ライブエンターテイメントの魅力は、一期一会の醍醐味と怖さ。
_ミュージカルをはじめ、会場に足を運ばなければ観られない「ライブエンターテイメント」の魅力とはどんな点にあると思いますか?
たとえ、ロングラン公演でも、その瞬間、瞬間、ひとときも同じ瞬間がないことですね。本当に一期一会の醍醐味も怖さも全部感じられるのが、ライブの魅力だと思います。それは自分が舞台に立っているときだけではなく、客席から舞台を観ているときにも、それを感じます。役者や歌手の声や演奏者の音に込められている目に見えないものが、空気を通してちゃんと伝わっていく。やっぱり、ライブでしか味わえない、その瞬間を共有したからこそ味わえる感動があるんですよね。
_舞台に立っていると、その日のお客様のノリを感じますか?
もちろんあります。「今日はお客さまの反応が少し重いなー」と感じたり…。日によって、また土地によってもお客様のノリや反応は違います。舞台が始まったその瞬間からお客さまのエネルギーにすごく乗せていただくこともありますし、一方で、「あー、今日は厳しいお客様だなー」と最初は感じていても、途中からびっくりするくらい熱く反応していただくこともあります。本当にライブって、お客様が一緒に作って下さる瞬間、瞬間なんだなと感じます。でも、それは結局、演者がどれだけエネルギーをお客様にお伝えできるかが命題なのだと思います。これは永遠のテーマですね。
_渋谷にはミュージカル専用劇場「オーブ」をはじめ、シアターコクーン、パルコ劇場などいくつか劇場があります。歌穂さんは本場のブロードウェイもよくご存知だと思いますが、渋谷をブロードウェイみたいなライブエンターテイメントの街にするために、必要なことは何だと思いますか?
そうですね。ブロードウェイは劇場の数が半端じゃない。街角を見渡せば、大きい劇場から小さい劇場までずらっと並んでいますから(笑)。まずは劇場の数ですかね。 公演を観ること自体が観光として育っていくことも大事でしょう。もし本当に渋谷がブロードウェイになったら、素敵でしょうね。そういえば先日、高校時代の友だちと渋谷で食事して「帰りにお茶しよう」と地下に入ったら、そこは以前ジァンジァンのあった場所だったんですよ。「あれ、喫茶店になってしまった」とびっくりしちゃいました。立派な劇場も良いですが、かつてのジァンジァンみたいな、格好良いこだわりの小劇場もあり続けてほしいですね。
大都市の真ん中で行われる「渋谷音楽祭」は、とても楽しみ。
_さて、秋には渋谷で開催される「渋谷音楽祭」の出演が決まっています。今回は東京フィルハーモニーさんと競演されるそうですが、今までにご一緒したことはありますか?
いつだったかは思い出せないのですが、以前にご一緒させていただいたことがあります。今回のお話をいただいて、とてもうれしかったです。たぶん、歌う方で、オーケストラのコンサートに出演できてうれしくない人は誰もいないと思います。重厚な音に包まれて歌えるのは、歌手冥利に尽きます。また、聞くところによれば、渋谷公会堂は東京オリンピックの重量挙げ競技の会場で、来年には取り壊しも決まっているそうですね。コンサートなどでは何度か訪れたことがありますが、出演は今回が初めて。そんな歴史のある渋谷公会堂で歌えるのは光栄です。感謝の気持ちを込めて、精一杯頑張らせてもらおうと思っています。
_演出や曲などは決まっていますか?
島田さんと共演する東京フィルハーモニー交響楽団。写真中央は、指揮者・渡邊一正さん。
今、どうするか検討しているところですが、やはりミュージカルの曲や映画音楽などが中心になるかと思います。オーケストラの重厚なサウンドに合う、大きな曲が多くなるかと。折角、東京フィルハーモニーさんとご一緒させていただけるチャンスなので、自分のレパートリーを最大限引っ張り出し、なるべくいろいろなバリエーションの音楽を楽しんでいただけるように選曲したいです。
_渋谷音楽祭9年目になります。街ぐるみの音楽祭にどんなイメージを持っていますか?
今までにも、市制何百年とか、街を挙げてのイベントなどのテーマソングを歌わせていただいたり、地方の音楽祭に参加させていただいたことも度々ありました。でも、今回のように都内の街の真ん中で行われている音楽祭というのは本当に初めてです。もう9年も行われているんですね、すごいな。
_音楽祭では渋谷の道路を交通規制し、街や路上がステージになります。野外でのライブは歌手にとって歌いやすいですか?
昨年の渋谷音楽祭、文化村通りステージの様子。
暑かったり寒かったりすると大変ですが(笑)、とにかく野外は気持ちいいですよね。ちょっと話は変わりますが、以前に雑誌取材でマレーシアのサンセットクルーズに行ったのですが、しばらく沖でエンジンを切って日没を待っていたんです。その時、たまたまレ・ミゼラブルの大ファンだというイギリス人のお客様がいらして、「是非、レ・ミゼラブルの歌を歌って」と。エンジン音がしないと「海ってこんなに静かなんだ!」と思えるくらいの静寂。ゆらゆらと揺られる船の上、おそらく20〜30人くらいのお客様の前でしたが、沈みゆく夕日を見ながら歌ったんです。いや、本当に生涯忘れられないくらい、素晴らしい体験でした。屋外って、自然が舞台装置みたいなものですよね。野外と聞いて、急にそんな思い出が蘇ってきました。
_渋谷という場所柄、当日は若いお客様も多いと思いますが、どのように楽しんでもらいたいですか?
もう、本当に自由に楽しんでいただきたい。特に若い方は、なかなかオーケストラのコンサートに行く機会も少ないかもしれませんし、オーケストラの生演奏や迫力を直に感じていただけたら。私も東フィルの皆さんの演奏に後押ししていただきながら、最大限に良い歌をお届けできるように頑張りたいです。
インタビュー中も、終始キラキラした笑顔が絶えない歌穂さん。
「出会い」に恵まれ、「歌」に支えられてきた人生に感謝する。
_ライブ楽しみですね。ちょっと歌穂さんのプライベートについてお尋ねします。ご主人の島健さんはピアニストであり、音楽プロデューサーでいらっしゃいますが、自宅に居る時に夫婦二人で音楽を楽しんだり、歌ったりすることはあるのですか?
いつも仕事で音楽を聞くので、プライベートではあえて音楽を聴くことは少ないかもしれません。ただ、私がキッチンで料理をしているときに、リビングで夫がピアノの練習をしていたりして、私もキッチンからピアノに合わせて口ずさんだりはしますね…。改めて考えてみると、贅沢なひとときだなと思います(笑)。あとはそうですね。便利なのは、二人でコンサートやるときのリハーサルが家で出来てしまうこと。事務所にしたらスタジオ代がかからず、ラッキーだという。そんな便利さがあります(笑)。
_素敵なご夫婦ですね。ご結婚をされて今年でちょうど20年とのことですが、夫婦円満の秘訣は何ですか?
結婚生活なんて、プラス、マイナスしたときにプラスが勝っている間はいいじゃないですか(笑)。お互いに長所も短所も、欠点もさらけ出すわけで、それをどこまで許せるか。でも、長所も短所も表裏一体なので、「まったくもー」と思っていることが、愛おしく感じることもあると思う。あと、今回の音楽祭のテーマとも重なるのですが、「ありがとう」「ごめんなさい」の2つの言葉が大事かもしれません。もともと夫は「ありがとう」「ごめんね」を本当にごく自然に言える人で、私は、この2つの言葉の大切さを夫から学ばせてもらったかもしれません。これは本当に魔法の言葉です(笑)。いつまでもこの2つだけはきちんと伝えあえる関係でいたいですね。
_今年は結婚20年に加え、デビュー40周年にもあたる節目の年。改めてご自身の人生を振り返ってみて思うことはありますか?
とにかく小さい頃から、歌ったり、踊ったりする自分以外は想像できなかった。当時は今の自分を想像することは出来なかったけど、でも好きなことをずっと続けてこられたことは、本当に幸せの一言に尽きます。改めて感じるのは、出会いとか、チャンスにすごく恵まれてきたなと思う。感謝、感謝です。当時は苦しいと思った時期でさえも、後で考えると一つも無駄がなく、すべてが必要なことだったと思える。そう感じられるのは、本当にありがたいことです。
_幸せな人生ですね。最後に今後の夢や目標を教えてください。
これからも、今までと同じように歌い、踊り、演じ、表現し続けること。名前に「歌」という文字が入っているように、私の人生は「歌」に支えられ、ここまで歩いて来られたと思う。どんなに苦しくてもステージに立つことでお客さんからパワーをいただいて、その時期を乗り越えることが出来たんです。声の続く限り、芝居やミュージカル、歌など、色々な形で表現者として挑戦し続けていきたい。また、挑戦という意味では、今まではミュージカルやジャズ、そしてJ-POP、民謡と様々なジャンルの音楽に挑戦してきましたが、やはりどちらかというとアメリカ音楽が反映されているものが多かったかもしれません。でも、今年の春からシャンソンやヨーロッパの民族音楽など、音楽のジャンルを広げて新たな挑戦をしています。やっぱり良いものはジャンルに関係なく良いし、これから世界の音楽をもっともっと探っていきたいなと思っています。
>>島田歌穂オフィシャルサイト
第9回 渋谷音楽祭
今年で9年目を迎える「第9回渋谷音楽祭」は、「こんにちは」・「ありがとう」・「ごめんなさい」をキーワードに音楽を通して生きていることの大切さ、未来への希望を発信する渋谷発の音楽イベントです。今年は10月18日(土)、19日(日)の両日、渋谷公会堂のほか、マルイシティ渋谷・1Fプラザ、SHIBUYA109前、道玄坂通り、文化村通りなどのストリートをライブステージとして「渋谷の街」全体が音楽一色に変貌します。今回インタビューにお迎えした島田歌穂さんと、東京フィルハーモニー交響楽団とのコンサートは、10月18日(土)に渋谷公会堂で行われます。「祖国を愛した作曲家による名曲集」と題し、ドヴォルザークの「スラブ舞曲集」やスメタナの連作交響詩「わが祖国」よりモルダウ などの名曲のほか、ミュージカル「レ・ミゼラブル」より「on my own」などの曲目が予定されています。歌穂さんの美しい歌声と、オーケストラの迫力ある生演奏を存分にお楽しみください。
- 日時:
- 10月18日(土) 開場16:30 / 開演17:00
- 会場:
- 渋谷公会堂
- 出演:
- 島田歌穂 /東京フィルハーモニー交響楽団
- 指揮:
- 渡邊一正(東京フィルハーモニー交響楽団指揮者)
- 料金
- S席3,500円/A席2,500円
※チケット発売日7月30日(水)〜 - 主催:
- NPO法人 渋谷駅周辺地区まちづくり協議会/渋谷音楽祭実行委員会
- 公式:
- http://shibuon.com/