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SHIBUYA BUNKA SPECIAL

渋谷文化茶会 其ノ参「シブヤで働こう。」~あなたにとって、「シブヤで働く」ってどういうことですか?
シブヤで働く人びとの傾向は?

西:本日お集まりの皆さま、渋谷で仕事をする人たちを中心に事前にアンケート調査を実施しました。後半はこのアンケートの結果をもとにしながら、「シブヤで働くこと」について考えていきたいと思います。

性別X世代・渋谷までの通勤時間は?
ご職業は?

西:この場にご参加の皆さんのプロフィールを確認すると、30代が一番多く、次が20代、40代と続きます。過半数が東京23区在住の方で、職業は「飲食・フード系」が多く、それから「金融・不動産」「学生」、「IT系」「広告」「専門店」「小売店」の方など。柔らかい業種が比較的多いですね。通勤時間は「30~60分未満」が目立ち、中には「90分以上120分未満」という、非常に遠くから通っていらっしゃている方もいます。

職場が渋谷にあることが志望動機の1つになりましたか?・渋谷に職場があって良い点は?

西:そのうち渋谷に職場がある人に聞いてみたところ、30%が職場が渋谷にあることを仕事選びの動機にしている。これは結構多いですね。その理由は「アクセスも便利」「情報収集しやすい」など。

仕事のファッションは?・渋谷のランチ事情は?

西:渋谷で働く人の服装は、カジュアルが47.3%。スーツは3分の1以下。僕もどちらかというとカジュアルな方なんですが、たまに丸の内へ行くと本当にスーツの方だらけで、すごいアウェーな感じがして早く渋谷方面へ逃げ帰ってこようかなと思うんですが、これは渋谷のトレンドでもあるということですね。毎日働くと気になる「ランチ」事情は「おおむね満足している」が38.5%ですが、「やや不満足」「値段が高い」「選択肢が少ない」を足すと実は5割を超えています。意外と渋谷のランチ事情は良くないのかな。カフェ・カンパニーさんも頑張ってください(笑)。

楠本:はい(笑)

仕事帰りに食事する場合渋谷の店に行きますか?

西:そんなみなさんが「仕事帰りにどこの店に行くか?」。僕らのように年齢が上がってくると、渋谷を離れてどこかに行っちゃう人が結構いるんですけど、みなさんはどうなんでしょう?答えは「渋谷のお店に行く」が54.5%、過半数ですね。「渋谷以外の街に行くことが多い」は48%。渋谷の外に逃げちゃっている人が結構いるのかなあ、というイメージもここから読み取れます。

職場が渋谷外に移転する場合、どう思いますか?・渋谷で仕事をすることが楽しい?
シブヤ X オフィス事情

「渋谷を極めると、違うところ、新しさを求めたくなるところもある」

西:「渋谷で仕事をして楽しいか?」というストレートな質問をしてみたところ、「楽しい」と回答した人が9割もいました。やっぱり「楽しいから働く」ということが、とても大きなモチベーションになっています。渋谷にとっても非常にいい傾向ですね。現在、渋谷にはぴあを始め、ディー・エヌ・エーさんが渋谷ヒカリエへ本社を移転するなど、IT関連企業が渋谷に少しずつまた戻って来ています。中村さん、最近のオフィス移転に関してどんな傾向が見られますか?

中村:スタート地点に渋谷エリアを選ぶ方は多いです。例えば、「Co-lab」というシェアオフィスはもともと三番町にあったんですが、先日千駄ヶ谷にもできました。ただ新しくできたとしても渋谷駅のど真ん中ではなく周辺部が多いですね。一方で渋谷から出ていく例もあり、その場合「じゃあ、次新宿だ」「次六本木だ」というよりは一気に田舎に移っています。例えば、NPO法人 KOMPOSITION (コンポジション)の寺井さん。彼は事務所をまだ渋谷に残していますが、「脱東京」というコンセプトを掲げて「マチヅ・クリエイティブ」というプロジェクトを始め、現在千葉の松戸を拠点に活動しています。

西:渋谷を極めると、また別の「新しさ」を求めたくなる傾向があるんでしょうか。

中村:そうかもしれないですね。

西:ということで「渋谷以外で働いてみたい場所は?」という、アンケートも聞いてみました。

渋谷以外で働いてみたい場所は?

西:比較的渋谷に近いんですが、恵比寿、目黒、それから原宿、青山、表参道。おおむね渋谷圏でとどまりたいなぁ、と思う人が多いようです。あとは銀座、六本木、丸の内、それから新宿となっていきます。

「シブヤで働く」って、一体なんだ?

「『誰とやるか』ということが仕事のすべてだと思っています」

西:皆さんからフリーアンサーもいただきましたのでちょっと見てみましょう。まず、ある20代の女性は「情報発信基地である渋谷という場所にいると、いろいろな情報の発見があって楽しい」とコメントしています。それから、これはちょっと面白いですね。「カオスの中から良くも、悪くも、何か生まれそうなエネルギーを身体に得られる精神的充足感を仕事にフィードバックできる」(30代女性)。これは楠本さんのイメージに近い感じがありますね。

楠本:はい。僕もカオス大賛成です。例えば百軒店、道玄坂の辺りってちょっと猥雑さがあるじゃないですか。でも、あの感じが文化を生んだりするわけです。例えば今、ゴスロリなんかの日本独自のファッションが世界でもてはやされて、経済に結びついたりしていますよね。でもそれを生んできたのって、実は、親や先生からは「禁止!」と言われていたコギャルのルーズソックスだったりするでしょう。そういうある種の曖昧さ、危うさ、際どさといった、いってみれば「カオス」が何かのきっかけで文化を生んで、「まあこれぐらいは許容しよう」という方向に進んでいくわけです。さっき中村さんがおっしゃいましたけど、「起業して失敗しても、また渋谷ならなんか許してくれるよね」っていうムードにもつながりますが、若いながらにいろんな失敗を繰り返して、それが結果的にサブカルチャーになって、文化になって、オルタナティブとして花開いて、そして海外に誇れるものになっていくんだろうなと思います。すべてのコンテクストはつながっているから、これはあるべき、これは良くないみたいなふうにやり過ぎると、結果的にその街の良さみたいなものが失われる可能性もあると思います。多少のカオス感というものを「渋谷らしさ」として許容する大人の優しさみたいなものが必要かなあと思っています。

西:わかります。ただフリーアンサーでは「ゴチャゴチャ感は嫌だ」という方もいらっしゃいますね。かつ「どこで働くかという問題ではなく、誰と働くかが大事です」という40代男性の方。それから、30代男性は「今の渋谷は何かが突出しているわけではないと思います。が、総合的なバランスは良いと思います」と。前回、前々回の茶会でもそうでしたが、渋谷というのはひとことで言える街ではないんですが、ただそのバランスがちょうど良いのかもしれません。

楠本:僕も「誰とやるか」ということが仕事のすべてだと思っています。ただひとこと付け加えるとすれば、渋谷では「そういう人が育つ」というふうに循環しているようにも思えますね。もちろん渋谷に限らず、街、街には、その「らしさ」を育む土壌が本来あるべきで、そこから培われるお互いのクリエイティビティみたいなものが、結果的に「誰とやるか」というふうになるといいなあと思います。

「『学ぶ』『遊ぶ』『働く』、渋谷には3つを備える職場がたくさんある」

西:矢内さんは皆さんのアンケート結果からどんなことを感じられました?

矢内:私はいつも「働くって、何なんだろう?」って思っています。私が子どものころは学校から帰ってくると、「そんないつまでも遊んでないで、早く勉強しなさい」と言われたんですよね。「よく学びよく遊べ」という言葉がありますが「学ぶ」という円と、「遊ぶ」という円と、「働く」という3つの円って、微妙にずれながら重なり合っているんだろうと思います。つまり楽しく学ぶこと、これは遊ぶこととイコール。働くことも、やっぱり遊ぶことと重なっているんですよ。これが全く違う円だと思ったら、私はそういう仕事をしないほうがいいと思うぐらい。「学ぶこと」と「遊ぶこと」と「働くこと」、3つが重なっているところが一番面白い仕事だと思うんですよね。皆さんのアンケートデータを見ていますと、渋谷という街にはそういう3つの要素を備えている職場がたくさんあるのかなあと思いましたね。その重なったところが面白いということに、昔に比べて多くの人が気付いていると思います。そういう意味では渋谷はもっともっとそうなっていくんだろうなと、アンケート結果を見ながら思いました。

楠本:全く同意見ですね。「仕事=遊び=学び」だと思っていますので、社員にもそう言っていますし、それが渋谷のワークスタイルというか。さっき「easy going」というキーワードを言いましたけれど、それは別にいい加減にやるという意味じゃなくて、遊びも仕事も両面合わせた状態の中で自分たちが生きていきたいと思っています。逆にいえば、自分をコントロールできる力強さみたいなことが培われればいいんじゃないかと思います。

「渋谷にはそういう人たちを集める磁石のような効果がある」

西:中村さん、渋谷で働いてらっしゃる方々の姿をどのように捉えられましたか?

中村:渋谷で働くことはやっぱり「自由」でいられるのかなと感じました。僕の個人的な考え方かも知れませんが、例えば丸の内など他のエリアにはある種既存の価値観があって、そのエリアで働くことでその価値観を目指しているような印象があります。でも渋谷は何でもあり。自由というのは「自分による」という意味で、「面白いじゃないか、面白いじゃないか」とどんどん自分に寄せて考えられるためにクリエイティブに働ける環境があるのかなあと思います。ただ一方で渋谷という場所の魅力って実は結果的なもので、根っこはそこに集まる人たちの魅力なのかなとも思います。魅力的な人たちが魅力的な場所をつくっている。渋谷にはそういう人たちを集める磁石のような効果があるのかもしれません。

西:「渋谷で働くこと」というときの「渋谷」は場所を指している感じがしますが、もしかしたら「渋谷にいる人と一緒に働く」に近いニュアンスがあって、いわば場所と人は非常にニアリー・イコールなのかもしれませんね。今日は場所というところからスタートしましたが、最後は人に戻ってきたという感じがします。

パネリストに聞いてみたいことは?

「『お客様』と考えるよりも、仲間と考えていて」

西:きょう若い方もお見えになってらっしゃいますので、もし良かったら質問をいただけないかと思うんですけれども。はい、どうぞ。

質問者A:渋谷というのはいろんな人を受け入れる溜り場で、新しい文化をどんどん積み重ねていく場なんだというお話があって、非常に共感しました。そういった場の中では、働く人とお客さんとの距離はどのように測ればいいのでしょうか?

西:じゃあ、これは楠本さんですかね。

楠本:ちょっと乱暴な意見を申し上げますと、僕はお客さんを「お客様」と考えるよりも、「仲間」と考えていて、一人でも多くの仲間をつくろうと思っています。もちろんお客様は「お客様」ですよ。だけれども、お客様は「神様」ではない。仲間である。大切な仲間だからこそ、その人の望むことに対して思いを馳せて、そこに目線の合った関係をつくっていく。そうやってコミュニティが生まれていくと僕は思っています。だから、うちは「いらっしゃいませ」とは言わないです。「こんにちは」「こんばんは」しか言わない。それからもっと言うと、「いらっしゃいませ」とか「こんにちは」よりも、「おかえりなさい」と言えたほうがいい関係だと思います。そういう関係をつくっていける場所をつくっていきたいと思っています。

質問者A:ありがとうございます。

「終わってないんですよ。これからが始まりなんです」

西:ほか何かありますか?

質問者B:わたしは大学4年の学生です。8月に就職が決まったんですけれども、就職活動を振り返ると気持ちが続かなくて、落ち込んだり、いろいろモチベーションが上がらないことも多くありました。就職活動でモチベーションをもっと持つにはどうしたらいいと思いますか?

中村:一般的な新卒採用って、企業にとっても就活生にとっても非常に効率的なやり方だと思うんですが、一方でその道を1つでも踏み外すとその先に行けないような怖さがあります。でも渋谷の会社もそうですが、仕事百貨で採用された人などに実際にお会いしてみると、普通の就職活動をしていない人って実はすごく多いんです。例えば海外留学していたとか、放浪していたとか、いろんな理由で通常の就職をしていない人はたくさんいらっしゃって、そういう人もそれぞれに幸せになっています。僕は就職活動をしていると見えてこない部分が、外側の世界に広がっているように思います。だからいろんな価値観の人ともっと話をしてみると安心できるし、結果的に自分に寄ることができるのかなと思います。

楠本:少しだけいいですか?手短に言うと、「不景気万歳」と思ったほうがいい。景気がいいときには、こういう採用の仕方がある。だけれども、不景気だったら、逆転の発想ができる。だからチャンスだと思うんです。それは別にベンチャー企業に限らず、大企業だってベンチャー精神で自分の価値を変えていかなければならないタイミングですから、たぶん企業経営者はそういう人を求めていると思います、「不景気だから、どうしよう」ではなくて、不景気だからこそ違う視点で物事をとらえてみるという発想で就職活動に当たられたら、「オー、何かこの子に元気もらったわ!」と人事部の人が感じるかもしれない。僕だったらそう思います。

矢内:揚げ足を取る気はないんだけれど、あなた就職活動について「わたしは終わったんですが…」とさっき言いましたよね?でも終わってないんですよ。これからが始まりなんです。仕事って、きっかけはパッと見た瞬間に「わたしの好きな仕事はこれだ!」というところから入ってくるかもしれないけれども、実際には何でもいいと私は思っているんですよ。何をやったって面白くできるし、何をやったって自分の成長はあるし、それは本人の気持ち次第なんですよ。だから、終わりじゃなくて、スタートですよ。

最後に「シブヤで働く魅力」とは?

「情報が溜まるから情報発信になる」

西:今回は「シブヤで働こう」というテーマで進めてきましたので、最後に「渋谷に職場があることのメリット」を少しお聞きしたいと思います。楠本さんは「カフェのようなコミュニティが自然発生的に生じる空間を創ること」という意見を挙げていますが。

楠本:情報が溜まるから情報発信になるんです。情報発信基地なんてないんですよ。そう思ったほうがいいです。まず情報が溜まって、価値が溜まるから、結果的に情報発信できるんです。ということは、渋谷という街が情報と価値の溜り場になれば、地域との交流の中での情報発信というのもあり得ると思います。

西:ポイントですね。溜り場だから情報発信ができるというのは、本当に大事なことですね。

楠本:それから孔子曰く「学十五にして志す」、そして「三十にして立つ」と言っていますね。20代というのは書いてないんです。つまり15歳から30までは学を志す時期なんだと思います。この「学を志す」の「学」をさっき矢内さんがおっしゃった「学び、仕事、遊び」として考えると、30歳まで遊んでいいし、めちゃめちゃ働いていいし、失敗していいということだと思うんですね。そういったことができる街が渋谷かなと。だから、若い街、渋谷、万歳です。

「『○○なう』、その○○に渋谷が一番入りやすい」

西:それから中村さんから、「働く側から見た渋谷に仕事場があることのメリット」を解説していただけますか。

中村:Twitterやユーストリームなどのネットメディアが発達していますが、例えばツイッターで「○○なう」と言ったときに、その○○の部分に渋谷が一番入りやすいような気がします。結局、リアルな場所でないと実際会えないですから、「リアルな場所=街の価値」が高まっているように感じますし、そういう意味で渋谷という街はソーシャルなメディアと結びつきが強いように感じます。またどんなにソーシャルメディアが発達したとしても、結局、面白くしているのは「仕組み」ではなく「人」なのではないかという思いがあります。

西:ここでまた言い得て妙で、最後に仕組みが人だということで、また場所から人に戻ってきました。渋谷という場所は恐らくそういう場所なんでしょうね。だから、渋谷という街とか、何か具体的な建物とかが渋谷の面白さをつくっているわけではなくて、渋谷にいる人が面白くて、刺激のある街をつくっているわけです。そういう人がさらに刺激を受けて、また面白いものを生み出していくという正の循環が渋谷にはあるのかもしれません。そういう意味では、渋谷の街を見るときに建物を見たり、道を見たり、店を見たりするのではなく、そこにいる人を観察するということが、渋谷の面白さ、あるいは渋谷で働くことの面白さなんじゃないかなと改めて感じました。

中村:そうですね。渋谷は映画『マトリックス』で最後まで人間が立てこもったザイオンのように思えて、最後まで人間らしくあれる場所だと思います。既存の価値観なしで自分から考えることができる、いろんなものをクリエイティブに生み出せる場所。渋谷で働くというのは、そういうことなのかなと思いました。

「渋谷で働くとは、渋谷の街の息吹」

西:最後に矢内さん、お願いします。

矢内:渋谷で働くとは、やっぱり「渋谷という街の息吹」ですかね。これが私たちが渋谷に引っ越してきたことの一番の理由かな、と思っております。

西:皆さん、ありがとうございました。「仕事」をテーマに渋谷ということを論じる機会というのは意外と少ないと思います。きょうは抽象的なことも出てきましたし、いろんな主観もあるし、捉え所のない部分も多々ありましたが、こうやって「渋谷で働くということは、どういうことなんだろう?」ということを、皆さんと一緒に考える場が持てたことはとても有意義だったと思います。それでは渋谷文化茶会其ノ参、本日はこれで終わりとなります。どうもありがとうございました。