アーティスト。1958年岐阜市生まれ。東京芸術大学大学院修了。大学在学中に第3回日本グラフィック展大賞(パルコ主催)を受賞し、ダンボール作品で注目を浴びる。以後、国内外で個展・グループ展を多数開催するほか、パブリックアート、舞台美術など、多岐にわたる分野で活動を続ける。近年は「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」での明後日新聞社文化事業部の活動や、横浜開港150周年記念テーマベント「開国博Y150」総合プロデューサーなど、各地で 一般参加者とその地域の特性を生かしたワークショップを多く行っている。
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--今年から「渋谷芸術祭」がスタートするそうですが、どんなアートイベントになるのでしょうか?
11月21日(土)から23日(祝)にかけて、渋谷駅周辺の商店街や学校、地域企業関係者が連携しながら、ファッション、アート、パフォーマンス、音楽等を仕掛けるというイベントです。共通コンセプトとしては、学生や若者と、第一線のアーティスト、クリエーターとのコラボレーション。僕は、芸術祭の提案者でもある青山学院大学・総合文化政策学部の井口典夫教授との繋がりから参加することになりました。
--日比野さんはどういったパフォーマンスを?
マルイシティ渋谷1Fプラザで、僕が以前から日本サッカー協会の協力を得て一緒に行っている「MATCH FLAG PROJECT(マッチフラッグプロジェクト)」をやろうと。このプロジェクトは来年、2010年ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会に出場する日本代表チームを応援しようと、街ゆく人びとと一枚の白い布の上に、サッカーの試合で対戦する世界の国々のナショナルカラーを用いたフラッグ作りをするもの。これまで、熊本からスタートしオランダ、ウズベキスタン、種子島など、色々な地域でやってきたから、渋谷の特色ある場所でやれば、渋谷らしい旗ができるんじゃないかと思っています。
--渋谷芸術祭に向けて抱負はありますか?
今回は普段から渋谷にいる学生たちや若者も参加するから、みんなでテンションが上がるようなことをしたいよね。若い世代、特に大学生なんかは、「無責任、でも元気がいい」というポジションで許される身分だと思うし、敢えて持続性は求めない。そんな彼らが、渋谷にずっと根づいている地域の人たちと深く連携してもらえたらいいと思う。まあ「気楽に遊びに来い!」と。「そして楽しかったら後輩に伝えろ!」と(笑)。
--「越後妻有アートトリエンナーレ」「霧島アートの森」「金沢21世紀美術館」 「横浜FUNEプロジェクト」など、全国各地で様々なアートプロジェクトを進行していますが、地域とアートを結び付けることで、どんな新しい可能性が生まれてくると考えていますか?
地域の基本は「祭り」なんだよね。その祭りが無くなってきたから、地域でアートプロジェクトが増えてきたのだと思う。一番の役割は、持続性。イベントのような一過性のものではなく、毎年の行事としてやり続けることだが大切だと僕は考えている。細々とでもいいから続けられるかどうか。僕も昔はイベントをたくさんやったし、色々な土地へ行けて面白かった。そうするうちに「日比野とまた何かやりたいから企もうか?」という連中が各地に出てくる。結局は人と人との繋がりなんだよね。そういう繋がりがだんだんと増えた時、それが地域に根ざしたアートプロジェクトという姿になっていってゆく。
--「明後日朝顔プロジェクト」もそういう流れの中にありますか?
そう。それが一番大きかったね。2003年に、新潟の山中にある70人未満の小さな集落の廃校をベースにして創造活動をはじめたのだけれど、地域に人たちからしてみれば、アートなんてぜんぜん興味ない訳ですよ。でも「なるべく地域の人と一緒になってやれることはないか?」って話している中で、「野良仕事や花の飼育は日常的にやっている」というから、「じゃあそれを一緒にやろう」と。それで朝顔を植えてみた。朝顔は一年草だから秋になると種が取れる。本来は「トリエンナーレ」は3年に一度開催するはずが「種が取れたから来年もやろうか?」ということになり、かれこれ今年で7年目。毎年続いている。朝顔の種が地域の持続性というものを教えてくれた、という側面は強いよね。このプロジェクトを別に広げようとは思っていなかったけれども、今年は全国22地域でやるようになっている。ごく自然の流れでね。
--アートフェスティバルによって全国的な知名度を獲得した地域がある中、既に知名度のある「渋谷」で芸術祭を開く意味は?
例えば原宿のセントラルアパートに色々なクリエーターが集まって、文化発信をしていた時代があったじゃないですか。だから、そうした文化の渦の拠点が、ぐるぐる動き出すところが、渋谷にあったらいいと思っています。最近の世の中は、ものすごくフラットな感じがするから。言い換えれば、新しい文化の作り方を、渋谷は実験する運命にあるのかもしれないね。鉄道業界や流通業界だけが街を作って文化を創造するのではなく、そこにいる住人たちが取り組む。僕は50歳になって、自分たちで物事を動かすことができるような世代になったけれど、そういう人たちが特に中心になって欲しいと思う。今度、墨田区に東京スカイツリーができるよね? あのエリアはいわゆる下町だから、新しく創られる文化も江戸っぽいものが出てくると思う。でも渋谷の場合、違うわけじゃない?この街には、積極的に新しいことを試していく土壌があるから。
--現在、渋谷駅周辺で大規模な開発が進行していますが、「渋谷の街」に残さなければならないもの、さらに将来に向けて新しく必要とされるものは?
東京って色々な人がいるし、きっと渋谷区だけでも何千人というクリエーターがいるだろうけれど、彼らは仕事を除いて知り合う機会がとても少ない。彼らが自然と一緒に集まれる場所があればいいよね。「あそこのカフェに行けば誰かいそうだな」という場所があれば、逆に「いまカフェにいるから来ない?」「いいよ、小一時間だけならば」となる。それって都会ならではでしょう?今はネット上ですぐに誰とでも会うことができるけれど、「物理的空間の中で大きな目的を持たずに会う」、ということが大事なのではないかと。人間は、今後どんどん物理的移動をしなくなると思う。だからこそ、移動したくなるような価値観を提供する必要があると思う。鉄道や駅ということで考えるなら、まずは線路の交差部分をどうデザインするか。そして、駅周辺エリアは地域づくり、街づくりの範疇だろうし、当然、その中で人間同士の繋がりが生み出される。これが街づくりの基本だよね。渋谷は実験的に仕掛ける街だし、21世紀を通り越して22世紀を視野に入れて、「人が移動するとはどういう行為なのか?」を考え、駅という機能について、新しい提案をしてゆくべきじゃないかな。
--近々楽しみにしていることとか、目標にしていることとかはありますか?
このあいだブータンに行ってきて、ブータン人に対しての美術教育をはじめ、現地で色々やってみようかということになりました。ブータンはGNH(国民総幸福量)という概念が有名だよね。経済競争には見向きもせず、国民の精神的幸福を求めようとしている。そんなブータンと何か一緒にやろう!ということ。来年もまた現地へ行くのだけれど、なんだか楽しみなプロジェクトでしょう?
渋谷の秋を彩る新たな風物詩として、クリエイティブな街の魅力を内外に発信するアート系イベント。第一回目を迎える今年のテーマは「若者とアート」。渋谷駅周辺の大学や専門学校、またその出身者、地元の一流アーティストとが協働して企画し、ハチ公広場やマルイ、マークシティなど「渋谷の街」をキャンバスに様々なアート作品やパフォーマンスを展開する予定。
- 日時:
- 2009年11月21日(土)〜23日(月・祝)
- 会場:
- 渋谷駅西口ハチ公広場(青ガエル)/マルイシティ渋谷1Fプラザ/渋谷マークシティ神宮通り上空通路 /青山学院アスタジオ
- 入場:
- 無料
- 主催:
- 渋谷芸術祭実行委員会
- 後援:
- 渋谷区