海野緑さん
(東急文化村舞台芸術事業部担当部長)
ブロードウェイと共通点が多い渋谷の街で
もっと気軽にミュージカルを楽しんでほしい
岩手県出身。大学卒業後、テレビ朝日に入社し、スポーツ記者を経て、イベント事業部で海外ミュージカルの招聘に15年ほど携わる。その後、東急文化村に入社し、シアターオーブ事業部担当部長(当時)に就任。現在は、2014年7月公演のブロードウェイミュージカル「ブリング・イット・オン」の公演に向け、多忙な日々を送る。
ブロードウェイと共通点が多い渋谷の街で
もっと気軽にミュージカルを楽しんでほしい
岩手県出身。大学卒業後、テレビ朝日に入社し、スポーツ記者を経て、イベント事業部で海外ミュージカルの招聘に15年ほど携わる。その後、東急文化村に入社し、シアターオーブ事業部担当部長(当時)に就任。現在は、2014年7月公演のブロードウェイミュージカル「ブリング・イット・オン」の公演に向け、多忙な日々を送る。
_招聘する作品を選ぶにあたっての基準はあるのでしょうか。
自分の中でルールにしているのが、せっかく海外からキャストを招くのですから、体力や体型、能力などの点で、日本人の俳優さんには実現するのが難しいだろう作品を選ぶことです。また私一人では決めず、必ず性別や世代が異なる人たちと一緒に作品を観て、皆が面白いと感じた作品を選ぶようにしています。ブロードウェイのヒット作を招聘すれば、日本で必ずヒットするわけではありませんから、作品選びは本当に難しいです。
_東急シアターオーブで、2014年7月9日(水)〜7月27日(日)に上演されるブロードウェイ・ミュージカル「ブリング・イット・オン」は、どのような作品なのでしょうか。
アメリカで最も人気の高い女子スポーツとも言われる「チアリーディング」に青春をかける高校生の恋と挑戦を描いた物語です。簡単にストーリーをお話すると、主人公の女の子は自分を裏切った友達に仕返しをしようとしますが、やがてそんな思いを持っていては周囲の誰も応援してくれないことに気付き、純粋に「チアをやりたい、強くなりたい」と思うようになります。そしてチームが一致団結したときに、本当の勝利が得られるというお話です。パフォーマンスは、まさにエネルギッシュの一言。実際に全米ナンバーワンに輝いたチアリーダーが何人も出演しており、躍動感あふれるダンスやジャンプ、アクロバットは、まさにこの作品でしか見られない難易度の高さです。「ウエストサイド・ストーリー」や「サウンド・オブ・ミュージック」のような王道ではありませんが、チアリーディングというアクロバティックな要素を組み込んだチャレンジングな面が高く評価されている作品です。
_この作品をどのような方々に見ていただきたいでしょうか。
高校生の物語ですから、中高生が初めて観るミュージカルとしてぴったりですし、大人の方が観れば青春時代に置き忘れてきた大切なことに気付かされるでしょう。ほろっとくるストーリーで、本当に万人におすすめできる作品です。洗練され過ぎておらず、エネルギーにあふれるこの作品はとても渋谷っぽいとも思います。
_テレビ局を退職し、東急文化村に移って東急シアターオーブのプロデューサーとなった経緯をお聞かせください。
45歳くらいの頃、今までのご縁からお誘いをいただきました。エネルギッシュに働けるのが55歳くらいまでとしたら、あと10年間、テレビ局で働き続けるか、それともミュージカルの世界にどっぷりと浸かる仕事をするべきかと迷いに迷いまして。尊敬する先輩に教えてもらったことを、もっとこの世界で活かしたいという思いもあり、自分の能力を試し、悔いの残らない仕事がしたいと考えて転職を決意しました。テレビ局を離れて改めて実感したのは、テレビというメディアの情報伝達能力の大きさです。ミュージカル作品を招聘したとき、テレビで発信することで非常に多くの人々に訴えかけることができます。一方、東急シアターオーブも、テレビとは性質が異なりますが、一つのメディアと考えています。先ほど、「Swing!」が大ヒットしたお話をしましたが、その成功の要因は、オーチャードホールが東急百貨店本店と隣接する劇場であったということも大きかったと思っています。ミュージカルと百貨店の客層が一致していたため、ミュージカルを観に来たお客様がその前後にお食事や買い物をするなど、エンターテインメントの楽しみ方が広がり、とてもいい相乗効果を生み出した事例となりました。他の劇場にはない特徴です。ここ、渋谷ヒカリエも同様で、特徴的な商業施設は大きなメディア力を持っています。今後、東急シアターオーブのより強い特徴を形作り、ヒカリエと連携しながらメディアとしての発信力を高めていきたいと考えています。
_東急シアターオーブの劇場としての特徴を教えてください。
国内の2000席規模の劇場としては、とても機能が高く、お客様にとっても優しい施設です。ミュージカルはマイクを通して歌って踊る芸術ですが、そういう音楽を反響させる設備が優れています。またステージと観客がとても近く、臨場感があるのも特長です。ビルの中にある劇場というのも非常に珍しく、昨年、海外でオペラハウスや劇場を持つ著名な会長らが見学に訪れたほどです。
海野さんが招聘し、公演に漕ぎ着けたブロードウェイ・ミュージカル「BRING IT ON(ブリング・ イット・オン)」。躍動感に溢れるダンスやジャンプ、アクロバティックなチアのパフォーマンスは この作品ならではの見どころ。
_今後、東急シアターオーブのどのような強みを生かしていきたいとお考えでしょうか。
Bunkamuraと東急百貨店本店のお客様の層は重なると思うのですが、良くも悪くも、東急シアターオーブとヒカリエのお客様はあまり重なりません。ヒカリエは雑貨などが好きな比較的若い層が多いですが、東急シアターオーブはお金や時間に余裕があるマダム層が中心です。そのように双方に行き来がないということは、逆を言えば、これまでミュージカルに興味のなかった方々に目を向けてもらえる可能性が大きいということです。ミュージカルの王道と言われるような著名な作品はもちろんですが、ヒカリエに買い物に訪れたお客様が思わず当日券を買って観たくなるような作品を上演したいと考えています。「ブリング・イット・オン」は、そういう意味で間口の広い作品です。また、この建物の上層階にはオフィスが入っており、オフィスへのエレベーター乗り場に行くには、劇場の入り口の横を通る必要があります。ここで働く方々が、仕事帰りに思わず足を止めてしまうようなイベントを開いてみたい、という思いもあります。
_大きなミュージカル劇場が、渋谷の街にできたことの意味について、どうお考えでしょうか。
ブロードウェイは、半径1キロほどのエリアに40軒近くの劇場が集まっています。劇場はそれぞれ1000〜1500人ほどのキャパシティで、ものすごいエネルギーを持ったミュージカルが毎日40本近く上演されています。しかし、アカデミック性が高い街かといえば決してそうではなく、普通のコーヒーショップもあれば、おもちゃ屋もあり、がちゃがちゃとした雰囲気のあるエリアです。その意味では、渋谷と似ていると思っています。渋谷は、オーチャードホールのようなアカデミックな劇場から、Shibuya O-EASTのようなライブハウス、小さな映画館まで大小のカルチャー施設があり、メルティングポットのような勢いがある街です。そういう街の中心でミュージカルをやるということは、大きな意味があると思っています。もう一つ、ブロードウェイの面白いところは、劇場だけではなく、稽古場や制作会社なども、同じエリア内にあることです。有名な役者さんが普通に通りを歩き、稽古場に向かう姿を見かけることも珍しくありません。これこそ、文化の街という感じがします。空間の制約などがあると思いますが、渋谷がそんな感じになったら、もっと面白いと思いますね。
_今後、実現したいことをお話ください。
時間があるときに立ち寄ったら、いつも楽しいミュージカルがやっている。そんな風に思ってもらえる劇場にしたいですね。ミュージカルが、食事や買い物や映画と同じように、余暇の気軽な選択肢の一つになるように魅力を発信していきたいと思います。
ブロードウェイ・ミュージカル
「BRING IT ON(ブリング・イット・オン)」
「ミュージカル」と「チアリーディング」を融合させたかつてないブロードウェイ・ミュージカル。制作は脚本のジェフ・ウィッティのほか、作詞・作曲家、演出・振付など、トニー賞の受賞経験のある気鋭クリエーター陣が名を連ね、人気映画「チア−ズ!」をベースにオリジナルストーリーを見事に作り上げている。キャストには若手実力派に加え、全米トップクラスのチアリーディングの選手を多数起用。表現力豊かなダンスとアクロバティックなパフォーマンスは、観る者の度肝を抜く。現在、チケットを販売中。