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長谷川賀寿夫さん
(「Printworks Studio Shibuya」店長/道玄坂青年会会長)

109前のスクランブル交差点で、
「年末カウントダウンイベント」を実現したい。

プロフィール

1972年(昭和47)渋谷・神泉生まれ。立教大学卒業後、大手住宅メーカーの営業として約8年間勤務。30歳を機に退職し、父、兄をサポートするため家業である「長谷川印刷」を手伝う。営業を担当するほか、「プリントショップサン」のマネージャーとして手腕を振るう。2014年11月、道玄坂に活版印刷機が使える工房「Printworks Studio Shibuya」をオープンし、店長としてお店の運営に携わる。

ものづくりを通じ、人との交流が生まれるスペースにしたい。

_活版印刷の機械のほか、ここに「コワーキングスペース」も融合させたのは、どうしてですか?

「コワーキングスペース」というよりは、「活版工房」にしていきたいなと考えています。僕の後ろの棚に「ZINE(ジン)が並んでいますよね。ジンは個人が自作した文章や絵、写真などを印刷した小冊子で、デザイナーやアート、本づくりに興味がある人たちがいろいろ作っているものですが、こうしたジンなど印刷に関わる作業スペースとして、ぜひ利用してもらいたい。そのため、このスペースにはパソコンで作業するためにフリーwi-fiや、小冊子を中綴じするコピー機などの設備を備え、いろいろ自作が出来る環境を整えています。ものづくりを通じて、人との交流が生まれる場になってくれればいいなと思います。

_活版印刷機は個人でもレンタルして、自由に使うことが出来るのですか?

お客様ご自身で手動印刷する場合、初回はうちのスタッフの指導を含めて5,000円。2回目以降からは3時間4,000円でレンタルができます。初めて挑戦する人がキレイに印刷できる範囲は、ポストカードサイズくらいまで。自分でやると、確実にみんな楽しいと言ってくれますね。現在、来店者の多くはデザインに関わるプロが目立ちますが、中には結婚式のウエルカムボードを自分たちで印刷したいというカップルもいました。また、制作した樹脂版は、名刺などの場合、ここで保管して次回追加で刷るときに使うことも出来ますし、記念として持ち帰る人もいます。

_オープンから3カ月間が経ちましたが、これからスペースをどう成長させていきたいと考えていますか?

活版印刷や紙に興味のある方に、もっと知ってもらいたい。そのため、月に1回のペースでイベントやワークショップを行っています。2月は「バレンタインカードを作ろう!」というワークショップをスタッフとお客様が一緒に行い、うちにある活字を使いながら、メッセージカードの制作に取り組みました。今後、僕の友人にドレスなどに刺繍をするアーティストがいるので、その刺繍アートと活版印刷を組み合わせた作品づくりなども行いたいと考えています。参加費一人1,500〜2,000円くらい、フェイスブックなどで参加者を募っているので、こういう場を通じて活版の楽しさを知ってもらえればと思っています。そのほか、このスペースだけにこだわらず、活版印刷の出張イベントを行うなど、お客様とのコミュニケーションを高めていきたいと考えているところです。

「雑多さ」をどんどん極め、それを文化発信していけばいい。

_ここから渋谷の話を聞いていきます。長谷川さんは、道玄坂青年会の会長さんも務められていますが、最近の道玄坂をどのようにご覧になっていますか?

商店街振興組合では、道玄坂を3つのエリアに分けて考えています。ハチ公広場からスクランブル交差点、109あたりまでが「道玄坂下」、109から道玄坂を上って左側にある交番までが「道玄坂中」、その上が「道玄坂上」。3つのエリアで、だいぶ色が違います。スクランブル交差点から109周辺は、人がにぎわっていて「渋谷の顔」であり、かつ外国人が東京をイメージするときに一番初めにイメージするポイント。とても大事なエリアですね。ところが、その上の「道玄坂中」「道玄坂上」は古い世代の人たちに話を聞くと、かつて繁華街として賑わっていたというのですが、今は違うなと感じています。決して華やかではないし、楽しげなお店がないのが一つの課題です。たまたまクラブに行く途中、若者たちがここを通ったとしても、決して楽しんで通っているわけではないでしょう。

_では、道玄坂がどんな街に変わってほしいですか?

道玄坂にブランドショップが並ぶイメージはないので、むしろ雑多で良いと思う。ただ、今は飲食店とコンビニくらいしかないので、もっと面白い個性的なお店がいろいろ出来て欲しいと望んでいます。いまは道玄坂のメインストリートよりも、その道を一本入った裏側にわさわさとお店があって、それはそれで文化なのかなと。たとえば、飲み屋があれば、いかがわしいお店もあるなど、道玄坂はそういう期待感があって、みんなが入り込んでしまう魅力があるのだと思う。僕個人の考えですが、雑多な部分をいかに受け容れられる街にしていくか、ということが大事なんじゃないかと。一般的に「まちづくり」というと、すぐに街の美化や景観の整備を思い浮べがちで。パトロールして風俗看板を排除しようとか、すぐにそういう動きにつながってしまうと思うのですが、僕はそういう雑多な部分を寛大に受け入れるべきだと考えています。そのほうが、街として魅力的なんじゃないかと。そもそも「道玄坂」という地名だって、その昔、この坂によく出没した山賊の名前「道玄」に由来しているわけで、かつ戦中は花街でにぎわっていたなど、そういう歴史や文化が脈々と続いています。それなら雑多をどんどん極めていって、その雑多さを文化発信していけばいいんじゃないかと思っています。

道玄坂の活性化には「歩行者天国を復活」が最優先だと思う。

_街を元気にするために、どんなことをしていますか?

道玄坂の入り口となる109周辺が、盛り上がっていないといけないと思うんです。僕ら道玄坂青年会が出来ることは、とても小さいのですが、商店会振興組合と独立した団体であるため、フリーで動ける長所もあります。現在はお祭りのときに神輿を組んで運行をするとか、お餅つきの手伝いや街の清掃活動、年末のパトロールなど、実行部隊としての活動がメインです。今後、僕らが実現したいのは、月に1回でも道玄坂を「歩行者天国」にして、様々なイベントを催せていければと考えています。そして、これは僕の個人的な夢なんですが、109を背景にスクランブル交差点で「年末カウントダウンイベント」が実現できたら、きっと素敵だろうと思うんです。僕がアメカジ世代だからかも知れないですが、ニューヨークに対する憧れが強くて、109とタイムズエクエアが被るんですよね(笑)。両方ともY字路で、立地も似ているし。以前、実際にタイムズスクエアのカウントダウンに行ったことがあるんですけど、一晩に世界中から集まる人数は100万人近いと思う。到底、警察だけでは警備が追い付かないので、ニューヨークでは一般のボランティアが手伝う仕組みが出来上がっているそうなんです。交通規制など、乗り越えなけれならない課題がたくさんありますが、渋谷でも出来なくはないと感じています。東京オリンピックを控えて、東京に関心が寄せられていますが、ニューヨークと同じように「渋谷」という響きだけで世界が注目し、かつ憧れられるスポットになったらいいなと思います。

_現在、渋谷駅周辺の再開発が進んでいますが、街の変化についてどうお考えですか?

どんどん街が変わっていくことは、魅力があるなと思っています。でも、単純に再開発というと、上に上に高くなるばかりで、均一的で同じようなビルができあがっていくだけでは、寂しい気もしています。だから、新しいものばかりではなく、昔から渋谷が大切にしているものは、何らかの形できちっと残して欲しいなと思う。たとえば、「忠犬ハチ公像」や「スクランブル交差点」は世界からも注目されているスポットなので、大事にしてほしい。

_一方で、再開発に期待する面はありますか?

渋谷の注目度という面では、確実に上がるし、たくさんの人たちが集まり増えるでしょう。そうした街の活性化という点では期待したい。でも、イベントなどの仕掛けを積極的にしていかなければ、道玄坂までその人たちを連れてくることが出来ないと思う。特に再開発後は新南口のほうにもビルが建つので、今よりも人の流れが分散していくことが想定されますので、何もしなければ、道玄坂はどんどん衰退してしまうという危惧を感じています。そのための第一歩として、「歩行者天国を復活」が最優先だと考えています。

_今後の長谷川さんの目標や夢は?

今、やっている活版印刷の仕事をもっと深めていきたいと考えています。僕は印刷業界に入ってまだ12年くらい、それに対して印刷の歴史は550年もありますので、そこを極めていければ、もっともっと面白いことがあるんじゃないかと期待しています。デジタルだけでは人とのコミュニケーションが簡素化され、本当さみしいものになってしまう。そのキッカケとして、紙が大事だと思っています。先ほど話をしたジンなどは、新しいコミュニケーションツールとして面白いし、挨拶代わりにジンを配るというのも紙だから出来ることだと思う。そういうところをもっと深めていきつつ、この場所から新しい展開を考えていきたいです。

Printworks Studio Shibuya

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