学生コンペのアイデアを実現化! 渋谷ストリームに願掛けスポット「ハチ公神社」
チーム「モチモチの木」
・白詩佳(はく・しか) 東京大学大学院2年生 認知心理学
・嶋津安香音(しまづ・あかね) 早稲田大学3年 教育学部 複合文化学科
・杉本奈々子(すぎもと・ななこ) 多摩美術大学3年 グラフィックデザイン学科
東急株式会社(以下、「東急」)
・太田大喜(おおた・だいき) 渋谷開発事業部 渋谷運営グループ 課長補佐
2019年11月20日から12月19日まで、渋谷ストリーム2階インフォメーション横のデジタルサイネージ上に「ハチ公神社」が出現しています。この神社はスマホ等の Google アシスタント から呼び出すことができ、自分の「目標」や「達成したいこと」を宣言すると、その宣言がデジタルサイネージ上のハチ公神社に投影されるというものです。神社の絵馬のように自分の目標を明確に掲げることで、目標達成への第一歩につながります。実はこの企画は、今年5月から8月までの期間、博報堂ブランド・イノベーションデザインと東京大学教養学部教養教育高度化機構主催で開催されていたブランド・イノベーションデザインコンテスト「BranCo!特別編」で、学生から提案されたアイデアをプロトタイプとして実現したものです。企画の甲子園とも呼ばれている学生対象の同コンテストで、東急、Google、博報堂から高い評価を得て、今回プロトタイプ制作まで漕ぎつけたのが、現役大学生の白詩佳さん、嶋津安香音さん、杉本奈々子さん。「ハチ公神社」の公開にあたり、3人にコンテスト参加の経緯から、企画アイデアを創出し練っていく作業をどう進めていったのかまで、詳しくお話を聞きました。「臭い」「汚い」「ごちゃごちゃしている」など、渋谷に対するネガティブなイメージから、最終的に発想をどう逆転させていったのでしょうか。早速、3人のトークを見ていきましょう。
_みなさんは大学と年齢がバラバラなんですけど、どこでどう出会った仲間ですか?
白:私たちはミュージカルで出会ったメンバーなんです(笑)。全国で展開する劇団があって、そこで。
嶋津:もう辞めてしまったのですけどね。2年くらいやっていました。
白詩佳さん
白:ちびっこから、中・高校生が中心の劇団の中で、私たちは同期みたいなものでした。みんなとても優秀で、ノリについていけなくて、新メンバーウェルカムって感じではなくて最初厳しかったんです(汗)。それと私たち多分みんな変で馴染めなかった部分もあるかも(笑)。
杉本:それはあるね(笑)。同じ大学生でも、音大のミュージカル科の子がいたり、私はミュージカル初心者過ぎて、結構怯えていたんですけど、安香音(あかね)が色々教えてくれて、それで仲良くなりました。
嶋津:そうだったよね、変な者同志が仲良くなった感じです(笑)。
杉本:今回の件も、詩佳さんがBranCo!(ブランコ) を一緒にやらないかと誘ってくれて、2人がやるならやる…みたいな軽いノリで始めたのがきっかけ。それが、いつの間にかここまで大きくなっちゃった感じ。
嶋津:でもBranCo!をやって、3人の絆がすごく深まったよね。
_そもそも、白さんが2人をBranCo!に誘ったきっかけを教えてください。< />
白:私が言い出しっぺなのですが、実は以前、別のメンバーとBranCo!に挑戦したことがあって、その時は一次予選を通過したのみ。悔しくてリベンジしたいなという気持ちはあったのですが、就活中で参加するかどうか迷っていて。そんな中で、博報堂のOBの方に連絡を取ったところ、アポは取れなかったのですが、何故か「BranCo!」参加のお知らせが届いて。一応、広告業界を志望していたので説明会を聞きにいったら、やっぱり面白そうだなと。じゃあ、誰と一緒にやろうかなと考えた時に、まず浮かんだのが2人だった。
嶋津・杉本:うれしい!
_さて今回、3人は「BranCo!特別編」に参加されましたが、通常のBranCo!は課題テーマに対してかなり自由な企画が可能だと思うのですが、特別編はクライアント(東急、サントリー、すかいらーく)が決まっていたり、アウトプットのツールとして「Google アシスタント」を使わなきゃいけないなど、いろいろと条件が多かったと思うのですが、企画を練る上でやりやすかったですか?それともやりにくかったですか?
杉本:3つ条件があって、1つ目はBranCo!のテーマである「Digital Wellbeing(デジタル・ウェルビーイング)」を考えること、次にGoogle アシスタント、「OK Google」を使わないといけないということ。最後は東急さん、すかいらーくさん、サントリーさんのクライアントの課題の中から1つ選ばなければいけないということ。
嶋津:3つの縛りに意外と振り回されて、本当に難しかったよね。いい案が出た!と思っても一つ条件を満たしていなくて、今度はその条件をクリアしたと思ったら、また別の一つの要素が薄くなったり抜けたり・・・の繰り返しでした。
_ちょっと整理して聞いていきたいと思うのですが、日頃、皆さんは「OK Google」をはじめAIアシスタントを使ったりしていますか?
白:Siriを使っています。
嶋津:私は全く使っていないです。
杉本:普通のGoogleアプリで入力して検索するのみで、Google アシスタントは使ったことがありませんでした。
左)杉本奈々子さん 右)嶋津安香音さん
_じゃあ、今回の課題を考えるため、「OK Google」から試してみた思うのですが、実際に使ってみて、どうでしたか?
白:いやー、これを言ってもいいのかな(笑)。正直、思ったほど賢くなかった。人工知能というと、どんどん学習して、人生相談でも何でも答えてくれるんじゃないかと思ったのですが、期待する答えは得られませんでした。
杉本:自分の欲しい答えがAIアシスタントから帰って来ないことが多くてあまり使えないなって。
嶋津:だからこそ、もっと発展させてほしいんだろうなとも感じました。
_こうやって3人でお話している姿を見ていると、きっとブレストもわいわい楽しそうにやっていたのだろうなと想像できます。ちなみに企画の打ち合わせは、どんなツールや方法を使って行ったのですか?
3人:LINE電話!
嶋津:話がまとまらなくて。
杉本:テキストじゃ追い付かないから(笑)。
白:もちろんLINEでもめちゃめちゃ共有したんですけど、基本的には電話がメイン。
杉本:詩佳さんはテキストをまとめるのが上手なんですけど、私は文字で打つと、何言っているのか分からなくなっちゃうので。
白:彼女(杉本さん)はスケッチブックで絵を書く方が得意なんですよ。
杉本:だから絵とか、写真で見せ合ったりとかして…。
白:3人でアイデアをいろいろ出して、ワーとなっているのを、理論的に肉付けする作業を私がやったという感じですね。
_ちなみにみなさんは近いところに住んでいるんですか?
嶋津:割と近いかな、みんな東横線沿いですね。
杉本:週1回くらいはガストで会っていたかな。他のチームよりも密に打ち合わせを行ったほうだと思う。
嶋津:「もう帰ってください」と店員さんに言われたりして。
杉本:閉店までね(笑)。
白:プレゼン直前は、ほぼ毎日電話していたよね。みんな結構忙しいので、深夜1、2時くらいに電話することも多かった。
左から太田大喜さん(東急)、杉本さん、嶋津さん、白さん
_かなり打ち合わせを重ねていたんですね。クライアント3社のうち、みなさんは東急さんの課題を選びましたが、すぐに決まりましたか?
白:まずはクライアントの課題よりも、今回のBranCo!特別編のテーマである「Digital Wellbeing(デジタル・ウェルビーイング)」についてめちゃめちゃ議論しました。私たちなりのウェルビーイングというのは「本音が言えることじゃないか」と。本音が言えてこそ、精神的により良く生きることができるんじゃないかと思う。
杉本:その「本音が言えること」を形にしていくときに、サントリーさんや、すかいらーくさんなど商品やサービスを提供する会社よりも、渋谷の都市開発などを進める東急さんのほうが空間や場も使えて、大きなことができるんじゃないかと。
白:モノよりは街のほうが面白そうだし、幅が広そうだというイメージもあって、東急さんの課題を選びました。
_今回の東急さんのお題は「もっと人々を刺激する、SHIBUYA LIFEの愉しみ方」でしたが、みなさんと渋谷との関係やイメージを教えてください。
白:私は渋谷区立の小学校出身で、忠犬ハチ公像の掃除もやったことがあるくらい。今は目黒に住んでいますが、小さい頃から渋谷を無茶苦茶使っていました。
杉本:私も渋谷駅から電車で10分くらいのところに住んでいて、高校は渋谷から井の頭線に乗り換えて通っていたので、ほぼ毎日使っていました。でも渋谷というテーマになった途端、3人からは悪口しか出てこなくて(笑)。
嶋津:臭い、汚い、ごちゃごちゃしている、うるさい、パリピが多い…。
杉本:高校時代、大きな荷物を持って朝練に行くときに、人が多すぎてエスカレーターになかなか乗れなくて。朝、イライラして性格が悪くなっていました。
嶋津:私ももっぱら乗り換えしか使わない。渋谷は身近だけど、自分の大好きな街ではないという感じです。
白:3人の中で、私が一番渋谷にインボルブしているかも。今も毎週、渋谷のダンス教室に通い、帰りには必ずタピオカを飲んでいます。大学からも家からも2駅ずつの立地で友人たちと会うのもお酒を飲むのも渋谷が多い。2年前には渋谷のハロウィンに参加したこともあって、「美女と野獣」のベルに仮装して、外国人の友人とワーワーとやったのはすごく楽しかった。いろいろ問題視されているけど、個人的に好きです。
嶋津:日常で人が多いのはストレスになるけど、仲間と集まってワイワイやるのは楽しいよね。
_仲間とワイワイやる時には交通の結節点であるため、集まりやすいのも魅力かもしれませんね。渋谷はネガティブなイメージも強いですが、東急さんはどんな考えで学生さんたちに今回のテーマを投げかけたのですか?
太田:現在、当社では「エンタテイメントシテSHIBUYA」をスローガンとして大規模な開発プロジェクトを進めています。ネガティブなイメージではなく、渋谷をより楽しく、いろいろな人々が集まってくる、ダイバーシティあふれる「エンタテイメントな街」にしていくために、学生さんのステレオタイプに縛られない新しい自由な発想で提案してもらったら、きっと面白いだろうと。さらに実現可能なアイデアが出てきたら、会社として取り組むこともできるんじゃないかという期待感から、今回のテーマを課題にしました。
_今回、約30チームの学生さんからご提案を受けたそうですが、どんな形で一次予選を行ったのですか?
太田:今年の5月初め、当社とGoogleさん、博報堂さんの担当者と一緒に、約30チームの学生さん全員からプレゼンをしてもらいました。その中から評価の高かった6チームが予選を通過しました。
_学生さんのアイデアを聞いてみてどうでしたか? 何か刺激を受けたり、まだまだと思ったり…
太田:両方あって、かなりまとまっている印象もありました。こちらとしては、もっとぶっ飛んだアイデア、大人じゃ絶対考えないアイデアを期待していたので。一方でエッジが効いているというか、正直粗々だけど、考え方は面白いなと思う提案もありました。例えば、彼女たちのチームもその中の一つで、「人の悩み」をデジタルサイネージに表示するというアイデアでしたが、その陰気さがユニークだなと感じました。
_最初の企画アイデアも大事だけど、伸びしろなども選考に大きく影響したんじゃないですか。
太田:そうですね、一次予選時の完成度はそんなに高くなくてもいいのかなと。予選通過後、決勝までに何度かワークショップが予定されていて、その中でアイデアは徐々に磨かれていくと思っていましたので。主催者側からも選考時は「そんなに完成されていなくてもいいです」と言われていました。実際、プレゼンの完成度が高くても、一次予選で落ちてしまったチームもありましたので、プレゼンがうまいか否かが選考結果に直結したというわけではありません。
白・嶋津・杉本:へぇーそうだったんだ。
太田:インプット(リサーチ)、コンセプト、アウトプット(デザイン)という3つのステップがある中で、私たちは今回、インプットとコンセプトが面白いチームを選びました。彼女たちもそうで、「渋谷に来ると大多数のうちの一人だから、寂しくない」と言っていて…。
嶋津:人が多いからこそ埋もれる安心感があるね、って三人とも実感していました。
白:「混雑して嫌だ!」という捉え方もあるけど、この人(杉本さん)がね、泣きながら渋谷を歩いていたことがあるらしくて。一人で家にこもって泣いていると鬱っぽいけど、人が大勢いる混雑した中では少し緩和される…。
杉本:当時悩んでいたことがあって、部活帰りにクタクタになって泣きながら渋谷を歩いていたんですけど、そんな中でも人はぶつかってきたりして、逆にそれにホッとしたというか。向こう側からすれば、私は単なる通行人で、こっちからしても向こうは単なる通行人の一人という、そういう安心感がありました。落ち込んでいる時って悲劇のヒロイン思想っぽくなるけど、渋谷はそれを跳ね除けてくれる、という感じ。
嶋津:リアルなツイッターというか、匿名性というか。そういうイメージがある。
_確かに渋谷の中では一個人の存在なんてone of themだし、埋没してしまう。そこに孤立を深めるわけではなく、むしろ安心感を覚えるという発想ですね。みんなの「悩み」を Google アシスタント に相談をするというのが、一番初めのアイデアですか?
白:そう、Google アシスタント に「悩み相談」ができたら良かったのですが…。まだAIには、その能力がなさそうだなと思ったので、あくまでも媒体として捉えてデジタルサイネージのほうをメインで考えることにしました。
杉本:AIアシスタントは最適な答えはくれないけど、話し合い相手にはなってくれるんですよ。何か言えば、必ず何かを返してくれるから。とりあえず、Google アシスタント に自分の「悩み」をぶつけてみようと。
嶋津:それをそのまま大きなサイネージに映し出して、自分の悩みさえも、みんなの悩みの中の一つであるという実感をさせるんです。例えば、渋谷スクランブル交差点のデジタルサイネージにそれが表示されれば、交差点を歩いている人のリアルが可視化される。
_例えば、具体的にどんな悩みですか?
白:本当に何でもよくて、テストやばいとか、トイレ行きたいでもいいんです。
杉本:過食してしまうとか、家族とうまくいかないとか。
嶋津:何でもいいんですけど、悩みは声に出して吐き出すことに意味があると思っています。
杉本:サイネージにポンポンいろいろな人の悩みが出てきて、そこに自分と同じ悩みを持っている人がいたら共感したり…。あと暗すぎる考え方だけど、自分よりももっとひどい悩みや悪い環境にいる人がいたら、まだまだ自分は言うほど大したことないみたいな安心感を得ると思う。
_ちなみにみなさんは、何かチーム名があるのですか?
杉本:モチモチの木です! すごい適当なんですけど(笑)。
白:なんかみんなが、モチモチしているから。
杉本:そうだっけ? そんなの聞いてないよ(笑)。
嶋津:いや、アウトプットのイメージから「花さき山」の花畑のイメージが重なったんだよ。
白:「花さき山」という絵本があって、それは何かを我慢したらその花が咲くという話で、デジタルサイネージに「本音」や「悩み」がポンと浮かぶというイメージを想像したときに、「花さき山」のあのカットに似ている…みたいな…。でも「花さき山」よりも、同じ作者の絵本「モチモチの木」の方がインパクトあるよね。
嶋津:そっちの方がかわいいねーみたいな。
杉本:で、チーム名が決まったという…結構適当です(笑)。
_では「モチモチの木」のプレゼンを聞いて、東急さんはいかがでしたか?
太田:彼女たちのキャラクターとか、「悩み」をサイネージに載せるという陰気なアイデアは面白いなと。一次予選を通ったら、もっと面白くなるかもという期待感もあって選びました。ただ、サイネージにそういうネガティブな声がたくさん表示されていたら、どうなの? という実際のアウトプットには問題があるかなと思いましたけど(笑)。