1948(昭和23)年、東京都生まれ。学習院大学経済学部経済学科卒業、三菱商事入社。1976(昭和51)年、デリカ(現ジャパンイマジネーション)入社。取締役営業部長、専務取締役、代表取締役専務を経て1990(平成2)年、代表取締役社長就任。
--以前の渋谷のイメージはどんなものでしたか?
昔は、渋谷と言えばパルコのイメージでした。ある意味で今の109だったような気がします。あの当時は「渋谷パルコ」というのがひとつのブランドだったと思います。渋谷は昔から、そうした情報発信性があると思います。渋谷パルコが最も輝いていたころは、本当に若いお客さまから支持されて、みんなのあこがれだったと思います。パルコというひとつの文化みたいなものが発信されていて、それが渋谷のイメージと重なっていた時代もありました。
--109のお客さまも含めて渋谷の若者をどのようにご覧になっていますか。
今はかなり幅の広いお客さまが集まっていますが、それでもやはり渋谷が若者の街ということは、この先もなかなか変わらないと思います。自分の会社が若い人を対象にしているので、そうあってほしいと言う意識があるかもしれませんが、なかなか渋谷の街が大人化しないのは、ここまでのところ事実だと思います。渋谷の人は、渋谷の街を何とか大人化しようと思っていますが、個人的にはますます若い人に魅力のある街になっているような気がしています。
--渋谷は若い人たちにとってどういう魅力があると思いますか?
街の魅力を言葉にするのは難しいことですが、やはり109に代表されるように、街に情報があるから人が集まって来るのではないでしょうか。欲しい物を売っているということもありますが、やはり情報力じゃないでしょうか。もちろん人が集まるから情報が集まるとも言えます。結果として今の渋谷には、情報と人のすごくいい相互作用、相乗効果があって、ますます若い人に魅力がある街になっているのだと思います。企業も、若い人がこれだけ集まるから、ここでいろいろテストをしようとか、情報を収集しようという風になるのでは。そのことがまた、渋谷という街の情報発信力になっています。109も地方に幾つかできていますが、やはりSHIBUYA109ですね。昔の商店街の何とか銀座通りと同じで、言葉は同じでも似て非なるもの。渋谷の街自体のブランド力と、109のブランド力がダブルで重なっているからこそ、109の人たちが言う「聖地化」しているのだと思います。
--4年後、東横線と副都心線が相互直通運転を開始します。変化があると思いますか?
それほど大きくは変わらないと思います。副都心線が開業した時も、みんな大騒ぎしましたが、結果、あまり世の中にインパクト与えていません(笑)。今度はもっと大掛かりな話ですから、そんなに簡単な話じゃないかもしれませんが、やはり渋谷とか原宿が持つ文化の土壌がありますので、それほど大きな変化はないと思います。むしろ世の中の、一極集中現象というのは、あらゆるところで共通していますから、新宿とか渋谷とか、地域の中心都市にますます人は集中するのではと思います。
--渋谷の街をふらっと歩いたり、食事をしたりしますか?
事務所と109の間は年中往復しています(笑)。あとは文化村にもよくお世話になっています。芝居でも、コンサートでも、オペラでも、とにかくよく利用しています。そういう所へ行くと比較的年齢が上の方も来ているし、若い人も来ています。食事も時々していますが、食事する場所は確かに少ないと思います。セルリアンタワーもできましたが、街の規模からするとまだ足りないと思います。やはり若い方が多い街なので、ファストフード系は豊富ですけれど。
--来年、渋谷にもH&Mが来ます。こうしたファストファッションをどうご覧になっていますか?
すみ分けるとしか言いようがないと思います。ああした外資のファッションが、これから日本でどれだけのシェアを占められるのかというのは、まだちょっと分かりません。渋谷には、今でも街中にGAPやZARAなどの外資系がありますが、まだそれほど存在感を発揮できているわけではありません。一番の原因は、日本のお客さまが飽きやすい点。ファッションのサイクルが、日本は海外と異常に違うことです。大ざっぱに言えば、海外では2シーズンなのが、109ファッションのサイクルは本当に2週間とか3週間とか…そこがまず合いませんね。H&Mも、その中では大変サイクルが早いと言っていますが、今はまだ新しく来たのでブーム感があります。落ち着いて見ないと、ちょっと分からないと思います。ただ、いずれにしろ、競争が激しくなることは仕方がないことですし、大きくは良いことでしょう。
--東京ガールズコレクション(TGC)でもセシルマクビーさんはメーンで参加していますね。
TGCは、情報発信装置としてはますます大変なことになってきています。それからもうひとつ。今、広い意味で通販が伸びていますね。TGCでは、ショーを見ながら携帯で商品を買えるわけですから、これはもう販売方法としても今までにないようなかたちです。今後ますます定着して、売り上げも伸びていくと思います。その2つの点で当然、無視し得ないどころか、重要な販売ツール、チャネルになっています。先ほど109に新しく入ってきた人たちが、今までのビジネスモデルとは違うやり方で成功したとお話ししましたが、それ以上の新しい発想だと思います。ショーは、パリでも中国でもやられています。日本の雑誌がリアルタイムで向こうでも出ていますから、セシルマクビーは既に知名度があります。そういうベースがあって、こういうことになったと思います。アジアを中心とした海外にどういう風に出て行くかということは、日本の少子化と平行して考えなければいけないと考えています。
--セシルマクビーのブランドを、今後どのように舵取りしていきますか?
それは相当難しいところです。規模を単純にこれ以上大きくしていけばいいという問題でもありません。だいたいこの業界で、ブランドなり、会社なりが駄目になっていくのを私なりに見ていると、もう90数パーセントは店を作りすぎたことによるものだと思います。ですから、どこまで増やしたらいいのかというのは大問題。なかなか見極めが難しいと思います。適正規模は、計算して分かるものではありません。でも、セシルマクビーとして、飽和点に近づいているんじゃないかと思います。もちろん、まだ多少の余地はあると思いますが…。そうなると、セシルマクビーから色々な、ブランドを派生させるとか、全く新しいブランドを育てていくとか…そういうことを考えないといけないとも思います。
--ブランドを長生きさせる秘訣は?
「ブランド」という言葉とちょっと矛盾する話になりますが、日本のお客さまはどんどん志向が変化するので、変化への適応力が大事だと思います。一方でそれは、ブランドの主体性というか、個性を変えることにもつながるので、それはとても難しいことだと思います。本当のブランドは、そうしたコンセプトを本当は変えちゃいけない。変わらないものをブランドと言うのだと思います。でも、セシルマクビーというのは、そうした意味では本当に狭い意味のブランドという定義には当てはまらないんじゃないかと思います。セシルマクビーのコンセプトは、とにかくSHIBUYA109で、いつも輝いているということなので、本当のクリエイティブな意味からすると、本来のブランドではないかもしれません。逆に言えば、この13年間続けてこられたのは、そこから来ていると思います。冒頭でも話しましたが、売れ続けていくには、やはりお客さまのニーズに、その都度応えていくしかないと思います。
--109もオープン当初と全く違った雰囲気になったということですね。
109の売り上げは13期連続増収です。あれは大変なことですし、逆にコンセプトをあまり絞りこみ過ぎると、ああいうことは実現できなかったと思います。一時良くても、時代のトレンドとちょっとずれてしまうと売り上げの伸びが止まってしまいます。うちのことを、僕は本当に積極的な意味で「いい加減」という言葉を使っています。「いい加減」という言葉は、あまり自分のこだわりにこだわらないというか、そういう意味で言っているのですが、いい悪いではなく、私はそれが必要という感じがします。
--渋谷の街にはどういうものを期待されますか?
うちの商売からすると、ひとつは今の若者のメッカであり続けてほしいということと、それと、世の中的に少子化高齢化の流れは見えているわけですから、昔から皆さんが言っている「渋谷の大人化」というか、年齢の幅をもう少し広げていく感じでしょうか。若い人がいなくなると、うちは困るわけですから(笑)。それはそれとして、プラスアルファ、年齢的にも幅広いお客さまが、それぞれに楽しめる街になっていければいいですね。文化村、東急本店はちょっと孤立している感じがしますが、東急文化会館跡地にも施設ができると、面にもなってくるのではないかと思います。109は109で、もう本当に全国の若い人のあこがれのメッカになっているみたいに…。一番悪いケースは全体が一緒になってしまうことで、それでは駄目だと思います。施設ごとに使い分けをするように、ひとつひとつの施設が個性を競う状況にならないと、街は発展しません。109が大人になっても、これはまた駄目ですし、109を真似たものがたくさんできても全然駄目ですね。
SHIBUYA109 2009年初売り・福袋
初売り=2日(金)・3日(土)は11時オープン、
4日以降は平常通り10時開店
福袋=2日(金)8時から整理券を配布
※「セシルマクビー」福袋は地下2階エレベーターホールで販売