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KEY PERSON キーパーソンが語る渋谷の未来

渋谷を中心に活躍する【キーパーソン】のロングインタビュー。彼らの言葉を通じて「渋谷の魅力」を発信します。

プロフィール

1977年、ヤマハのネム音楽院同期生の野呂一生氏に誘われフュージョンバンド「カシオペア」を結成、ヤマハのアマチュア・バンド・コンテスト「EastWest」出場を機に活動を開始。1979年、アルバム「CASIOPEA」でレコードデビュー。以来、キーボードを担当する傍ら、ライブではMCを務めてきた。1985年に音楽館を設立、音楽制作などを手がける一方で、鉄道ファンが高じて、鉄道運転シミュレーション・ゲームソフト「Train Simulator」を制作し、2007年11月発売の「Railfan 台湾高鉄」までに31作品をリリース。2008年5月に東急東横店で開催された「鉄道フェスティバル」では総合プロデューサーを務めた。2001年から名古屋芸術大学音楽学部音楽文化応用学科の新設と共に専任教授に就任している。

「渋谷はこうだよね」と断定させないところが、この街の懐の深さ

--都心部の他の再開発地域と渋谷の違いはどんなところですか?

やはり渋谷には何か色が付きやすい、「渋谷っぽい」という感じがあるんですね。例えば六本木などは、六本木に集まる人間の方に色が付いていて、街自体が強くイメージを出すよりも、あそこはとにかくいろんな人が集まってぐじゃぐじゃしてればいいみたいな感じがありますね。渋谷にも、統率の取れてないところがすごくあります。発達の歴史も経緯もばらばらで、全体を計画するのは難しいかもしれませんが、それがいい意味で同居しているのが渋谷。だから、あまりいじらなくても、このまま新しい施設をつくっていったりする時に、その過去の履歴や過去の関係を意識しながら、うまく住み分けできていくあたりが、「渋谷チック」な感じがします。渋谷は、「何かつかみどころがない」という言い方は失礼かもしれないけど、面白いっていう意味で言えば、そこに来ることによって、「渋谷はこうだよね」と断定させないところが、この街の懐の深さというか、面白さだと思います。僕自身が渋谷で何かしようと思った時、ありとあらゆる選択肢があります。渋谷に行く目的に何か特定の「たが」がはめられないところが、この街の魅力ですね。

--一言で語れない街?

そうですね。そこがこの街のいいところ。だから、街自身が語る場所はそりゃいいですよ、浅草とかね。やっぱり自分で語ってて…それはそれで、それを堪能しに行く。ディズニーランドへ遊びに行くような気持ち。そういうのを経験したい、雷門に行きたいとか特定の目的がある。一方で渋谷は、「何しに行くの?」っていう時に、「何って言われてもね、渋谷なんだよね」「取りあえず渋谷へ行こうか」という話がよく出ます。うちは三軒茶屋だから、急行だと次なの、まだちょっと時間があるっていうと、「じゃ、渋谷へ行こうか」って。何でかわからない。行けば何とかなるだろうみたいな…。それはね、僕は相当いいアドバンテージだと思いますよ。

--「取りあえず」っていう言葉が似合う街ですね。

そうですね。何か渋谷へ行こうかな。買い物しちゃうのかもしれないし、ビアガーデンで飲んで帰ってくるかもしれない…その目的に対して明確なポリシーを持っていなくても何とかなる街。他の街になると、例えば「新宿に買い物に行こう」とか、「銀座に買い物に行こう」となりますね。「取りあえず渋谷へ行こうか」――僕たちが近いからというのもあるかもしれないけど。田園都市線や井の頭線など沿線の人たちは、そう思っている人が多いんじゃないかな。それを吸い上げられるだけのキャパシティーを持っているのが、この街の魅力だという気がします。

将来は、文化を創造発展させる街になってほしい

--逆に渋谷の街に何か注文を付けたいことはありますか?

渋谷は何かエリア的な区分けができないので、迷子になりやすいですよね。目的がそれなりに決めつけられていないという利点はありますが、余りにも決めつけられていないとフォーカスが取りにくい。ですので、街中にもう少しわかりやすい案内板のようなものがあってもいいのでは…。渋谷はいろいろな電光掲示や新しいデジタルデバイスがすごく多いので、それを少しうまくやって、表示形式をもう少し面白くする。もちろん板に書いたものでもいいですから、駅のように案内をもう少し統一的なフォーマットでやった方がいいような気もします。

--(渋谷の)人が多い点についてはどう思いますか?

人が多いのはいいんじゃないですか。人が多くて、どこの店も入場制限とかだと困るけど、やっぱり濃淡があり、それなりに混んでいて…。人間は不思議なもので、人が大勢いるところにいる時、混んでいて嫌だなという気持ちがある反面、そこにいること自体が何か気持ち良かったりするところがありますね。寂しくしているところにポツンと1人でいると、何かつまんない…。ハチ公前のスクランブル交差点も、歩行者がきれいに分かれ歩くからすごいですね。あれを最初に考えた人は天才。考えてみたら、こっちからこっちとか、こうなった瞬間にぶつかると思うじゃないですか。絶対ぶつからないんですよ。人間のすごさを知っていたんでしょうね、考えた人は(笑)。

--4年後、相直が始まると渋谷が「終点」でなくなりますね。

鉄道の原点はああいう終端駅。ヨーロッパでは大きなところはみんな終端駅ですね。北駅、南駅みたいな形でたくさんの電車をそこで止めて…。ロンドンならロンドンでバーッと止めて、相互間を地下鉄なり何なりでつなぎます。渋谷駅もまさにその終端駅の魅力満載のホームです。でも、相直の開始で当然要らなくなるわけですね。寂しいとは思いますが、仕方ないんじゃないでしょうか。終端は終端で運転が大変です。スピードを落として…今の渋谷駅は最後の速度照査の起点になる速度は7.6キロです。7.6キロ以下で最後ちょろちょろと走って止めなきゃいけない。ですから、やっぱりその分時間がかかる。それがここ(新渋谷駅)にスーッと(電車が)入ってくるわけですから、利便性は上がりますね。確実に。

--渋渋谷の未来はどんな感じになっていると想像しますか?

2012年までには新しいビルが建つとか、文化施設が増えますね。商業施設も大事ですが、文化を創造発展させる街になってほしいなと思います。例えば、秋葉原の駅前にはすごく大きくてコンプレックスな商業施設と、ソーホーの考え方を融合したエリアが誕生して見事だったと思います。渋谷もそういう計画性のもとで、これからの10年20年の間に、秋葉原よりはもう少しジャンルを広げて音楽なり映画なり演劇なり、芸術全般、そういったものを発信できるような街になってほしいですね。「メイドイン渋谷」みたいなものができるんじゃないでしょうか。渋谷出身のアーティストとか…カッコいいじゃないですか。僕も渋谷出身のミュージシャンとか言いたいですから(笑)。渋谷に影響を受けて何か作品ができるとか、何か一つのエリア的なコンセプトを持つ…そういう部分があるといですね。どうせそんなこと言っても、この街は絶対一筋縄でいかないのはわかっているので、あえてそういうことをちょっとアドバルーン出してみるのもいいかもしれません。ちょっとぐちゃぐちゃなもの、いわゆる少しカオス的な要素をもう少しポジティブに利用する――それはエネルギーになるような気がします。

--特に音楽は「メイドイン渋谷」でいろいろなことができますね。

そうですね。ここはライブハウスが多いので。ここを本拠地にした例えばレーベルだったり、レコード会社ができたりとか、放送局ってわけじゃないけど、ウェブで発信できるウェブステーションができるとか。インターネットは、地域性を持たないものがインターネットですけど、あえて渋谷発のインターネットというのもいいかもしれない。これからは、ワールドワイドな考え方よりも「地域性」のあるものの方が大事になってきますね。

--5月の鉄道フェスティバルに合わせて、「東横特急」が発売になりましたね。

これは渋谷から元町中華街までの特急停車駅を紹介しながら、そこにまつわるいろんなストーリーを展開しています。例えば自由が丘はセレブのマダムが乗り込んできて、それがなぜか犬を連れているのですが、犬はワンワンうるさいっていろいろ注意されたりとか…(笑)。田園調布から目黒線と併走するところで、東横特急と目黒線の急行のバトルが起きるので、それをF1チックに解説し、武蔵小杉に着くと、その後ちょっとエピソードがあって…。最初か最後まで聴き終わると33分で、東横線の渋谷〜元町・中華街間と同じダイヤになっています。まさに、東横特急が渋谷を発車した直後からヘッドホンで聴くと笑えますよ、これ。ほぼリアルタイムですから…(笑)。

株式会社音楽館

東横特急(鉄神降臨)

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