旅を通じて「将来アジアにオフィスを」という夢が芽生えた

_モントリオールは、北米の中でも特にクリエイティブな街なのでしょうか。

モントリオールの土地柄か否かは何とも言えませんが、確かにクリエイターはたくさんいます。だから、才能のある人を見つけるのは非常に有利な場所と言えるかもしれません。昔からシルクドゥソレイユをはじめ、サーカスの業界が非常に大きく、最近ではテクノロジーやビデオゲームの業界も非常に盛り上がっています。またゲーム業界のほか、ここ20年ぐらいで世界中からアーティストやテクニカルの人びとが集まり、アート業界からも注目される街になっています。僕らMoment Factoryもチームの半分ぐらいは外国から来たメンバーで、約15カ国の人が在籍しています。「多文化であるということ」「多くの専門分野が集まっているということ」、この2つはモントリオールの特徴であり、僕らMoment Factoryの特徴とも言えます。

_その中でMarc-Andréさんは、どういうポジションで、どんな仕事を担っているのですか

2009年に大学を卒業して、すぐにMoment Factoryに入社。最初の仕事はインタラクティブ・メディアで、プロジェクションマッピングを行うためのソフトウエアの開発などを担当しました。その後、プロジェクトマネジメントやクリエイティブ・ディレクター、プロデューサーなどの経験を経て、マネージング・ディレクターとしてLAオフィスの立ち上げにも参加。そして今春、東京オフィスを開設するためにやってきました。入社から10年が経ちましたが、すごく刺激的な経験や出来事が沢山あり、あっという間に時が過ぎたように感じています。様々なポジションでの仕事を体験し、それぞれを通して成長していくなかで、Moment Factoryのポテンシャルを実感することができて良かったと思っています。

_今回、東京オフィスはアジア市場の拠点として位置づけているのですか？

そもそもアジアに興味を持ったのは、2011年まで遡ります。僕にとっては、非常に重要な年なのですが、その2011年に個人旅行として6カ月間にわたって世界中を旅して廻りました。「インスピレーションの旅」と名付けていて、特にアジアの国々をたくさん巡ったのですが、多くのアジアの国々でマルチメディア・エンターテインメントのポテンシャルの高さや可能性を感じました。その旅の経験から「将来的にアジアのどこかでオフィスを開きたいな」という気持ちが芽生え、2011年から僕が夢見ていたことが、今年ようやく現実しました。

_なぜアジアの拠点として、東京・渋谷を選んだのですか？

日本を選んだのにはたくさんの理由があります。Moment Factoryの文化とビジョンを、アジアのどこかの国に持っていきたいという気持ちはずっと抱いていたのですが、どこの国にすれば良いのかすごく迷っていました。約2年ぐらいかけて、上海、シンガポール、香港、東京などを候補として、どこがベストなロケーションかを話し合ってきました。そのなかで日本を選んだのは、自然とのつながりを大事にしている点が大きな理由の一つです。「LUMINA」というプロジェクトは、自然の中で行われるナイトウォークなんですが、日本人のイルミネーションへの関心の高さはものすごく大きく、さらにコラボレーションができる協賛企業の選択肢も多い。自然を舞台にした「LUMINA」のプロジェクトは、Moment Factoryの中でも最も成功しているプロジェクトの一つなのですが、その最初の海外ロケーションとして、日本の自然の中で展開するのがふさわしいのではないかと。ロケーションと文化、コラボレーションできる企業、テクノロジー、オポチュニティー（機会）、それから自然とのつながりなど、複合的な理由から日本に決めました。

さらに、なぜ渋谷かといえば、海外でもとても有名な観光スポットであることが挙げられます。私たちも日本に来て、一番初めに渋谷を訪れました。ロケーションとしても東京の中心に位置していますし、流行の発信地として非常に活発な街です。Moment Factoryはバズを生み出すことに長けていますが、それにふさわしいロケーションだと感じました。特に僕らのオフィスがある渋谷キャストの立地は、活気のある渋谷の中心部と、リラクシングな感じのカフェなどがあるキャットストリートをつなぐ結節点であることも魅力的で、オフィスを構えるならここだと思いました。

過去のプロジェクト事例03 /関連動画：「FORESTA LUMINA」 マルチメディア・フォレストナイトウォーク(2014年ケベック)
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渋谷に身を置き、刺激し合えるコラボレーターを見つけたい

＿単独のオフィスではなく、シェアオフィスに入居されたのはどうしてですか？

大きなオフィスを借りる選択肢もあったのですが、今回はあえて「シェアオフィス」に入居しました。僕らが入居するco-labには現在、50社以上の会社がいらっしゃいますが、外国の企業は僕らだけ。日本文化の中にどっぷりと浸れる環境に身を置き、様々なクリエイターやデザイナーらと刺激し合えること。新しい出会いやアイデアを創出するためには、これがとても大事だと考えていて、シェアオフィスという形を選びました。

_co-labの印象や雰囲気はいかがですか。

パーフェクトです。皆さん非常にハッピーな空気で働かれているので、雰囲気はとても良いですね。入居者の皆さんとのコミュニケーションは、なるべくするようにしているんですけれど…。ただ、知っている日本語が数えるぐらいしかないので、いま頑張っているところです。コミュニケーションに大事なのは、スマイルです（笑）。

_実際に来日して3カ月間になると思いますが、特に東京や渋谷で刺激を受けたスポットやモノなどはありましたか？

実は都内は、まだあまり見られていないんです。日本に来てから、北海道、沖縄、京都、大阪、箱根と出張が続き、さらにこの3カ月の間にモントリオールへ5回も戻っているなど、まだあまり都内を見て廻る時間がなくて。プロジェクトがいろんな場所に広がっているので、仕方ないのですが…。近場ですと、代々木公園を訪れたことがありますが、大都市のなかに自然が融合していて、素晴らしいハーモニーを持ち合わせた場所だと感じました。

_東京オリンピックに向けて、新しいビルがどんどん建設され、東京や渋谷の風景が大きく変わろうとしています。大きく変わる東京や渋谷に、何か期待していることはありますか？

東京、そして渋谷は今も十分にとても楽しい街だと感じていますが、渋谷が今後もエンタテインメントプログラム、マルチメディア、そしてナイトタイムアクティビティーなどを提供する街であり続けることを願っています。また、Moment Factoryとしても渋谷でその一助を担えたらと思っています。

_「FORESTA LUMINA」など、自然の中でのアトラクションはとても楽しみですが、大都会・渋谷の公共空間を使って、何かできるプロジェクトはないですか？

過去に僕が関わったもので、都会でできるプロジェクトの参考になる例があります。有名な大学の校舎の壁面を利用して、マッピングを行いました。校舎の横に誰もが自由参加できるオープンマイクを設置し、マイクに向かって何でもいいから話してもらう。例えば、歌をうたってもいいし、ポエムを詠んでもいいし、政治の話をしてもいい。とにかく自由というのがいいんです。その発した言葉が、リアルタイムに壁面に投射されていく。また、情熱的だったり、落ち着いていたり、その人の話し方の感情によって色も変わる。これはまさにアートとカンバセーションを生み出すプロジェクトなんじゃないかと。それを使うのは政治家であっても、シンガー・アーティストであっても、子どもが「わっ」と言って遊ぶこともできれば、若い学生が社会にメッセージを送ることだってできる。街との対話という意味では、とても面白い試みとなりました。このようなインタラクティブなプロジェクトを、渋谷などの大都市でも実現できる可能性があると思います。

過去のプロジェクト事例04 /関連動画：「メガフォン」(2013年ケベック)
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_最後にこれから実現したい夢があれば教えてください。

マルチメディアエンタテイメントを通して、人びとにインスピレーションを与え、コネクションを作っていきたいと思います。Moment Factoryは多くの人びと一緒に不思議な体験をすること、人びとをつなげるインスピレーションを提供することを目指しています。街中、コンサート、公共空間、さらには自然の中でのマルチメディア体験の新しい形を提供することで、人びとを一つにしていきたいと考えています。