著紹介
『青春の東京地図』 泉麻人著 (筑摩書房)
古い地図を見つめていると、懐かしい東京の街並が蘇る。昭和30年代、少年の日に虫採りした新宿区の原っぱ。1970年代、高校時代に遊んだ青山のディスコ。初めてデートした原宿の店。ナンパと古レコード探しをした新宿西口。悶々と映画館に通った中野や池袋。当時のTV番組、映画、音楽も流れる泉麻人流東京案内。