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KEY PERSON キーパーソンが語る渋谷の未来

渋谷を中心に活躍する【キーパーソン】のロングインタビュー。彼らの言葉を通じて「渋谷の魅力」を発信します。

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大森峻太さん
(ジェイノベーションズ代表/Japan Local Buddy代表)

困っている外国人がいたら、誰かが声をかけてあげる。「日本で一番、外国人にフレンドリーな渋谷」になってほしい。

プロフィール

1989年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。國學院大学在学中にカナダや韓国留学を経て、2012年オーストラリア政府観光局留学モニターとしてシドニーへ留学。大学卒業後はカナダに拠点を移し、「現地の人々と交流する」ことをテーマに2年ほどかけて海外を周る。帰国後、2014年に外国人観光客と日本人をつなぐ国際交流プラットフォームを立ち上げる。2016年にインバウンド事業をメインに手掛ける「株式会社ジェイノベーションズ」を設立し、代表取締役社長に就任。現在は外国人観光客向けボランティアガイド団体「Japan Local Buddy」の代表も務め、全国でガイド育成に取り組んでいる。

熱量だけでは続かない、会社組織化でボランティアをバックアップ。

_ボランティアガイドを組織化して拡大し、2016年に会社を設立されています。なぜ、法人化を行ったのですが、その経緯を教えてください。

渋谷区観光協会での観光案内所の仕事や行政関係、民間企業から仕事を受託するときに、会社じゃないと出来ないことが増えてきて、法人化せざるを得なかったという経緯があります。ボランティアを運営していくのはすごく難しくて、みんなの思いや熱量は変わるじゃないですか。就職したり、結婚したり、子どもが出来たら参加出来なくなっちゃうとか、環境の変化で左右されるところがあります。みんなの思いだけでやっていたら絶対になくなっちゃうし、僕自身がいなくなったら継続が難しいだろうなと。そこで、会社組織としてバックアップできる体制を整え、利益が出せる仕組みを作ることが出来れば、会社が存続する限りはボランティアガイドも続けられます。

_新たに会社を立ち上げ、具体的にビジネスにどんな広がりがありましたか?

今春、「MAGNET by SHIBUYA109(旧109MEN’S)」1階にオープンした外国人旅行客向けのお土産ショップ「渋谷園」の接客サポート業を委託されている。

僕らの一番の強みは、日ごろからボランティアガイドを通じて外国人との接点がすごく多いこと、英語をはじめ、様々な外国語を話せる人たちがメンバーにたくさんいること。渋谷の観光案内所での経験をベースにしながら、最近では羽田空港のインフォメーションや、企業などのイベント開催時の外国人対応、外国人観光客向けのアンケート調査の受託など、インバウンドに関連した様々な依頼が増えています。それから、もう一つの強みは、僕が合計で6回も海外留学しているという経験から、「留学エージェント業」もビジネスの柱に出来ないかと考えています。一般的に海外留学をする場合は、エージェントから学校やホームステイ先などを紹介してもらうことが多いですが、結構お金がかかるんです。僕は学生時代から、自分の経験を生かして留学相談に乗ってあげることが多くありました。こうしたニーズに対して、僕らが直接交渉して安くてお勧めできる留学先を紹介できたらいいなと考えています。

_行政や企業から英語サポートの仕事依頼が来たら、ボランティアガイドの登録者にアルバイトとして仕事を依頼できるし、ボランティアガイドが海外留学を目指している場合は、その斡旋を行うことも出来る。ボランティアとビジネスが両輪で回るという上手い仕組みですね。

僕らのコミュニティーに登録してくれる人は、スタッフとして仲間にもお客さんにも成り得るんです。海外に興味を持つ人たちが望んでいるのは「英語を勉強する」「海外留学する」、「英語を使って仕事をする」の3つ。それを全て僕らの会社でやってしまったらどうか、というのがビジネスの根っこにあります。ようやく、その両方が上手く動き始めてきたところです。なので、外国人を街頭でボランティアガイドする「Japan Local Buddy(JLB)」は、僕らの経済活動には一切組み込まず、あくまでも半独立した団体として運営しています。ボランティアガイドが盛り上がれば、結果的に会社にも登録者にもメリットを供給できると考えています。また入り口がボランティアなので、すごく思いがある人が多いんですよ。例えば、語学が話せるアルバイトの募集を普通に行うと、お金目当ての人たちばかりがどんどん集まってしまう。ところが日ごろ、ボランティアガイドをやっている人たちは、目的がお金ではないので外国人対応がすごく丁寧なんです。そもそもボランティアなので、アルバイト代が発生したらもっと責任感を持ってやってくれます。そういう思いがある人たちと一緒に仕事をしていきたいと思っていますので、この仕組みはとても上手くいっています。

ハチ公前広場・アオガエル車内の「渋谷区観光案内所」で、外国人旅行者の対応を行っている。撮影時はスペインからの旅行者が道を尋ねていた。

「日本酒の立ち呑み」など、ディープな渋谷巡りは外国人に大人気。 

_今年(2018年)1月4日に改正通訳案内士法が施行され、誰でも有償で外国人観光客向けの観光ガイドが出来るように規制が緩和されました。大森さんたちができるガイドの幅も広がったのではないですか?

法改正に伴い、1月4日から「有料ツアーガイド」をスタ−トしました。今までは1日ガイドツアーを行ったとしても、法律の壁があったため、一切ガイド料をいただくことが出来ませんでした。なので、自腹でずっとボランティアガイドをやっていたんですけど(笑)。ただ、「有料ってどうなんだろう?」と僕らも有料プランの導入に半信半疑だったのですが、今のところ、有料ツアーに参加してもらった外国人たちの反応を見ている限りでは概ね良好です。4月からは渋谷区観光協会と提携して、渋谷区観光協会オフィシャルツアーも開始しました。

_具体的には、どういうルートを巡るのですか?

ツアーガイドの様子。

現在、有料プランで販売を始めているのは「渋谷ウォーキングツアー」です。僕らが渋谷で面白いと思うスポットをいくつかピックアップしているのですが、一番リーズナブルなプランは1時間のウォーキングツアーで1000円です。まず「忠犬ハチ公像」からスタートして、「金王八幡宮」「渋谷ヒカリエ」「のんべい横丁」を巡り、最後は「スクランブル交差点」で写真撮影というのがスタンダードなルートです。

それから最近始めたのが「フードツアー」です。日本酒の立ち呑みバー「KURAND」、お好み焼きの「しぶやき」、唐揚げ屋さんやお寿司やなどを回って、参加費は一人1万円くらい。だいたい5軒くらいの飲食店を巡るのですが、本当にお腹がいっぱいになっちゃう(笑)。特にKURANDさんは、日本酒飲み放題のお店なので人気で。あそこに外国人を連れて行くと満足度がすごく高いです。「お腹いっぱいで、もう食べられない」という場合は、コース外の所を急遽案内したり、その場その場で臨機応変に対応しています。

_ツアーガイドは、ガイドさんの力量が試されますね。

決まったコースばかりではなく、その時々のお客さんの要望に合わせて、ちょっと変えたりするんです。参加人数が多いときは難しいですけど、少人数のときはできるだけ、その人たちの要望に合わせるようにしています。例えば、ツアー中に「Suicaの買い方がよく分からない」という質問があった時には、急遽Suicaを買いに行くという寄り道を加え、チャージの仕方まで教えてあげたことも。すごく喜ばれましたよ。

_ホテルでもアクティビティとしてニーズがありそうですね。

そうなんですよ。最近はホテルの人たちが下見のためにツアーに参加してくれます。外国人観光客にお勧めするため、実際にどういうふうにツアーを実行しているのか下見しておきたいのでしょうね。そういう視点で見ると、渋谷区観光協会と一緒にやっているという信頼感が大きくて、ホテルの方からも「観光協会がやっているのであればお勧めしやすい」と。チラシを作って、ホテルにも持っていこうと考えているところです。

日本人がもっと世界に行けば、「平和」に繋がると思う。

_渋谷駅は再開発が進んでいますが、生まれ変わる渋谷に何か期待していることはありますか?

外国人対応は、まだ出来ていない部分が多いですね。街の表記やWi-Fi整備もそうだし、人の部分でも感じるところが多々あります。特に駅周辺が工事中の今、渋谷は外国人にとってフレンドリーじゃない街になっています。外国人が道に迷っている場面に出くわす機会も増えています。そういう時に渋谷で働いている人とか、地元の人がもっと声をかけてくれるようになると、いいなと思うのですが……。渋谷には親切な人も多いと思いますが、正直、外国人対応に関してはどうしていいか分からないのでしょう。英語が出来る出来ないではなく、まずマインドを変えてもらって、もう少し外国人に声をかけて接して欲しいなと思います。

_道を聞かれれば応対すると思うのですが、地図を見て迷っている外国人に自分から声をかける、というのはなかなか出来ないですよね。

そうなんですね。そこができる街はほとんどないと思うんですけど、世界的に有名な渋谷だからこそ外国人に最もフレンドリーであって欲しいなと。困っている人を見つけたら、みんなが声をかけられるような街になったら、渋谷はもっと開かれたグローバルな街になれると思います。

_一方で、今後も失われずに残して欲しいと思う「渋谷らしさ」とは何ですか?

渋谷の魅力は「自由なところ」だと思っています。街中にはいろいろな人が立っているじゃないですか。僕らボランティアガイドはもちろん、ストリートミュージシャンやフリーハグの人たち、ユーチューバーなども結構多い。109もあるし、のんべい横丁みたいな昔ながらの場所もある。また最近、円山町のラブホテル街は、海外の観光ガイドブックで「ラブホタウン」と呼ばれて紹介されていることも多く、最近では外国人から「Where is love hotel town?」と聞かれることも増えています。面白い人たち、個性の異なるエリアが違和感なく混在する、そういう多様性を持つのが渋谷の魅力だと思います。もちろん規制しなきゃいけない部分もあると思うんですけど、僕も昔、渋谷でフリーハグをやっていて、その経験からボランティアガイドを思い付いたのですが、そういう自由な部分を残して欲しい。簡単に排除してしまうのではなく、若者たちが挑戦しやすい街の雰囲気を変えないで欲しいなという気持ちが個人的にあります。

_最後に大森さんのこれからの夢や目標を教えてください。

ボランティアガイドやツアーなどの国際交流を、日本全国に広げていきたい。さらに国内のみならず、海外でもこういう活動をしていきたいと考えています。今、日本の若者があまり海外に行かなくなったと言われていますが、日本人が海外に行かなくなると、海外で日本人に出会う外国人も減ってしまいます。そうなると、必然的に日本に興味を持つ外国人も減ってしまうと思う。今はインバウンドばかりがフォーカスされがちですが、アウトバウンドをもっと伸ばしていかなければ、日本はどんどん内向きの国になってしまう。だから外国人ともっと交流してもらって、海外に興味を持ち、外にどんどん出て行く日本人を増やさないといけません。僕らの活動が、そのキッカケづくりになればといいなと思っています。

_インバウンドだけではなく、アウトバウンドも大事なのですね。

様々な国に友達が出来ると、その国を「自分事」として捉えることにつながります。僕も海外に行く前は、海外で大事故やテロが起きても「ああ、何か起きているのかな?」と思うぐらいで終わっていました。ところが海外に行く機会が増えてからは、テロ事件が起きると、真っ先に友達や現地で出会った人たちの顔が浮かび、「大丈夫かな?」と心配になったりして。やや壮大な目標かもしれませんが、海外の出来事が「自分事」になるということは「平和」に繋がるのではないかと。だって、友達がいる国と戦争をしたくないじゃないですか。メディアだけの情報だと、隣国にイラッとすることもあるかもしれませんが、友達がいれば頭を切り替えることが出来るし、彼らが本当はどう思っているかを直接聞くことも出来ます。それが全くないと、どんどん距離ができてしまう。政治や国同士とは異なる、個人間の国際交流こそが互いの誤解を解く一番の解決法ではないかと思っています。

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