TEDxは東急ハンズみたいなものだよ。
_昨年に拠点をお台場から渋谷へ移しましたね。
帕特里克:会場に渋谷を選んだのは、渋谷がクリエイティブやテクノロジー、サイエンス、そして若い人たちが集まっている街だから。そして東急グループを中心に現在再開発が進んでいるイノベ―ティブな街で、とても刺激的な場所だと感じたからです。
_特に「渋谷の街」で面白いと思ったものや、刺激を受けたものはありますか?
帕特里克:渋谷には、本当にたくさんの新しいこと、面白いこと、そして、たくさんのハプニングがあります。僕はよくTEDxを東急ハンズみたいなものだと例えます。東急ハンズには、1つのカテゴリーに限らず、本当にいろんなものや不思議なものを売っていますが、僕たちがライブスピーカーを選ぶときも一緒。各スピーカーのテーマは一番関係のないもの、全く関連性のないものをあえて選んでラインナップしています。一見して関係なさそうなものが組み合わさることで、オーディエンスの頭は「え、なんだろう?」って、混乱する。そして理解しようとフル活動するんです。その結果新しいアイデアが生まれてくる。多種多様なものがある東急ハンズ、そして渋谷の街はTEDxとよく似ていると思うんです。
托德:TEDxとの相性を考えたとき、丸の内はちょっと違う、秋葉原は面白いけどちょっと狭すぎるし…と考えていったら渋谷になった。TEDxで一番大事なのは多様性、そして質、前向き、積極的…、こんなキーワードを考えていくと、やっぱり渋谷がベストフィットだと思う。アメリカでよくあるパターンでは、最初に誰かイノベーターがいて、彼がいるから次のイノベーターに刺激されて新しいイノベーターが出てくる。そこにエコシステムが生まれるわけです。渋谷の街はそれに近くて、すばらしいデザイナーやクリエーターがいて、そこで、いろんな人びとに会うことが出来る場所だと考えています。TEDxTokyoの立ち上げはお台場・日本科学未来館で、オープニングスピーカーは高円宮妃久子様を迎え、日本人にTEDを知ってもらう意味では最高のプレゼンテーションになったと思う。それから5年間を経って、次のステージを考えたときに僕らの拠点が必要であると感じていて、それを完璧に満たすのが渋谷だった。
帕特里克:もっとシンプルにいえば、代官山、原宿、表参道、代々木、広尾、恵比寿も、これ、すべてが渋谷なんだ。信じられないくらいエコシステムだよね。それぞれの場所は少しずつ違うけど、どこか共通点を持ってつながっている。他の国や場所では、そういった街同士のつながりを見たことがない。
托德:まさに、その象徴が渋谷スクランブル交差点。それぞれの小さい道から交差点につながって、すべてが混ざり合う。
帕特里克:だから、昨年のテーマは「Where Art Meets Science〜科学とアートが交差する〜」だったんだよ。そして、今年のテーマは「1+1=11」。1+1=2ではなく、1+1=11に膨らむ。「広尾+代官山=11」だし、「渋谷+表参道=11」など、様々なコンビネーションが新たな価値を持ちます。
2012年、ヒカリエに会場を移して、渋谷で初めて開催された「TEDxTokyo」。アイデアがぶつかる場所として「スクランブル交差点」をイメージして公式ポスターが作られた。 © TEDxTokyo
1+1=11で、過去最高レベルのカンファレンスになる。
_日本人はシャイ、人前で話ことが苦手と言われていますが、日本人のスピーチをどう思いますか?
帕特里克:日本人は良いアイデアや、素晴らしいアイデアがたくさんあるけど、それを上手く伝えることが出来ない人が多い。特に個人でアイデアを持っていても、それをチームで考えたり、シェアすることが上手ではないですね。日本人は、人前で話す練習をしていないからしょうがないんですが、実はアメリカ人もパブリックスピーキングが得意ではありません。けれども、小さい頃から学校で練習する機会があります。
_パトリックさんは「東京インタナショナルスクール」を運営されていますが、子ども達がプレゼンする機会を授業の中で取り入れているのですか?
帕特里克:現在、学校には52か国の子どもたちが約300人います。今年の夏までに学校を新しく建てて引っ越す予定なのですが、実はその学校のデザインを子どもたちと一緒に考えました。面白かったのは、アイデアを募ったら、スタディールーム、シネマ、ディスコ、そしてプレゼンテーションルームも欲しい…って。20世紀の教育は試験がメインでしたが、21世紀の教育システムは、子どもたちのプレゼンを重視している。僕たちはそういった機会をたくさん設けています。
_過去4回でたくさんのスピーカーが様々なアイデアを発表してきましたが、その中で何か実現したこと、または大きな発展を見せたものはありましたか?
托德:たとえば、第一回目でスピーチしたゼロエミッション・リサーチアンドイニシアチブ創始者のグンター・ポリーさん。彼は日本を拠点に世界中のイノベーターを研究していて、1億人以上の雇用を生み出せるイノベーションなど、新しいビジネスアプローチをデザインしています。現在、彼は新しいミッションとして、1年間で5億人以上リーチした子どもたちから、新しいアイデアを生むシステムを作ろうとしています。このイノベーションなアイデアに中国政府やインド政府、台湾のビル・ゲイツと呼ばれる企業家などが賛同し、意義のある大きなプロジェクトがまさに動き始めています。TEDxの立ち上がりから5年を経て、そこから始まったものが様々な支援者やコミュニティーが加わって、形になり始めています。
2011年に登壇したキャシー・松井さん © TEDxTokyo
托德:また、すぐに結果が出るものばかりでもありません。ゴールドマンサックス証券のキャシー・松井さんのアイデアは「ウーマノミックス(女性経済学)」でした。女性の雇用機会を作るという彼女のアイデアは、日本社会の複雑な問題も絡んでいるため、社会を変える必要もあるし、実現するにはとても長い時間がかかります。こうした何年も先を見据えたアイデアもあります。
帕特里克:スピーカーが発表したアイデアに対して、濃密ともいえるコミュニティーが動いていて、いろいろ進んでいるケースも多い。僕たちも捉えきれないほど、本当にたくさんのアイデアが、TEDxを通じて飛び出しています。
_「TEDx Tokyo2013」がいよいよ5月11日に開催されますが、今回のイベントの見どころを教えてください。
帕特里克:昨年はヒカリエがオープンしたばかりだったし、渋谷に移って初めてだったので、いろいろ大変でしたが、今年も昨年に続いて最高レベルのカンファレンスにしていきますよ。スペースや雰囲気も含めた何もかも100%を目指します。昨年のレセプションは、キャットストリートや、国連大学前でファーマーズ・マーケットのようにやったらどうかなど、アイデアが出ました。僕が「お祭りをやってる、金王八幡宮はどう?」と聞いたら、ほとんどの日本人は「神社なんて無理!」って。でも結局、金王八幡宮の関係者に上手く話がつながって出来ることになりました。今年も会場は「渋谷ヒカリエ+金王八幡宮=11」でいろいろな1+1が提案できると思いますよ。
托德:スペースデザインもいろいろ考えている最中で、面白いイノベーションが出てきています。毎年、同じじゃつまらないから、新しいオリジナルミックスを作ろうと考えています。
帕特里克:僕らはみんな給料なしで、ボランティアで働いているんです。そんな状況の中で、スタッフそれぞれが出来る100%の力を発揮して、どこまでできるかにチャレンジしています。面白い話ですが、第一回目のTEDxTokyoを見たアメリカのTEDディレクターはショックを受けていました。なぜなら、アメリカとほとんど同じぐらいのレベルが実現されていたからなんです。
2012年、当初不可能だと思われていた渋谷・金王八幡宮で「TEDxTokyo Reception Party」開催が実現した。 © TEDxTokyo
いつか宮崎駿さん、スピルバーグさんに出てもらいたい
_これからのTEDxTokyoで実現したい目標や、個人的な夢は?
帕特里克:僕は教育が好きです。昨年、武蔵野中学高等学校で高校生によるTEDxYouth@tokyoを行いましたが、こうしたことをきっかけに中高校生の教育システムをチェンジしていきたい。そして企業も変えたい。ほとんどの日本企業はまだ20世紀のまま。学校も企業も21世紀教育へシフトして、そのギャップを埋めていきたい。TEDxコミュニティーで学校と企業、日本をブリッジして日本を変えていきたい。それが私の夢です。
托德:僕の大きな夢は、いつかスピーカーに宮崎駿さんや、スティーブン・スピルバーグさんに出演してほしい。僕は二人の大ファンですが、彼らがスピーカーとして登壇するときこそ、TEDxTokyoのレベルや真価が証明される時ではないかと。つまり、日本で一番のクリエーターたちが素晴らしいアイデアをTEDxプラットフォームを使って発表することで、アニメだけじゃない、日本の幅広い魅力を国内外に発信できるんじゃないかと考えています。
帕特里克:日本のほかの国に比べて、何かを作る力は本当にすごい。でも、日本にはカンファレンスがあまりないし、アイデアをシェアする場もない。海外などで起こるジャパンバッシングに対しても、自分たちの考えやアイデアをもっと聞いてくれって話をすれば、きっと理解してもらえると思う。
托德:もう一つ、アメリカのTEDでは、とても忙しいグーグルの社長でも5日間のカンファレンスに参加しています。日本企業の社長はどうでしょう?おそらく、その業界の会議にしか参加していないのではないでしょうか。企業のトップが世界全体の動きや社会の流れを知ろうとしていないというのが一番危ないんです。TEDのような異業種や、様々なイノベーションをもっと見て、自分の事業に役立ててもらいたい。そして、スピーカーとして参加するだけではなく、周りの人たちとたくさんしゃべって、オープンイノベーションしていけば、日本はもっと上手くいくと思います。
帕特里克:それから個人的なドリームをいえば、TEDxのようなアイデア・ウォッチ・パーティーがたくさん行われるようになって、アンバースデー(誕生日以外の364日=普通の日)をもっとエンジョイできるようになってほしいですね。
托德:僕は起業家らに向けた「イノベション・バー」を作りたいかな。
帕特里克:それはいいね!(笑)
托德:日本にはたくさんの素材や高い潜在力を持っていますが、同業者間や研究者同士のクローズド・イノベーションがあっても、人びとが集えるオープンイノベーションの場はゼロです。アメリカが完璧であるわけではないですが、でも、シリコンバレーにはプラットフォームがある。僕が思い描く場所は、毎日オープンしていて、楽しみながら、勉強しながら、貢献しながら、起業家やスタートアップを目指す人、研究者、アーリーアダプターなど多くの人びとが出会える機会を提供できるところ。大学や学校はクローズド・イノベーションだし、会社もそういう役割ができない。200年前、多くの人が情報を欲しているときに図書館が作られましたが、現代は情報がいっぱいなので、今は情報よりもパートナーを見つけられる場を作ることが必要だと思う。TEDxもそういう場づくりの一つだし、いま、イノベション・バーのようなものの実現に向けて動き始めているところです。日本には素晴らしい材料がたくさんあるから、インフラが整ってソフトとハードが揃えば、もっと面白いことが生まれると信じています。
TEDxTokyo 2013
第5回を迎える「TEDxTokyo」は昨年に引き続き、渋谷ヒカリエを会場に最高レベルのカンファレンスが開催されます。今年のテーマは「1+1=11」。ライブスピーカーのアイデアを通じて、当たり前のことを疑い、一見非常識に見えるものが解かれ導かれる瞬間に立ち会うことが出来るかもしれません。すでに会場での参加申し込みは締め切られていますが、当日のライブの模様は、日英によるライブストリーミング中継(TedxTokyo.com)が行われます。また、会場以外の場所でのパブリックビューイングも行われる予定です(公式HPに後日掲載予定)。ぜひ、TEDxTokyo 2013から新しいアイデアをシェアするチャンスを掴んでください。
テーマ:「1+1=11」
開催日:2013年5月11日(土)
会 場:渋谷ヒカリエ
主 催:TEDxTokyo
公式HP:http://www.tedxtokyo.com/