変化し続け、発信し続ける「渋谷の街」は
新しいライフスタイルを提案する事業に適している
2005年5月、東京工業大学在学中に有限会社グローバルエージェンツを設立。2006年4月、ゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。マーチャント・バンキング部門にて、グローバルのファンド資金を利用した国内の不動産投資に携わり、7件合計約6,000億円の投資案件を担当。2009年1月ゴールドマン・サックスを退職、グローバルエージェンツ代表取締役に再就任して現在に至る。
入居者同士がラウンジなどで交流し合う「ソーシャルアパートメント」という新しいライフスタイルを提案するベンチャー企業・グローバルエージェンツ。代表の山崎剛さんは、学生時代より海外でのハウスシェアや国内で寮、外国人ハウスなどでの生活を経験し、自らが住みたい住環境を模索した末にたどり着いたのが現在のカタチだったといいます。今回は、恵比寿駅から徒歩12分の立地にある人気物件の一つ「ソーシャルアパートメント恵比寿」を内覧しながら、山崎さんの起業のキッカケから成功の手ごたえ、そして情報感度の高い人たちが集まる「渋谷の特殊性」についてお話を聞きました。
--まずはソーシャルアパートメントの考え方についてお話ください。
最初にハード面から「ソーシャルアパートメント」について説明しましょう。ソーシャルアパートメントに近い住居スタイルに「シェアハウス」があります。住人同士のコミュニケーションが図れて賃料も抑えられるのがシェアハウスの良さですが、プライバシーが犠牲になるのが大きな欠点です。また部屋の大きさにもよりますが、同居者の人数は数人程度が一般的でしょう。私たちが提案しているのは、こうしたシェアハウスの欠点をカバーするソーシャルアパートメントという新しいライフスタイルです。ソーシャルアパートメントは、入居者それぞれが一般的なマンションのような部屋をもちながら、ラウンジやキッチンを共有します。普通の賃貸マンションは共有部に極力お金がかからないようにしますが、ソーシャルアパートメントは逆の考え方でラウンジや屋上施設などの共有部はラグジュアリー感のある造りにしています。ラウンジにビリヤードを設置したり、フィットネス施設や展望風呂があったりする物件もありますよ。共有部への投資はスケールメリットが生まれますから、設備の豪華さの割に賃料は抑えられ、一般的な1LDKの相場より安く、豊かな生活を手に入れることができます。現在、首都圏を中心に直営とフランチャイズ合わせて12物件約500戸のソーシャルアパートメントを展開しています。
--入居者はどのような暮らしをしていますか。
ソーシャルアパートメントのソフト面における最大の魅力が、何といってもラウンジなどでの他の入居者との交流です。「ソーシャルアパートメント恵比寿」は40部屋程度、郊外の物件は60〜70部屋程度があり、それだけ様々な業界・世代・国籍の入居者と日常的にコミュニケーションを図れるわけです。間取りの基本は1ルームということもあり、入居者は20代から30代の単身者が大半。職業はIT系が多めですが、商社系、金融系、教師、また学生など様々。また都心の場合は、近くの大使館や外資系企業で働く外国人の入居率の高さも特徴です。もともとコミュニケーションをしたいという人が集まっていますから、ラウンジを中心に自然とコミュニティが生まれ、料理を作り合ったり、一緒にお酒を飲んだり、時には友人を招いてパーティーを行ったり、入居者同士がビジネスでつながることもあるようですね。といっても、時には仕事で疲れて誰とも話したくなかったり、恋人を連れていて他の人と会わずに部屋に入りたいこともあるでしょうから、人が集まるラウンジを通らなくても部屋に入れるようにするなど、動線を配慮してプライバシーを確保しています。
--ソーシャルアパートメントのアイデアはどのように生まれたのでしょうか。
まず私自身が学生時代にハウスシェアや寮、外国人ハウス、一人暮らしなど、さまざまな住み方をした中で、コミュニケーションの良さを肌で感じた経験がバックボーンにありますね。さらに私が大学に在学していた2004年頃、ミクシィやグリー、また海外ではマイスペースやハイファイブといったSNSが乱立し、今後もインターネットの世界ではソーシャル化が進むだろうといわれていました。私自身もSNSを体験し、確かに面白さを実感する中で、ふと思ったのが、人々がつながりを求める気持ちは、ネット上だけではなくリアルの場にもあるのではないかということ。そこでリアルな世界にSNSをつくってみたら面白いのではないかと考えてみたのです。ちょうどその頃、不動産会社にインターンシップをしていたこともあり、「住」を中心にしたリアル版のSNS、つまりはソーシャルアパートメントの発想が生まれました。2005年、大学4年生の時に会社を立ち上げましたが、最初はとにかく大変でしたよ。不動産会社とは別のインターンシップ先でお世話になった方から資金援助を受け、良い物件が見つかったら投資をしてくれるというスポンサーまでは見つけたのですが、肝心の物件探しが難航しました。ソーシャルアパートメントの売りはラウンジなどの共有スペースですが、なかなか適当な造りの物件が見つからない。3000件以上の図面を見て100件以上をまわり、苦労の末、在学中に何とか「ソーシャルアパートメント蒲田」と「シェアプレイス読売ランド」の2件の取得に漕ぎつけました。
--大学卒業後、一旦、就職されましたよね。
経営者になるという考えは決まっていましたが、その前に会社勤めを経験するかどうか、かなり悩んだ末の決断でした。結局、就職したのは、投資会社のゴールドマン・サックス証券から内定をもらったことが大きかったです。誰でも株を買うなどすれば簡単に投資家になることはできますが、そのうち成功するのはほんの一部です。そして投資で成功する完全な方法は未だに開発されていませんし今後も不可能でしょう。自ら情報を仕入れ、投資先のリスクやリターンを見据えて自己決定して結果を出す投資という行為は、経営と重なることが多いと思って入社し、3年間勤めました。今振り返れば、あのタイミングでゴールドマン・サックス証券に就職したのは正しい判断で、その経験は確かに今後の企業経営に生きてくると思っています。
--今後は、どのような展開を想定されているのでしょうか。
ターゲット顧客層として3つのフェーズを想定していて、今は第1フェーズです。現在、ソーシャルアパートメントの入居者は、情報感度がかなり高い人たちです。SNSやツイッターといったツールを駆使して自ら情報を得て新しいライフスタイルを手に入れようとする人たちです。物件や部屋の数はまだ限られていますから、そうした層だけをターゲットと考えるのが現在の第1フェーズ。現時点ではマスマーケティングの必要性も感じておらず、情報感度の高い入居者たちがツイッターなどで広めてくれることを想定しています。今後、部屋数が増えてきたら、そうした情報感度の高い人たちの周りにいる層、少し具体的に言うと「新たなライフスタイルに興味はあるが、自分から情報を取ってくるところまではいかない人たち」に働きかける必要が生じると考えています。さらにその先には、それこそマスマーケティングなどを通し、より幅広い層にソーシャルアパートメントの魅力を発信していく第3フェーズがあります。
--東日本大震災をによる影響はありましたか。
震災の直後は情報が錯綜していましたが、皆が集まって話すことで正しい情報を選択することができたようです。隣人がすぐそばにいる安心感により恐怖が緩和されるという良さもあり、災害時などにおけるソーシャルアパートメントの強みを実感しました。震災後、内覧の際に「地震の時、一人で怖い思いをしたので」などと語る方も増えています。また当時、買いだめによる生活必需品の品薄が起こりましたが、ラウンジにいくらか買い置きがあり、それを共有することで不足を免れることができました。一般的なマンションでもそのような備蓄があれば、社会的な混乱が幾分は軽減されるのではないかと思います。