人情味あふれる円山町のラブホテルから、
業界のイメージや文化を根底から変えていきたい
1978年、東京生まれ。2001年、東京経済大学卒業。中学校のときにブラスバンドに入部し、トランペットに出合い、ミュージシャンを志す。大学卒業後、不動産投資会社に入社し、青山のダイニングの店長を経て、ラブホテル部門に配属。2011年に退社して、ラブホテルの管理業務などを行う株式会社スタイルズを設立。渋谷ホテル旅館組合副組合長のほか、東京都ホテル旅館生活衛同業組合理事、池袋ホテル旅館組合理事、東京韓国商工会議所理事などを兼任。
_渋谷のホテル街ですから、やはり客層は若者が多いのでしょうか。
意外に感じるかもしれませんが、実は円山町のホテルのお客様は、当然若い方もいらっしゃいますが、中高年もかなり多いんです。円山町は結構古いタイプのホテルが多いため、きっと若者は新宿などの新しいホテルに足が向くのでしょう。中高年のお客様は、円山町にあるようなホテルのほうが安心して入れるんです。他には、渋谷の企業にお勤めの方が残業後の遅い時間に一人で来られたり、外国人観光客が利用されたりするケースも増えています。
_東京オリンピックに向けて、外国人観光客の利用を促進していくお考えですか。
もちろん、インバウンドの需要の高まりはありがたいのですが、難しさもあるのが実情です。現状でも、地震などの災害時に日本語以外でアナウンスが難しく、外国人を積極的に呼び込んでいないホテルもあります。また、休憩や宿泊がある料金体系が複雑で説明しづらいという問題もあります。それから外国人に向けて、ラブホテルをどうアピールしていくかも課題ですね。ラブホテルの存在を知って興味を持って利用してくださる場合は良いのですが、そういう了解がない外国人に対して、どう発信していくかが難しいところです。
_内部の人間から客観的に円山町を見た場合、どのような街と捉えていますか?
ホテル街ですから敬遠される方もいるでしょう。私自身、昔は「ちょっと怖い街なのかな」と特殊な雰囲気を感じていましたが、今は全く異なるイメージを持っています。円山町を一言で表すと、「男はつらいよ」の世界観ですね。この街で生まれ育った人が多く、ホテルや飲食店などはお互いに顔が見える関係です。昔風情というか、人情味があるというか……。例えば、近所の飲み屋ではツケで飲む人がいて、お店のママが困っていたら、「おれが払っておくよ」と肩代わりしてくれる人がいたり、仕事が終わって帰宅する際に、通りがかりのスナックから「ちょっと寄ってけよ!」と声をかけられたり……(笑)。昔ながらのホテルが多いことを説明しましたが、街自体が変わらずに保全されているから人も変わらないのでしょう。そういう人たちや街の雰囲気が、私はすごく好きなんです。
_ちなみに、青木さんは渋谷にお住まいなんですか?
実家はあきる野市なのですが、バンド活動を始めた頃から渋谷にはよく来ていました。今は、職場である円山町にほど近い神山町に住んでいます。私はラブホテル業界の新参者なので、円山町の住人から「青木さんはいつまでこの仕事をしてくれるのかな〜」という目線で見られることも多くて…。で、この仕事を本気でやっているという覚悟を、住人の皆さんに理解してもらいたいという気持ちから、渋谷に移ってきました。毎日、円山町と神山町を往復ばかりで、スクランブル交差点などにはあまり行きませんが(笑)。円山町は大都会・渋谷の中にありながらも、そこだけローカル色が強く、他の渋谷エリアとはまるで別の街です。
_今後、円山町のラブホテルのイメージをどのように変えていきたいと考えていますか?
ラブホテルは、二つの条件が重なるとできるといわれています。一つは住宅事情。日本のように住宅が狭い場合、夫婦やカップルが好きなときに二人きりになるのは難しいですよね。もう一つの条件が欧米との文化的な違いです。例えば、アメリカ映画で日曜朝の家族の朝食に、娘が自分の部屋から彼氏を連れてきて、父親に紹介する場面を見たことがありませんか。日本の父親なら顔面蒼白になりそうな状況ですよね。こうした条件を満たす、日本や韓国、台湾にはラブホテルがあるわけです。私は、ラブホテルは日本の社会に必要なものであると信じており、「もっと気軽な気持ちで利用してほしい」という気持ちがあります。例えば、「今日は外で食事がしたいな」と思って外食することがありますよね。それと同じように、「今日は外に泊まりたいな」と、ふと思う日もあるでしょう。そんなときに近所のビジネスホテルに泊まるのはちょっと味気ない。かといって、スイートルームはなかなか手が出るものではありません。部屋のクオリティやアメニティにこだわるラブホテルは多く、夫婦やカップルで少し非日常を感じたい日の宿泊場所としても適している。少し大きな話をさせていただくと、日本にそういう文化を広げていきたいという思いがあります。B級グルメと少し似ているかもしれません。焼きそばだって、美味しければ日本全国や世界から注目されるチャンスはあります。しかし、チャンスが回ってきても、それほど美味しくなかったり、毎回味が違って商品として成立していなかったりしたら評価はされませんよね。ラブホテルにもスポットライトが当たる時が必ず来るはずです。そのときにクオリティの高さに驚いてもらえるように、日ごろから努力する必要があると感じています。
_最後に青木さんご自身の夢や目標を教えてください。
私の願いを突き詰めると、妻から「この夫と結婚して良かった」、息子から「このお父さんで良かった」。さらに従業員から「この会社で働いて良かった」と思われたいということなんです。そんな目の前の小さな願いをかなえるため、何をすべきかを考えて行動するうちに「ラブホテルの文化を変えていく」という目標に辿り着きました。妻や息子に「私の仕事に誇りに感じてもらいたい」と。そのためには、私自身が自分の存在を認め、自信や誇りを持って生きていく必要があります。ミュージシャンを諦め、どう生きていくか迷っていたとき、たまたまラブホテル業界に足を踏み入れたわけですが、目の前の仕事に取り組むうちにこの業界が好きになり、そして少しずつ自信が持てるようになってきました。これからも少しでも自分の存在に責任を持ち、社会に貢献していけるように仕事を続けていければと思っています。