独自の世界観を強めていきながら、最新トレンドを発信する異端児であり続けたい
1950年生まれ。中央大学法学部法律学科を卒業後、1974年に東急百貨店入社。本社人事部、バイヤーを経て、1987年株式会社ティー・エム・ディー出向。渋谷109-2店開店準備室、営業課長の後、1996年からテナント企画室次長となり109店担当に。1997年から店長(現任)、2003年に取締役、2004年に常務執行役員に就任、現在に至る。株式会社東急モールズデベロップメント常務執行役員事業本部渋谷事業部長兼SHIBUYA109総支配人兼109直営部長。
--萩原さんがシブヤ109の総支配人に就いたのはいつでしょうか。
平成9年のことだから、今年で10年目ですね。シブヤ109は昭和54年にオープンし、あらゆる世代をターゲットとした全方位型の商業施設として、ずっと営業を続けてきました。しかし、平成8年ごろには売り上げがガタガタで、生き残りのためには大改革が求められていました。しかし、そんな時でも、女子高生向けにルーズソックスなどを販売していた地下1階の店舗だけはとても繁盛していたんです。そこで、ここは思い切って女子高生世代にターゲットを絞ってはどうかということになりました。大きな賭けでしたよ。スタッフが全国を回って、ギャル系といわれるような「とがった」ファッションのブランドを集め、徐々に店舗を入れ替えました。すると、平成9年には売り上げが20〜30%ほど上がったため「この方向で間違っていない」と確信し、さらに改革を推し進めたのです。これが新生SHIBUYA109の「第1ステージ」の時期にあたりますね。
--その後は、どのような戦略で改革を進めたのでしょうか。
当初は、少し不良っぽいというか、母親が娘を行かせたくないようなイメージがありました。ガングロと呼ばれる女子高生たちが集まっていましたからね。それが平成11年ごろから、「EGOIST」などのブランドから「カリスマ店員」が登場し、それがブームになって、SHIBUYA109の全国的な知名度が一挙に高まったんですね。我々はこの時期を「第2ステージ」と呼んでいます。このころからお客様と同じ年代の販売員たちが、単に販売するだけでなく、企画から関わり、雑誌やテレビなどのメディアにも登場するようになりました。それによってお客様と読者モデルとしてメディアに出ているような販売員の間に一体感が生まれていったんです。現在は「第3ステージ」として、SHIBUYA109の「聖地化」を推し進めています。その一環が館内の環境整備で、例えば地下からの入り口を改装して中から外を見えないようにしたのは、外の世界とは隔絶されたSHIBUYA109の独特の世界観を強めるのが狙いです。さらに、最近はお客の年代が上がっているので、これまでよりもワンランク上のCS(顧客満足)を追求するための従業員教育や、スタッフ用の施設を充実させて、より働きやすい環境を整えることにも目を向けています。
--一連の改革によって、売上はどのように推移しましたか。
改革前の売り上げは、平成7年度は140億円でしたが、昨年度は266億円と倍近くになりました。バブル絶頂期の平成2年度には190億円でしたから、順調な推移と言えますね。120万円程度を維持している坪効率は、全国約2,500軒あるショッピングセンターの中でも断トツのトップです。
--SHIBUYA109の強みは、どこにあるのでしょうか。
現在、9フロアに110店舗がありますが、そのすべてが17〜22歳をターゲットにしていることの集積効果が最大の強みの一つでしょう。この年代のファッションに詳しくない人には、どの店舗も似通って見えますが、実際はロコ系やハードカジュアル系、ナチュラルカジュアル系、ロマンチック系、かわいい系、セレブカジュアル系など15のテイストに分かれている。つまり、どんな女子高生が訪れても、欲しい洋服が手に入るんですよ。SHIBUYA109が成功してから、全国各地のファッションビルがこぞって「109系」と呼ばれるブランドを集めたフロアをつくりましたが、ビル一棟に丸ごと集積しているのは、日本、いや、世界でも、ここSHIBUYA109しかありません。こうした戦略によって、SHIBUYA109自体がブランドとしての価値を高めたことが、これまでの勝因だと思います。
--テナントは、どのような基準で選別しているのでしょうか。
常に新しいファッションを発信したいという思いがありますから、新興ブランドが中心ですね。新興ブランドは、トレンドを読み取って商品に反映させる変わり身の早さや、雑誌とタイアップしたりする時の柔軟性、さらにものづくりの個性などが優れているんですよ。大手ブランドはイメージが固まっていますから、すぐには方向転換できず、新しい商品を生み出すのにも時間がかかりますからね。さらにSHIBUYA109では、インキュベーション機能にもこだわってきました。デザイナーやクリエイターがここで力を付けて夢を実現してくれるといい。まだ世に知られていないブランドが集まり、一つひとつのブランドが成長していくことでSHIBUYA109全体の独自性も高まる。つまり、ともに成長しているわけですね。