ホッとする路地が多い渋谷はカフェに適している
今後も明かりを灯し続けて街の魅力を支えたい
1968年愛知県生まれ。23歳でデザイン事務所ビックボスを設立(1995年にLD&Kに社名変更)。2001年「宇田川カフェ」を皮切りに、渋谷・新宿・品川・大阪・神戸・沖縄に、カフェ・バー・ライブハウスなどを運営。2012年には香港法人「利徳其(LDK)貿易有限公司」、上海法人「上海利徳其餐飲管理有限公司」を設立し、今秋に上海でのカフェバー開業を目指して準備を進めている。
--宇田川カフェの「夜カフェ」、桜丘カフェの「ヤギ」などの発想はどこから生まれてくるのでしょうか。
「夜カフェ」は、「そういう店があったらいいな」という自分の発想から生まれました。学生時代にクラブに行った帰りに始発までお茶を飲もうとしても、当時はファミレスくらいしかなかったんですよ。ファミレスは、クラブ帰りには明るくてまぶし過ぎるんですよね。夜でも落ち着いた雰囲気のカフェでお茶を飲める店があったらいいなと思って、夜中もソフトドリンクを充実させています。桜丘カフェのヤギは唐突に思われるかもしれませんが、オフィス街にこそ癒しの場があるといいなと思ったことがきっかけです。初めは羊も考えましたが、毛の管理が大変みたいで……。調べてみると、ヤギは丈夫で飼いやすく、あまり大きくならない種もいるということで決めました。白毛の「さくら」と黒毛の「ショコラ」の2匹がいます。予想以上に反響は大きく、民放各社が取り上げてくれて、わざわざ地方から家族連れで来てくれるお客さんもいます。桜丘カフェの周辺はオフィス街ですから、以前まで土日は人通りがほとんどありませんでしたが、ヤギを飼い始めてからはすごく増えました。
--現在、中国での店舗展開を計画されているそうですね。
上海に「上海ROSE」というカフェ・バー&クラブを今秋の9月か10月頃にオープンさせる予定で工事を進めています。歴史的建造物を利用した「外灘源」で、プロデュースは写真家の蜷川実花さんですので、すごく雰囲気の良い店になると思いますよ。僕はヨーロッパのような街並みの上海が好きでよく行くのですが、ヨーロッパや香港の人たちがカッコいいクラブなどを経営しているのに対し、日本人が成功しているビジネスはコンビニや日常的な商品・サービスの展開ばかりなので、「この街で日本人としてカッコいいことをしたいな」という気持ちが前々からあったんです。さらに今後の日本の将来が不透明なことを踏まえ、会社の将来を考えると、海外に少し重心を移しておくほうが良いかなという経営的な判断もあります。ただ、中国は商習慣が日本や欧米とはまったく異なるから大変ですね。「なんでそんなことになるの?」というトラブルが結構あるし、何度となく賄賂を求められたり……。そんなこともあってオープンのタイミングがまだはっきりと決まらず、発表できないのが残念ですが、期待してください。
--最近、出版事業も始められましたよね。
そうなんです。「桜丘カフェ」のヤギたちを撮った『しぶやぎ〜さくらとショコラの渋谷さんぽ〜』という写真集も出しました(笑)。出版事業を始めたきっかけは、一昨年、TSUTAYA六本木店で、LD&Kがプロデュースしたブラジル音楽のコンピレーションアルバム『Couleur Cafe』が年間売上1位になったことでした。「なんでそんなに売れたの?」とすごく驚いて店員さんに聞いてみたら、書籍の棚に並べたところ売れ行きが良かったそうなんですね。それなら本とCDをセットにして書籍として売ればいいのではと考え付いたんです。今はCD付きの書籍だけではなく、いろいろと出版しています。例えば、『渋谷50(Shibuya Fifty)-CAFE-』は、渋谷のおすすめカフェ50店を紹介した一冊。周囲から「どうして競合店を紹介するの?」と驚かれましたが、個々の店が発展するには、まずは街自体に人を集める必要があると考えていますので、自分としては違和感がありませんでした。今後は『渋谷50』をシリーズ化するなど、出版事業を強化していきたいと思っています。
--渋谷の街には、どのような印象をもっていますか。
学生時代から遊び場は渋谷でした。新宿や池袋のような怖さはないですし、ごちゃごちゃした路地を歩くのが楽しかったのでしょうね。飲んだりパーティーを開いたりしていたほか、渋谷のライブハウスではよくライブをしました。そんな深い関係だったので、会社を立ち上げるときには渋谷以外には考えませんでしたね。現在、IT関係の若い社長が渋谷に集まっていますが、みんな、おそらく似た考えなのでは。渋谷に会社を構える利点は東横線や田園都市線、井の頭線など人気の路線が集まっていることがありますね。社員にとっては住みやすいし通いやすいし、「渋谷で働いている」ということ自体の喜びもあると思いますよ。
--渋谷の将来については、どのようにお考えですか。
少子化が進んでいますが、渋谷からは若者は減らないでしょうね。地方からもどんどん集まってきますから。そういう意味で渋谷は安泰だと思っていますが、再開発が進む中、今後も小さい店が集まるような街であってほしいですね。道玄坂の百軒店とか、すごくいいですよね。ニューヨークやパリも同じですが、ごちゃごちゃして、どこかホッとできるエリアがないと、街としての魅力がなくなってしまうと思うんです。新たに開発された都市は整然としていますが、僕はあまり魅力を感じませんね。一方で、SHIBUYA 109とか、ヨシモト∞ホール、若槻千夏ちゃんがプロデュースするWC(ダブルシー)など、強い個性のあるコンテンツやショップがさらに増えるといいなとも思っています。そういう場所があるからこそ、若者が集まってきますから。一つ懸念を呈すると、基本的にうちの店は深夜営業をしていますが、最近、早く閉める店が増えているんですよね。だから周囲の店に「できれば朝までやりましょうよ」と声をかけていますが、僕が学生だった頃に比べると、やはり終電後は街が暗くなっているのは否めません。不景気ということもあるんでしょうけどね。今後、渋谷を支えるひとり一人が頑張って明かりを灯し続けていくことが、渋谷の将来を左右するのではないでしょうか。
宇田川カフェがこっそり教える「渋谷50CAFE」登場
渋谷の老舗カフェ「宇田川カフェ」を運営するLD&Kが、渋谷で使える最新カフェを紹介する書籍「渋谷50CAFE」(1,050円税込)を出版。「身体にやさしい自然食カフェ」「コーヒー・紅茶にこだわるカフェ」「スイーツがおいしいカフェ」「音楽&アート&空間に酔う夜カフェ」など、こだわりのカフェを50店収録。「喫煙席あり」「wifi環境あり」「ペットOK」など、分かりやすいアイコン表示や、カフェメニューのカロリー表示を掲載するなど、目的に合ったカフェが必ず見つかる1冊となっています。 渋谷50CAFE | LD&K BOOKS