デジタルアートを牽引する「Moment Factory」が、アジア初拠点に「渋谷」を選んだ理由とは?
臨場感ある体験のクリエーションに関する専門知識を持ち、Moment Factoryのアジア事業開発責任者、および東京オフィス責任者を担当。その明確なビジョン、戦略的な感性と適応力で、モントリオール、ロサンゼルスオフィス、その他拠点においても国際的なチームでのリーダーシップを発揮している。彼がMoment Factoryで手掛けたプロジェクトの一つには、ロサンゼルス国際空港(LAX)でのインスタレーション(2013年)があり、国際的な賞を6つ受賞。そのうち2つは、バリルの担当した生成型アートワーク「データ・クラウド」に関するものである。また、Moment Factory独自開発のインタラクティブかつ拡大/縮小可能なマルチメディア再生装置「X-Agora」の設計にも携わった。
モントリオールを拠点とするマルチメディア・エンタテインメント・スタジオ「Moment Factory(モーメントファクトリー)」。シルク・ド・ソレイユ、ナイン・インチ・ネイルズ、マドンナなどのライブ演出からスーパーボウルのハーフタイムショーまで、数々のビッグイベントを手掛けてきた同社は、世界最高峰のデジタルアート集団として注目を集めている。今春、海外拠点5番目となる「東京オフィス」を渋谷に構え、本格的にアジア市場の事業開発を促進していく。今回のインタビューでは“ WE DO IT IN PUBLIC”をビジョンとするMoment Factoryの仕事に対する姿勢から、東京オフィスを渋谷に開設した理由まで、東京オフィスのディレクターMarc-André Barilにじっくりとお話を聞きました。デジタルアートは僕らに何をもたらすのでしょうか――。
_まずMoment Factoryとは、どんな会社なのですか?
「マルチメディア・エンターテインメント・スタジオ」と自分たちを呼んでいるのですが、僕らMoment Factoryの仕事は人を楽しませるエンターテインメントであると考えています。そのエンターテインメントに関わる様々なフェーズを、コンセプト策定から設計、制作、設置、運営までをワンストップで行っています。創業は16年前の2001年です。当時は非常に少人数で、仲の良い友だちが集まってやっていた会社で、主にパーティーやイベントなどで流す、ビジュアルエフェクトを使った作品づくりを手掛けていました。そのうちにだんだんと規模が大きくなり、プロジェクションマッピングの仕事や体験型マーケティング等と事業が徐々に広がっていきました。そして世界各地における国際的なプロジェクトの数々を経て、東京オフィスの開設に至っています。
_友だち同士でやっていた小さな会社が大きな仕事を任せられるようになった、そのきっかけやターニングポイントはありましたか?
どこが転機かというよりは、一つ一つのプロジェクトの積み重ねです。今までに400以上のプロジェクトをやっていますが、それら一つ一つがまさに私たちを成長させ、大きくしてくれたと思っています。モントリオールの自社ラボでの実験や、アーティストとのコラボレーション、あとはマドンナとのスーパーボールのハーフタイムショーだったり、バルセロナのサグラダファミリアのプロジェクションマッピングなど、大きな仕事に恵まれたことも大きいですね。今、有名なプロジェクトをいろいろ挙げましたけれども、こうした仕事の一つ一つが僕らの成長に大きな影響を与えています。
_今250人いるスタッフは、どんなメンバーで構成されているのですか。
特徴として、非常に多種多様な専門分野のスタッフが集まっています。コンテンツ制作、コンサート、テクニカルデザイン、ソフトウエアのエンジニアなど、そういった広い分野の専門性を持ったメンバーが集まり、コラボレーションすることで数々のプロジェクトを成功させてきました。制作は、すべてモントリオールの本社で行っています。
_内部制作で、すべて完成させていくというスタイルになるのでしょうか。
制作は社内でやることが確かに多いですが、外部とのコラボレーションも積極的に行っています。今ご質問いただいたことが、まさにロンドン、ロサンゼルスなど、いろんな都市にオフィスを構えている理由の一つです。現在、東京のオフィスには2人しかスタッフがいません。いずれ3人、4人…と増やしてきたいですが。各都市にオフィスを構えることは、その国の文化により近づける、さらにコラボレーションする相手や企業に近づけるという理由が大きい。東京オフィスを作れば、日本の企業と一緒に協力しながら、プロジェクトを進めていくという形を取りやすくなります。
過去のプロジェクト事例01 /関連動画:ロサンゼルス国際空港・シグネチャーメディア装置(2013年カリフォルニア)
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_今までMoment Factoryが手掛けてきた代表的なプロジェクトを幾つか教えていただきたいのですが。
Moment Factoryの活動のビジョンを説明しながら、代表的なプロジェクトもご紹介しますね。まず、“We do it in public”が、僕らが手掛ける全てのプロジェクトにおける共通のテーマになっています。空港や美術館であったり、アーティストとのコンサートであったり、それがどんな場所だとしても、多くの人びとをリビングルームから連れ出し、公共空間の中で楽しんでもらう。それをテクノロジーで、可能にするというのが僕らの一番の特徴なんです。テクノロジーを使って孤立させるのではなく、人と人をつなげるということ。それが可能なプロジェクトだけを選んで、僕らは仕事をしています。
僕らの仕事をカテゴリーに分けて説明すれば、一つ目は「ショー制作」です。具体的には「コンサート」の分野では、マドンナ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ボン・ジョヴィ、エド・シーラン、Jay-z、ジャスティン・ティンバーレイクなどのツアーをはじめ、海外一流アーティストのライブ演出。「体験型マーケティング」では、オークリーやマイクロソフトなど、企業とのコラボレーション。「セレモニー」ではスーパーボールのハーフタイムショー、NBAオールスターゲームの演出、「シグネチャー・ショー」では豪華客船でのショーの制作などを行っています。
大きなカテゴリーの2つ目は「デスティネーション制作」です。デスティネーション制作は、クライアントのニーズに合わせた、カスタムメイドの恒久型かつ多目的に展開可能なマルチメディア・インフラの制作です。例えば、リテールショップやリゾート・アンド・カジノの分野、さらに今、パリで建設している大きなアリーナもここに含まれます。公共空間ではロサンゼルス国際空港(LAX)、テーマパークでは、カナダの森の中で行ったイルミネーション・ナイト・ウォーク「LUMINA PROJECT」などが挙げられます。
どちらのカテゴリーにおいても、様々な空間で映像・建築・アニメーション・音響、特殊効果などを組み合わせたエンターテインメントを数多くプロデュースしています。
_今までの実績を見るとサグラダ・ファミリアやノートルダム聖堂など、教会でもショーを展開しています。教会は神聖な場所というイメージがあるのですが、テクノロジーに対する理解はいかがでしたか?
僕らもすごく感動したんですが、ノートルダム聖堂の仕事の依頼者は教会の司祭樣からでした。テクノロジーが人の注目を集め、高い集客力を持っていることをよく御理解いただいていました。サグラダ・ファミリアでもそうですが、テクノロジーを使うことで、空間の美しさ、建物が持つディテールをより強調できるため、テクノロジーと建築との相性はとても良いと思っています。こうしたプロジェクトに関われたことは、本当に光栄なことです。
過去のプロジェクト事例02 /関連動画:「AURA」大聖堂プロジェクションマッピングスペキュタクラー(2017年ケベック)
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