#シブラバ?渋谷で働く、遊ぶ、暮らす魅力を探る

KEYPERSON

原宿や表参道、代官山など、いつもどこかが輝いている。だから、スターエリアが集合する「チーム渋谷」は面白い

シブヤ経済新聞編集長/みんなの経済新聞ネットワーク代表西樹さん

プロフィール

兵庫県尼崎市生まれ。青山学院大学経済学部卒。PR会社を経て株式会社花形商品研究所を設立。各種企業や新商品・サービスのコミュニケーション戦略の企画・運営を多数手掛ける。2000年4月、広域渋谷圏のビジネス&カルチャーニュースを配信する情報サイト「シブヤ経済新聞」を開設、ヤフーニュースなどにも記事を配信。その後、各地域の運営パートナーと「みんなの経済新聞ネットワーク」を形成。現在は国内外合わせて124エリアで地域ニュースを配信している。JFN18局ネットで放送中の番組「日本カワイイ計画。withみんなの経済新聞」にも出演中。

これほど多くの人が駅と駅の間を楽しそうに歩く街はない

_話は変わって、西さんが学生時代の渋谷はどんな光景でしたか。

僕が学生時代を過ごした80年代の渋谷は、今ほどすっきりとしていなくて、何というか、非常にガチャガチャしていた感じ。音楽やファッションが混在して一つのイメージに定まらない面白さを感じていました。今思うと、それがミックスカルチャーということなのでしょうが、当時は整理していない頭でそれを感じ取っていたのだと思います。もともと出身が下町の尼崎なので、そういうガチャガチャした街に居心地の良さを感じます。学生の街という雰囲気も、今よりずっとありました。僕らもコンパの後はぞろぞろと駅に向かい、ハチ公前広場で円陣を組んでカレッジソングを歌ったりしていましたから。邪魔なことこの上なく、よく怒られなかったと思いますよ(笑)。そんな光景が普通に見られた時代でした。公園通りもキラキラとしていて、第一期の渋谷の面白い時期に学生生活を過ごさせてもらったと思っています。その後、渋谷は、いい意味での混迷の時期を経て今に至るという感じでしょうか。

_昔から「若者の街」と言われる渋谷ですが、街に集まる人の層に変化は見られますか。

最近、若者が減ったな、という印象は強いですね。では、どこに行ったのかと考えると、他の街に取られたというより、SNSに持っていかれた気がします。かつては、山手線の中で「とりあえず渋谷で」と約束して、目的もなく集まるような姿が見られた時期がありました。10代の若者は仲間外れを強く恐れますから、それを防ぐために渋谷に行くという共通認識があったんですよね。今はSNSでつながれるから、家から出なくても仲間外れになる恐れがない。そのため、特別な目的がなければ渋谷に集まらなくなったのでしょう。高校生や大学生にとっては電車賃も馬鹿になりませんから。さらにオフィスビルの拡充などによって街の構造も大人向けにシフトしつつあるので、今後もますます「大人の街」に向かっていくでしょう。そういう変化を敏感に感じ取り、街中では大人向けの客層を意識する店なども増えてきています。

_シブヤ経済新聞の取材範囲は「広域渋谷圏」としていますが、このエリア全体の動向はいかがでしょうか。

シブヤ経済新聞では、渋谷駅から概ね1駅圏を渋谷エリアとして緩やかに捉えています。つまり、原宿、表参道、恵比寿、代官山、神泉あたりまでが範囲です。それで、渋谷と漢字表記にすると渋谷駅がイメージされるため、シブヤ経済新聞はカタカナ表記にしました。僕の学生時代には、これらの駅と駅の間にはこれといって面白い場所がなく、電車で移動するのが普通でした。それが今では、渋谷駅から表参道駅、代官山駅などへの移動は、むしろ歩くのが普通ですよね。これだけ駅間をゾロゾロと人が歩く街は珍しい。つまり、シブヤは駅と駅の間がどんどん面白くなる形で面として進化を続けています。背景には、シブヤのブランド力があり、「このエリアに店を出したい」というやる気のある若い人が、駅前は賃料が高いから、駅からちょっと離れた安い場所に出店するという構図があります。そこをアーリーステージとして成長を目指すわけです。以前、渋谷と代官山の間には、いろいろな店が出店してはつぶれてしまう「チャレンジストリート」と呼ばれたエリアもありました。

各エリアが異なる魅力を放つ光景は、まさに「チーム渋谷」

_そうした進化に伴って、渋谷のブランド力はどのように変化しているのでしょうか。

以前に増してブランド力は高まっていると思いますが、他方では細分化が進んでいます。かつて渋谷は「情報発信基地」などと、ざっくりとした表現で捉えられていましたが、今は原宿や代官山、表参道、神宮前などの各エリアがそれぞれ魅力を放ち、いわばスターエリアが集合する「チーム渋谷」といった様相を呈しています。他の大きな街、例えば、新宿や池袋などはその街自体の存在感は大きいのですが、外延に向かうにつれて印象が薄まっていく。ところが、渋谷は外に向かうと別の魅力を持つエリアが次々に表れるという特性を持っています。時代によって「今は○○が元気」などと盛り上がるエリアは変化しますが、トータルでシブヤを見ると常に魅力的な情報が発信されているというわけです。

_今後の渋谷はどのような盛り上がりを見せると考えていますか。

渋谷ではコミュニティー活動が活発で、地域に根ざしたもの、ビジネスに根ざしたもの、何らかのテーマに沿ったものなど多様に存在します。これらがさらに交錯して新たな考え方や価値が生まれていく点に注目しています。これとも関連しますが、個人的に注目しているのが「トークライブ」の盛り上がり。今年7月にトークライブハウスの「LOFT9 Shibuya」が円山町にオープンしたのに続き、12月には「カルチャーカルチャー」がお台場から渋谷に移転してきました。世の中を見渡すと、デジタル化が進むほど相対的にリアルの価値が高まる状況が見られます。その流れも踏まえると、今後、渋谷がトークライブのメッカになる可能性は高いでしょう。既に、その動きは確実に始まっています。いろいろな価値観を持つ人が交わるトークライブが夜な夜な渋谷で開かれるのは、とても素敵なことだと思います。「ダイバーシティ(Diversity)=多様性」を掲げる渋谷で、街の現在や未来についても存分に語り合い、いろいろな人の思いや可能性が具現化されていく。そんな良い連鎖が生まれるのではないでしょうか。

_再開発が進む中で、これからの渋谷に望むことをお話しください。

渋谷の良さは、やはり一言では割り切れないミックスカルチャー感でしょう。「渋谷でこんなことをやりたい」という意欲のある人に対し、トライアルの場として空間や機会を提供する「余白」があるといいなと思います。例えば、現状、大きな劇場はありますが、小さな劇場がほとんど無く、渋谷の劇団も下北沢や池袋で公演する状況が見られます。ブロードウェーとオフブロードウェーの構造のように、渋谷にも大小の劇場が共に充実してほしいという思いがあります。渋谷には「スモール」という言葉が似合います。先ほどお話しした面としてのエリアの発展も、大資本ではなく、個人、つまりはスモールの動きによってもたらされました。そうしたスモールの発想を取り入れた空間や場がエリアに点在する状況を作ることで、渋谷にしかないものが生まれるに違いありません。そうした余白こそが、渋谷の器量、キャパシティーと言いましょうか。そんな街を作って、「どうだ、渋谷にしかできないだろう」と、全国に見せつけてあげたいですね(笑)。

_最後にこれからの目標をお話しください。

これまで自分が楽しめるということを第一に考えて仕事をしてきました。それは自分の良いところでも、悪いところでもあるのですが……(笑)。そんなスタンスから生まれた「シブ経」「みん経」を通じて、縁もゆかりもなかった多くの人と出会い、さまざまな価値観を持つ人とコミュニケーションをする中で、自分の考えが広がったり整理できたりしています。これからもそんな出会いを楽しみながら続けていけるといいですね。

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