1970年、山口県生まれ。九州大学工学部を卒業後、住友海上火災株式会社に就職。経営企画部で5年の実務経験を経たのち、長年の夢でベンチャーを目指して2000年に退職。渡米してthunderbird大学院経営学修士(MBA)を取得後、シリコンバレーで技術系ベンチャーを支援するハンズオンビジネスを展開。帰国後、いち早くEV分野の成長を予見し、2010年にEVベンチャー「テラモーターズ」を創業。今後、渋谷を拠点として、アジア、世界への進出を目論む。
--EVを普及させていくための方策をお聞かせください。
将来のエネルギーのことを考えれば、必然的にEVへ変わっていくしかない。中国はすごくて、政策的にシフトを進めています。約10年前からアシスト自転車を含めて電動バイクをスタートしていて、年間販売数は2500万台ぐらい。日本のスクーターは30万台、アシスト自転車も30万台。世界のガソリンバイクは4500万台ですから、こんな巨大な市場が中国に既に出来上がっています。それはやっぱり学ばなきゃいけない。日本の経産省、中央自治体の人たちがシリコンバレーに行き、どうやってクラスターをつくるのってヒアリングしているけど、ほとんど何も進んでいない。だけど中国は半ば強制的かもしれないけど、そこをちゃんとやっているわけです。
また品質以外では地道ですけど、やっぱりメンテナンスをキチッとやる体制をつくることですね。修理は家電量販店では出来ないので、その報告を受けたら、僕たちと付き合いのあるメンテナンス専門の会社へお願いしています。だから今後、台数が増えてきたときにはどうしていくか、それを準備していくことが大切になります。もちろん、ガソリン車と比べれば部品点数が少ないため、故障そのものもそう多くはありません。それから一番のネックは認知度がないこと。例えば電動アシスト自転車は今でこそだいぶ売れてきていますけど、最初のころは誰も知らなかったでしょ。誰か著名な人に乗ってもらって、「これ、静かで排ガスも出ないみたいよ」と言ってもらうと、すごいインパクトがあるんじゃないかな。
--既存バイクとは違う世界観やEVならではの可能性とは?
オイルも入ってないですし、臭くもないし汚くもないし、もっと気軽に乗ってもらいたい。さらにバイクとケータイ、iPhone、家電、ITとの融合など、今後はスマートグリッド化が進んでいくと考えています。たとえばアップルの例を挙げれば、彼らは製品そのものだけじゃなくて、付加価値の高いiTunesなどプラットフォームを作って、ここで大きく儲けているわけですね。そういうことを僕たちもやらなきゃいけない。我々の利点は大手と違って、みんな若いこと。大手メーカーの発想だけでは硬直してしまうだろうし、IT的な発想が必要なんですよね。僕自身もどちらかといえば、もう41(歳)のオジサンですが、うちの若いスタッフはみんなアップルを持ち、iPhoneやFacebookを使っている。いわば、EVはネットワークビジネスやインフラビジネス、ステーションとかスマートグリッドとか、様々なビジネスの可能性を広げてくれる。そういう意味では「EV革命」と言っても良いくらい、インパクトのあることだと思うんです。経済産業省とかも言いにくいと思いますよ、EVになったら自動車の部品点数は4分の1に縮小し、大手自動車メーカーの雇用問題になっちゃう。だけど新しいことをしていかないと、どんどん海外企業にやられてしまう。だから、僕らのようなベンチャーとか、異業種の人がこれをやるべきだと感じています。
--話しは変わりますが、もともと徳重さんが渋谷に初めて来たのはいつ頃ですか?
就職は大阪勤務だったのですが、出張で何回か渋谷に来ました。最初は、正直なところカルチャーショックがありました(笑)。山口で、その後大阪でしょ。大阪にもスクランブル交差点みたいに、あんな人がウジャウジャしている所はないですから。とにかくすごいなと圧倒されましたね。東京に住みだしたのはこの3年ぐらい。だけど、僕の中では電動バイクをやるのであれば青山とか渋谷とか、でも銀座ではないなと。それはファッションというか、若い人がいっぱい居てエネルギッシュな感じがあって。田舎から来た僕には、何となくそうしたざっくりしたイメージがありました(笑)。
--新しいカルチャーとして「EV革命」が渋谷の若者たちに受け入れられそうですか?
物理的な面でインフラを整えることもあるでしょうし、まだ電動バイクを知らない人がとても多いので、それをどんどんPR・告知していくことが大事です。例えば、109でよくイベントをやっているじゃないですか、環境フェアではないですが、メーカーライクじゃなくて、もっとカジュアルに若者・女の子が集まって盛り上がれるイベントを催すとか。「SHIBUYA109」のファッションブランドとコラボをして専用のバイクをつくるとか(笑)。今はハードとソフトと両面から同時にやっていくことが必要です。それから、かつての「IT革命」時の孫さんみたいに、僕は渋谷から「EV革命」という考え方をどんどん発信していかなければいけないと思っています。EVだけに限らず、太陽光など自然エネルギーとか、渋谷は次世代のまちづくりの発信地帯、スマートシティーになれるんじゃないかなと思っていますし、なって欲しいです。
--「渋谷の街」に魅力を感じていらっしゃるということですが、一方で現在の渋谷に足りないと感じていることは、何ですか?
そうですね、僕の勝手な希望なんですが、シリコンバレーのような産業クラスターとなるベンチャー企業がどんどん生まれる、そういう街になってほしいなと考えています。工場はどこか別の場所でも構いませんが、ヘッドクオーター、つまり頭脳とか戦略を考えるところは渋谷にあるみたいな。「渋谷ビットバレー」のように一瞬の花火で終わっちゃ駄目だけど、もっと腰の据わった環境ベンチャーがここに集積すればいいなと思います。
--ちなみに今回の東日本大震災で「電動バイク」の販売に何か影響はありましたか?
震災後、ガソリン不足が被災地のみだけではなく関東圏でも起こりました。当社では仙台工場にあった在庫約50台を被災地に寄贈、または半額程度で提供しました。また、関東圏では今までの約3〜4倍ほどの売れ行きを見せました。普段原付に乗っている方がこれを機に電動バイクに買い換えたり、とにかく移動手段としてすぐに欲しいなど、数多くの問い合わせがありました。
--今夏の電力不足などが懸念される中で、EVはどうなっていくと思いますか?
原発の問題などもあり、節電ムードが高まっています。EV自粛という声もあります。ただ、僕は逆にこれを機にスマートシティー、EVなどを進めていかないといけないと思っています。EVは携帯などと同じように、基本的に夜間に充電するものですので、ピーク需要を上回り停電を引き起こす可能性は低いと思います。また、世界規模で見ればCO2削減の問題は待ったなし。この震災でEV化が遅れると世界の企業に遅れをとり、それこそ十数年した時には日本のEVメーカーが世界にない可能性だってあります。エネルギーの見直しと共に、今まで以上にEVを流行らせていきたいと思っています。
--今後の予定や目標は?
最近、僕が注目しているキーワードに「BGC」があります。「ボーン・グローバル・カンパニー(Born Global Company)」っていうんですが、マッキンゼーの人が考えた言葉なんですけど、簡単にいえばノキアみたいな感じ。生まれた時から、創業時から世界市場を目指して展開している会社のことをそう呼びます。いま、日本って、ものすごく閉塞感があるじゃないですか。少子高齢化とか、景気を考えたらしょうがないんだけど、そんなところで暗くなるんじゃなくて、今まで日本が蓄積してきたハードとかコンテンツを上手く使って、それこそ世界市場でやっていこうと。そうすると勇気も出てくるし、ワクワク感も出るし、若い人たちも面白く働けると思います。
僕たちは今年、まさにBGCを見据えてアジアのどこかを拠点として展開しようと考えています。足掛かりは中国や台湾とか、ベトナムあたり。やっぱりベンチャー企業というと、なんとなく胡散臭いイメージもあると思うのですが、僕たちが成功して「立派だな」とか「かっこいいな」とか、そういう憧れの会社になれればいいなと考えています。
--その先の10年、20年後の夢は?
BGCや、いきなり世界市場でやりたいとか そういう意味では、僕は山口県人なんですね。もともと山口県は嫌いだったんだけど、やっぱり革命を起こした国だし。吉田松陰という、彼は志半ばで死んじゃったけど、その後の門下生が次の時代を動かしたわけですよ。ユニクロの柳井さんはじめ、山口県の気概かもしれないですね。日本人的な発想と、海外的な合理的な発想と両方持っているのがいいのかもしれない。日本人の感覚でやっていたら、海外の人は訳が分からない(笑)。僕がそういう事例を示して、次に続く人たちが出て来て欲しい。今、そういう志の高い若者たちがうちに来ているから、最終的には彼らが独立して、うちで勉強したことを生かしてくれれば良いなと思っています。それから直ぐには実現できませんが、それこそ吉田松陰の塾じゃないですが、世界のやつらに負けないような人材育成をしてみたいです。大学の教授が何か分かったフリをして話すのとは違い、ベンチャー経験を持つ僕ならとてもリアルな教育が出来ると思っています。ぜひ、そういうことをやりたいな。