学生コンペのアイデアを実現化! 渋谷ストリームに願掛けスポット「ハチ公神社」
チーム「モチモチの木」
・白詩佳(はく・しか) 東京大学大学院2年生 認知心理学
・嶋津安香音(しまづ・あかね) 早稲田大学3年 教育学部 複合文化学科
・杉本奈々子(すぎもと・ななこ) 多摩美術大学3年 グラフィックデザイン学科
東急株式会社(以下、「東急」)
・太田大喜(おおた・だいき) 渋谷開発事業部 渋谷運営グループ 課長補佐
_一次予選を通過して6チームが選ばれた後、各チームは企画をどうブラッシュアップしていくのですか?
太田:各チームに博報堂さんのメンターが1名ずつついて企画を練り上げていきます。その間、私たちも一緒に参加する計3回のワークショップも行い、3カ月後の決勝大会で最終プレゼンをしてもらいました。
_3カ月の間には渋谷の街でフィールドワークなども行ったのですか?
白:延べ100人くらいの方に街で突撃インタビューしたかな。
杉本:ハチ公前広場でスマホとかをいじっている人や待ち合わせしている人に、「お時間ありますか?」といって近づいて(笑)。
嶋津:つかまったら、3分とか1分とか、まずは「はい・いいえ」の2択で聞いてシールを貼ってもらい、もうちょっと聞けそうだったら、じっくりインタビューしました。
白:サイネージに匿名投稿するのは、きっと隣の友達や家族にも言えないことだと思ったので、まずは「人に言えない悩みがありますか?」と聞いて。人に言えない悩みを持っているのか、それがある時はどういう方法で解決するのか? 解決しなくても吐き出すだけでもいいのか?とか、そういうところを聞いていったという感じ。
_それを100人に…すごい!「悩み」という切り口から最終的には「ハチ公神社」に企画が落とし込まれていますが、振れ幅がすごいですね。そこに行き着くまでの経緯を教えてください。
杉本:悩みがワッとあると、気分が良い人でもそれを見たらマイナスな気分になってしまう。その一方、ポジティブなことであれば、逆のことが起きるんじゃないかと。他人のプラスを見ただけで自分の力にもなるし、プラス効果が働くんじゃないかと。
白:調査の中でも、自分の悩みを「すぐ忘れる」とか「友達に相談しちゃう」という声も多く、正直、悩みにニーズがあったわけでもないという。そこでサイネージに上げるものを「マイナスからプラスへ」と一気に発想を逆転させることにしました。
_そこに「ハチ公」と「神社」も結びつくわけですが、どう繫がったんですか?
白:博報堂のメンターさんが「願い」や「目標」を掲げるのって「神社の絵馬に似てないか?」と言っていて。どちらかといえば、私たちは七夕の短冊に近いかなと思っていたのだけど、その「絵馬」という発想と「神社」が結び付いたのかなと思う。「ハチ公」は、渋谷じゃないといけない「渋谷性」をいかに出そうかと考えたときに辿り着いたという感じ。デジタルサイネージは、どこの街にでもあるけど、「ハチ公なら渋谷でやるサービスだ」というイメージを植え付けられるし。
杉本:Google アシスタント にキティちゃんやピカチューと話せるというサービスがあって、渋谷ならハチ公じゃないかと。ただ単にハチ公に目標を宣言するというよりも、神社という見立てがあったほうが見栄えが全然違ってくるし、私もデザインが作りやすかったから。「じゃあ、神社にしよう!」と意見が一致した瞬間、これは盛り上がるかもと思いましたね。
みんなの「目標」や「願い」がぷかぷか浮かぶイメージ
_企画を考える上で、学生らしさ、学生ならではの良さを意識していましたか?
杉本:いろいろな制約や条件などそういうのを一度全部外して、自分たちが一番ワクワクするものとは何か?企画がイケているかイケてないかで決めていいんじゃないかと。
白:自分たちの感覚を使ったという感じですね。学生だからと論理的に考えたわけではなく、3人のああ思う、こう思うという素直な感覚を大事にしました。
_3人が悩みながら企画を練っている姿を客観的に見て、どのように感じていましたか?
太田:すごく悩んでいたし、ハードワークしているなという印象も受けていたので、本当に頑張ってほしいなと思っていました。「モチモチの木」だけではなく各チーム全体を通して感じたことなのですが、ビジネスとして回すことを前提にアイデアを深めてもらうと、絶対に面白いものにならない。そう感じていたので学生のみなさんには今回のテーマ単独ではお金を稼げないアイデアでもいいですと。その代わり、これをやることで当社として販促効果があるとか、告知効果があるとか、提案でお金を稼げなくても、他のメリットがあれば構わないので、思想を広げて考えてみてくださいと伝えました。
_東急さんとしては、各チームの提案を最終的にローンチさせたいという思いはあったのですか? 実際の仕事であれば、必ず着地しなくちゃいけないと思うのですが、今回の場合、学生さんの提案だから、最終的に着地しなくてもいいやと思うところはありませんでしたか?
太田:私がこの企画に参加した時から、プロトタイプ化までは持っていきたい。恒常的なサービスとしてローンチするかはさておき、一旦何かを作りたいという気持ちでいました。とはいえ、学生たちにあまり言い過ぎてしまうと、どんどん小さくなってしまい、良さが消えてしまうというジレンマもありました。
_本当の仕事なら、納期もあるしコストもあるし、落としどころを決めちゃうじゃないですか? 今回の場合は、そこを我慢した?
太田:そうですね。学生さんたちも察してしまい全体的にそっちに寄せてしまうので、なるべく言わないようにしましたね。
_3カ月間のブラッシュアップを経て、みなさんが決勝大会で提案した「ハチ公神社」について詳しく教えてください。
白:私たちの理想のイメージは大きなデジタルサイネージにバーンと神社が現れて、そこにみんなが目標を掲げていくというようなもの。
杉本:鈴をカランカランって鳴らすとハチ公が出てきて、街頭マイクに向かい目標を言うと、マイクで読み取った声がサイネージに表示されます。神社をデザインする時に、渋谷は若い層が多いので女子高生たちが「何これ?」と思わないと、まず見てもらえない。だから、「かわいさ」「ポップ性」をすごく意識して、インスタのストーリーに載せたくなるようなデザインにしました。
嶋津:ハチ公と話しながら投稿すると、サイネージ上の神社の周りにカラフルなみんなの目標アイコンがふわふわと浮かび始めます。自分がその目標を志した瞬間の気持ち、胸の高鳴りを切り取って掲げるイメージです。
白:目標はみんなが見ている街頭で掲げてもいいし、家でこっそりスマホでハチ公と会話しながら、投稿してもいい。実際に渋谷に行けば、大きなサイネージに自分の目標が掲げられているのが見られる。そういう体験がいいなと。
嶋津:自分の目標に対する初心が渋谷の街に浮かんでいるというだけで、自分が勇気づけられる可能性がある。そんな狙いがあります。
白:達成できたら、サイネージの上でハチ公は「ホップする?」と聞いてきて、それを押すと目標が弾けて消える。例えば、受験など長いスパンで頑張るべき目標がある場合、それを毎日見ながら通学するときっと励まされると思うから。
嶋津:たまたまそこを通り過ぎた誰かが、その目標達成の瞬間に遭遇して元気づけられることもあると思う。「今、誰かの願い事叶ったんだな」という、他人のプラスを自分のエネルギーに変換できる。
白:さらにGoogleのリマインド機能を使いながら、目標までに〇〇日とかを表示しても面白いかななど…。
_最終プレゼンの出来には満足していますか?
杉本:もう少し時間が欲しかった。
嶋津:私は満足していません。
白:この人(嶋津さん)は最後まで納得していなくて。
嶋津:ごめんなさい(笑)。
白:私は自分たちの考えていたことを、実際に実現できることがめちゃくちゃうれしいなという気持ち。
嶋津:それは同じです。
杉本:私は「悩み」で通したかったな。「悩み」をテーマにもっといい案を出して、東急さんもこれならやれるみたいなところまで持って行きたかった。「悩み」ではなく「目標」に置き換えてしまったのが、心残り…。
嶋津:確かに。
杉本:でも、時間内のベストは尽したかなと思う。
杉本さんがデザインした「ハチ公神社」。みんなの目標がハチ公の周りに表示される。
_「モチモチの木」の最終プレゼンを聞いて、どう評価されましたか?
太田:「ハチ公」など渋谷と絡む要素も含まれていて、こういう仕掛けは街をすごく面白くするだろうなと感じました。あと私が渋谷ストリームの担当ということもあるのですが、当社は商業施設等でデジタルサイネージを活用しているので、まさにそういう場で実現できるんじゃないかというイメージも湧きました。
杉本:狙ったよね!
太田:グラフィックもとてもかわいくて良かった。残念ながら「モチモチの木」は優勝は逃してしまったのですが、私たちはすごく評価していました。
_「優勝は逃してしまった」という言葉もありましたが、どういう点が評価されたと思いますか? 一方で優勝に一歩届かなかった理由はどう捉えていますか?
嶋津:各審査員の評価はそれぞれ異なっているのかなと思う。東急さんからはビジュアルをすごく評価してもらって、GoogleさんからはツイッターなどSNSで起こっている世界を可視化してリアルな世界に持ってくる視点。さらに博報堂さんはインプット、コンセプト、アウトプットの企画の論理性を評価してもらえたのかなと思います。
白:ただ、アウトプットはキレイにまとまったのですが…。もう明らかなのは、プレゼンのクオリティが非常に低かったこと。6チーム中、3番目にプレゼンしたのですが、見た目もそうでしたし、論理のところも一歩届かなかった。優勝したチームは新しい言葉やキーワードを造ったりしていたのですが、その点、私たちは説得力が弱かったのかなと思う。
_東急さんから見て、「モチモチの木」に足りなかった点は何ですか?
太田:彼女たちのプレゼンは言うほど悪くありませんでした。マイナス要素はなかったし、デザインもアイデアもキャッチーでしたし。ただ、どちらかといえば、優勝チームの出来が抜群に良くて、完成度がすごく高かった。単純に比較した時にそっちにいってしまったというのが、正直な理由です。
_力不足というよりも、敵が悪かったという感じですかね?
太田:そうですね。優勝チーム「御茶ノ水」のプレゼンは「YUBISASHI(指さし)」というアイデアで、観光客などが渋谷のある目的地に行きたい時に、まずSHIBUYA109の写真が出てきて、109を目指して歩いて、次にハチ公像の写真が出てきて、どこだろうと探して…と、渋谷のいろいろなスポットを巡りながら最終的に目的地に辿り着くというもの。目的地だけではない渋谷のまちの魅力を伝える素晴らしいアイデアでしたし、プレゼンもスライドも非常にレベルが高かったです。
_学生のアイデアを実現化していく時に、優勝チーム「御茶ノ水」ではなく、「モチモチの木」を選ばれたのはなぜですか?
太田:優勝チームのアイデアはすごく良かったのですが、実現するのはコストや手間が相当かかるため、現実的ではないと判断しました。学生たちには申し訳なかったのですが、大人の事情ですね。一方で実現性やコスト面で可能性が高く、「実際にやったら面白いよね」という声は、満場一致で「モチモチの木」でした。
3人:うれしいー!
太田:繰り上げということでもなく、斬新なアイデアを評価するビジネスコンテストという点では、「御茶ノ水」がトップで、プロトタイプを作るという点では「モチモチの木」が1位だったということです。
白:願ってもないことで本当にうれしい。
太田:やるからには、なるべく彼女たちの考えたイメージをそのまま形にしたいなと思い、「ハチ公神社」などのビジュアルはほぼ修正を入れずに採用しています。ただ、最終プレゼンで彼女たちが提案してくれた部分で実現できないところもあって、1つは掲げた目標が達成したら弾けるというのは、そこまで各個人の目標を追い続けるのはコストと手間が掛かりすぎてしまい、残念ながら諦めました。
_確かに個人情報を保存管理していくのにコストがかかりそうですね。
太田:あと投稿したら、リアルタイムでサイネージに反映されるというイメージでしたが、コンプライアンスの問題もあるので、一度スクリーニングしなきゃいけないだろうと。どうしても問題発言が投稿されてしまうリスクがあり、それをチェックする手間がかかる分、投稿反映までに1〜2日を要するというのが、変更せざるを得なかったもう一点です。ですが、今回はあくまでもプロトタイプなので、本格的なローンチというよりも、期間限定で楽しんでもらえるものになればいいなと思っています。
_どこに行けば、「ハチ公神社」を実際に見ることができるのですか?
太田:11月15日から既に Google アシスタント で、皆さんの目標が投稿できるサービスが始まっています。11月20日から12月19日までの1カ月間にわたって、渋谷ストリーム2階インフォメーション横のデジタルサイネージにハチ公神社が登場し、みなさんの投稿した目標がフワフワと浮かびます。投稿は1〜2日程で反映されますので、多くの人に楽しんでもらえるといいなと思っています。
_みなさんは、どんな方々にどう楽しんでもらいたいですか?
白:私たちと同世代はもちろん、TikTok層(10代)から忙しい大人の方まで楽しんもらいたい。
杉本:デジタルサイネージは企業さんや施設のものだから、そこに自分たちの言葉が表示されることは凄いことだと思う。ぜひ投稿して楽しんでほしい。
嶋津:渋谷を通学、乗り換え等で日常から使っている人たちに、渋谷に来るたびなんだか元気がもらえる、と思ってもらえるようなアイデアを作ったつもりです。サイネージ前をたまたま通りかかった人にも、自分の目標に近づくエネルギーを感じとってもらえれば、と思います。
白:ここを通るたびに「私はこんな宣言してやったぞ!」という気持ちを思い出してもらい、目標達成を目指すという体験をしてほしいなと思う。
「ハチ公神社」―渋谷ストリームで自分の目標を宣言してみませんか?