第3回目を迎える、今回の渋谷文化茶会のテーマは「シブヤで働こう。」―― パネリストには渋谷を拠点にカフェ事業を展開する「カフェカンパニー」代表・楠本本修二郎さん、渋谷へ本社を移転したばかりの「ぴあ」代表・矢内廣さん、さらに仕事探しをする人をサポートする「東京仕事百貨」代表の中村健太さんの3名を迎え、各々の経験から実感する「渋谷らしい働き方」についてじっくりと話し合いました。空前の経済不況が続く中で、仕事へのやりがいや楽しさを見つけ、自分らしく生きるためのヒントとは・・・
- 「渋谷文化茶会 其ノ参」開催概要
- 日時:
- 2010年11月23日(火) 14:00〜16:00
- 会場:
- 渋谷情報発信型カフェ RESPEKT
- 参加者:
- 100人
パネリスト
矢内 廣氏
(ぴあ代表取締役)
大学在学中に仲間とともに月刊情報誌「ぴあ」を創刊した学生ベンチャーの先駆者。
ぴあ
楠本 修二郎氏
(カフェ・カンパニー代表取締役)
「WIRED CAFE」「246CAFE」をはじめ、数多くの飲食店経営や空間プロデュースなどを手掛ける。
カフェ・カンパニー
中村 健太氏
(東京仕事百貨 代表)
「生き方を探す人の仕事探し」をコンセプトとした求人サイト「東京仕事百貨」を運営する。
東京仕事百貨
コーディネーター:西 樹氏
(シブヤ経済新聞編集長)
ニュースサイト「シブヤ経済新聞」の運営をする(株)花形商品研究所代表。
シブヤ経済新聞
西:渋谷文化茶会の其ノ参は、働く場としての「渋谷」を改めて考えてみようじゃないか、というイベントとなります。渋谷は「遊び場」というイメージが強く今回は馴染みの薄いテーマですが、今日はくしくも「勤労感謝の日」。ぜひ最後まで、ごゆっくりお過ごしください。
「やはり渋谷はエンタテイメントの集積地ですから」
西:まずはぴあ株式会社代表取締役社長、矢内廣さん。矢内さんは1972年に『ぴあ』を創刊し、2年後に会社を設立されたベンチャーの先駆け。2002年に東証二部に上場、翌年には一部に上場した大企業として知られるぴあさん。来年(2011年)1月には本社を渋谷へ移転されることが決定しています。場所は六本木通りから、青学のトンネルに入る右側に竣工した住友不動産渋谷ファーストタワー。この建物にはミクシィやグルーポンも移ってくることが決まっていて、IT・情報産業が集積する場所になりつつあります。矢内さん、本社移転の理由を教えていただけますか?
矢内:候補はいろいろありましたが、やはり渋谷はエンタテイメントの集積地ですから、私たちの仕事と大変身近に感じられるという点が大きいです。
西:移転は(2011年)1月ですか?
矢内:(2010年)12月中に引っ越しを完了し、新年から新しいビルで心機一転仕事を始める予定で考えています。
「僕はずっと渋谷で仕事をしようと決めていました」
西:次にカフェ・カンパニー株式会社代表取締役社長の楠本修二郎さん。カフェ・カンパニーさんの本社オフィスはこの会場の上にあります。渋谷で創業されて、1回南青山に会社を移し、2006年に戻ってこられました。なぜ渋谷に戻って来たのか、背景を教えてもらえますか?
楠本:今日のイベントが渋谷文化茶会だからというわけではないですが、そもそも僕はずっと渋谷で仕事をしようと決めていました。青山へは、青山2丁目のツインタワーの裏側に「カフェ246」と「ブック246」というお店を立ち上げるにあたって、一時的に移転したんです。当時、西さんに「浮気するんですか」って言われたのを記憶していますが、決してそういうわけではありません(笑)。
西:当時、楠本さんが本社を渋谷圏から移されたのは本当に悲しくて、何で行っちゃうのかなと思っていたので。戻ってきてくれてうれしいです。
楠本:ここ(「SUS(シブヤユニバーサルソサエティ)」)を立ち上げたのはちょうど4年前です。SUSは今回の会場であるカフェ「RESPEKT」と、1階の本屋「COOK COOP」、地下の「SECO BAR」という施設から構成しています。そもそものきっかけは東急電鉄さんの(渋谷と代官山の途中にある)高架下で「SUS(シブヤ・アンダーパス・ソサエティ)」というカフェを展開していたのですが、定期借家契約満了で2004年に閉店。その後、地元の方々から「SUSをぜひ復活しろ!」という温かい励ましをいただいて、4年前にここをオープンしました。で、もう1回渋谷に引っ越してきたというわけです。
「給与や福利厚生などの『定量的』ではなくて、『定性的』な条件」
西:最後は、お店や企業の求人情報を独自の観点で伝えるウェブサイト「東京仕事百貨」代表の中村健太さんです。このサイトでは様々な企業を取材し、客観的な記事を掲載されているんですが、従来とちょっと違うのが企業の良いところも載せる一方で、問題点もちゃんと挙げていらっしゃる点です。中村さん、サイトの企業検索機能として「ユニーク」「ソーシャル」「シブヤ」などの「キーワード検索」があるのですが、このキーワードはどんな風にして生まれたんですか?
中村:キーワードは、給与や勤務地や福利厚生などの「定量的」な条件ではなくて、「定性的」な条件を示すものです。例えば「スーパーピープル」。これは「すごい人と一緒に働く」っていう意味で、そういう人がいる職場なんかに付けています。ほかに「スタートアップ」は、プロジェクトの始まりに立ち会うような仕事を指したり。どの仕事もどれか1個だけではなくて、複数のキーワードに当てはまることが多いですね。
西:なるほど。何か頭に引っ掛かるところから、仕事に興味を持っていかせることも一つの入り口ですからね。
「『渋公ぴあホール』という名前を出したのですが・・・」
西:パネリストの皆さんには、事前に「渋谷の街の印象」についてアンケートをお願いしました。まず「ライブエンタテイメントが根付いている街」として、さらに「2012年に東急文化会館跡地に開業する渋谷ヒカリエに期待。渋谷公会堂のネーミングライツの際、実は・・・」という意味深な回答をしてくださったのは、矢内さんですね。
矢内:東京にはいろんな街がありますが、渋谷はやはりエンタテイメントの集積地なんですよね。例えばライブハウスだと渋谷のO-WEST・EASTから始まって、AX、QUATTRO、老舗の屋根裏など55カ所くらいあります。ホールもNHKホール、C.C.Lemonホールなど19カ所ぐらい。映画館は13。こんな風に大小取り混ぜてたくさんの施設があって、それぞれで毎日何か行われています。
西:渋谷ヒカリエの開業も2012年に控えていますね。
矢内:「東急文化会館」跡地に建設中の「渋谷ヒカリエ」の中にも、「東急シアターオーブ」という2000人規模のミュージカルシアターができることになっています。現在、東急さんが手がけられているエンタテイメント施設には、Bunkamuraオーチャードホール、シアターコクーンなどがあって、それらに「東急シアターオーブ」が加わることで更に大きく変わっていくんだろうな、という期待感を持っています。ほかにもセルリアンタワー能楽堂や松濤美術館、NHKホール、古代エジプト美術館、たばこと塩の博物館とか…。表では若者の街と言われますが、実は若者じゃない世代にとってもやっぱりエンタテイメント、文化という意味で魅力のある街だと思います。
西:渋谷公会堂のネーミングライツには、どのように関わっていらっしゃるんでしょうか?
矢内:何年か前に渋谷区がネーミングライツを募集していて、実はうちも手を挙げまして。当時は「渋公、渋公」って皆呼んでましたから、「渋公ぴあホール」という名前を出したのですが、残念ながら採用されませんでした(笑)。
西:今、明かされる事実ですね。
「水があるところに人が集まり、コミュニティが形成され情報が交差する」
西:楠本さんの渋谷の印象は「渋谷は渋谷(しぶたに)。渋谷の『谷』ですね、つまり低地。低地には人が自然発生的に集まりダウンタウンを形成。人のたまり場には情報や価値観のたまりが生じる。そこで、新しい価値観をもった人物が、新しいビジネスを産む。渋谷は常にそういうインキュベーションの街である」…こういうイメージということでしょうか?
楠本:すみません、これ書いたとき、結構僕酔っ払っていまして。
西:(笑)。
楠本:僕がカフェを始めたのは、十数年前のキャットストリートが最初なんです。キャットストリートって元は『春の小川』で歌われた清流で、それがドブ川になって蓋(ふた)をして、今は遊歩道になっていますよね。かつてのSUSの隣にも渋谷川が流れていましたし、ずっと低地である川沿いでカフェをやってきました。それで渋谷の「らしさ」を考えたとき、「渋谷(しぶたに)」というキーワードが出てきたんです。人間の歴史上、水があるところに人が集まりコミュニティが形成され情報が交差すると言われますが、渋谷というのは底がグッと落ちていますから、元来そういう街なんだろうなって、僕は勝手に想像しています。そういう交流の場所から一つのクリエイティビティみたいなものが生まれていくのかなと。
西:分かりました。渋谷は何かを生み出す力を持っていると。その何かはなかなか分からない、捉えどころがないところが渋谷であるということですね。
楠本:捉えどころがなくていいと思うんです。それは時代時代で変わっていくもの。渋谷は「ファッションの街」でも「エンタテイメントの街」でもあり、2000年には「ビットバレー」とも呼ばれていましたし、今は「ソーシャルベンチャー」が台頭していますね。渋谷では常に社会、世界の流れに対して情報感度の高い人たちが溜まり、新しいアクションが起きています。
「また戻ってきてもいい、受け入れてくれる」
西:中村さんは「渋谷は何でも受け入れる場所。多様な価値観がある場所。去る者は追わないが、戻ってきてもまた入ることができる場所」というふうに捉えていますね。
中村:自分の話をすると、親が転勤族で、中学校に上がるまで1、2年おきに転勤転勤だったので、地元という拠点がないんですよ。だから渋谷が自分の地元の一つなのかなと感じています。すっと入り込みやすい空気があって、そういう多様な価値観がある場所なのかなと思います。また一方で「去る者は追わない」。そういうと冷たい感じがしますが、「また戻ってきてもいい、受け入れてくれる」というニュアンスが含まれているような感じがしています。
西:ありがとうございます。
「企業理念は『ひとりひとりが生き生きと』」
西:そろそろテーマである「仕事」の話をしていきたいと思います。ぴあの新卒採用は今年6人だったといいます。毎年これ位だそうですが、一方の応募はなんと7,000人あったそうで、1,100倍以上。一体どんな難関をくぐりぬけた6人が選考されたのでしょうか。矢内さんはその基準の一つに「ぴあが掲げる企業理念にどれだけ共鳴していただけるか」を挙げておられます。具体的には「与えられたテーマを効率的に最後までやり遂げられること」。ちょっとドキッとしますね。それから「新しいものをゼロからつくり出すことを面白いと思える人」、「他人を喜ばせるために頑張れて、それを自分の喜びにできる人」。これらの企業理念について、ご説明いただけますでしょうか。
矢内:採用については、最後の面接に至るまでに7,000通あるわけですから、申し訳ないけれども絞るしかない。何かこうやって言葉で言うともっともらしいでしょう(笑)。流れとしては、まず申し込み用紙で各応募者にエントリーシートを出してもらって、用紙がスカスカの人は、みんなそこで落ちますね。真剣味が用紙で量れるかどうかという問題はありますが、まずはバサッとそこで切っちゃう。次に受験者同士でディスカッションをしてもらったり、いろんな方法でぴあの考えに合うかを見つけ出そうとしています。もちろんそれは実際には分からないんですが、「何となくそうだろうな」と、そのなんとなくというのもそれはそれで意味があることですから。で、残った人たちを、最後は何回かの面接をやって私が決めています。
西:具体的に面接ではどんなところをご覧になるのでしょうか?
矢内:うちの企業理念には、まず「ひとりひとりが生き生きと」というのがあります。それは社員一人ひとりであると同時にお客さん、あるいは取引先の仕事の関係者でもあって、それぞれがみんな生き生きできる社会をつくりたいという思いを意味しています。自分が生き生きするためには、相手も生き生きとしていなければ成立しませんからね。
楠本:「ひとりひとり」と「生き生き」という言葉。同じ言葉が二つ重なると強いですね。
矢内:それからもう一つの理念が「経済性」と「趣旨性」です。ちょっと難しい言葉を使っていますが、経済性というのはお金のこと。会社は組織ですから、ちゃんと利益を上げなければいけないのは当然。じゃあ「儲かっていればいいの?それだけじゃないよね」というのが、もう一つの趣旨性という考え方です。この両方が車の両輪のように前に進んでいくのが「ぴあ」。個人単位で考えてみても、この経済性と趣旨性のバランスが各人の人格を形成しているという風に私は思っています。自分にはどんな趣向があるのかをはっきりさせながら、経済性とバランスをどう取って進んでいくか。いつも順風満帆に真っすぐ進めるわけではなく、時代時代で山も谷もありますが、両方持つことが重要です。そうやって蛇行しながらも前に進む。で、そういう人たちの集合体である会社、組織も社格を持って当然で、そういう考え方や視点から受験してくださる方たちを見させてもらっている、というのが私たちのやり方です。
西: 今年採用が決定した6人に何か共通点はあるんでしょうか?
矢内:もちろん初めからパーフェクトな人なんかどこにもいないわけで、仕事を通してそういう考え方を肉体化していくことが、人間の成長だと思っています。共通点があるとすれば「一緒に頑張れる人」ということですね。
西:ありがとうございます。
「『do gooder』『easy going』な感じは、『渋谷で働く人』の本来持っている強さ」
西:楠本さんは「アルバイトから入って、やる気のある方が社員の希望を申し出て…」というのが基本だったそうですが、昨年から新卒の採用も始めたとのこと。カフェ・カンパニーさんが目指される理念、求める人材というのは、どのようなものなのでしょうか?
楠本:アメリカからカナダにかけてのパシフィック・ノースウエストエリアと言われている辺りには、例えばNIKEだったり、Googleだったり、あるいはアップルコンピューターなどの企業がありますよね。僕のNY在住の友人は、こういった企業を「easy going」あるいは「do gooders」と言っています。それはある一定の「緩さ」を持って事業を進める、あるいは遊んでいるかのように仕事をするという意味。9時から5時までバーッと働いて、そこからみんなで宴会する、みたいな感じじゃなくて、もっとネットワークで一つの価値をじわっと醸成していくような、そういうチームがアメリカの経済界の中で台頭し、イノベーションを生んでいるんですね。経済の話をしたいわけではなく、要するにエリアの持っているムードみたいなものが、恐らく「何かいいよね、こんな感じいいよね」という人びとのクリエイティビティを触発し、コミュニティを通じてどんどん新しいものができてくると思うんです。
西:なるほど。
楠本:で、そのへんの「do gooder」だったり、「easy going」な感じというのは、「渋谷で働く人」の本来持っている強さだと思うんです。つまり、メリットとしての「緩さ」というものがあるんじゃないかなと思っていて。オンとオフで使い分けるのではなくもっと仕事自体で遊んじゃう、あるいは遊んだものを仕事にそのまま活かしちゃう。24時間働くことが、言い換えれば24時間遊べるかどうか、遊び心を持って仕事ができるか。そこが大切なんだろうなと。
西:カフェ・カンパニーさんは、そういった考え方を楠本さんから社員にお話しをされる機会があるんですか?
楠本:暑苦しく。
西:そうですか(笑)
「We are proud of you」
西:今度はユニークな人事制度について聞いてみたいんですけど、ぴあさんは頑張って成果を上げた社員に対して、「The PIA Award」という報奨制度を導入されていらっしゃるということですが、この効果、お考えを教えてください。
矢内:この賞は大きな目標を達成したとか、新しい商品を作り上げたとか、業務改善をこれだけやったとか、そういった人を表彰するもので、このアワードの表彰状の下には、英語で「We are proud of you」と書いてあるんですよ。つまり私たちは、あなたのことを誇りに思いますと。みんなから誇りに思われるような内容のことをやった人たちを、社員みんなで表彰するというのが基本の考え。
西:「We are proud of you」は、非常に象徴的な言葉だと思います。
「『人間力養成講座』なんていうと、何か星飛雄馬みたいなイメージですけど」
西:一方、楠本さんは「人間力養成講座」を始めたばかりだそうですね。
楠本:そうですね。うちは一切マニュアルを置いていないんです。何度も何度も作るんですけど、何か違う。一生懸命半年かけて作ったら、もう陳腐化していて、作れば作るほど実態に合わないんです。それぐらいのスピードで時代は変わっているし、10年、5年続くルールなんかなくて…。カフェ・カンパニーではルールよりも個人力、一人ひとりが感じる感性、優しさ、元気さ、そういった人間の本質的なものに価値をおいています。「人間力養成講座」なんていうと言葉では何か星飛雄馬みたいなイメージですけど、そういうスキルアップ講座じゃなくて、もっと総括的に「生きるってどういうことなんだろうか」、あるいは「仕事を通じて自分はどんなふうに成長できるかな」というようなことを先輩の話を聞きながら考えてもらいたいと思っています。
西:どんな方がいらっしゃるんですか?
楠本:第一回には、陸上選手の為末大さんにご出演いただきました。カフェとは全然違う分野ですが、つきつめた人の言葉というのは非常に力を持っていますからね。シンプルな言葉の中に本質論が隠されているので、そういったものをちょっとでも感じ取ってくれればな、と思っています。
西:それはどのぐらいの頻度で開かれるんですか。
楠本:月に1回です。
西:ちなみに次回のゲストは?
楠本:僕の友人でコピーライターの小西利行さん。その次は書道家 の紫舟に書き初めをやってもらおうかなと思っています。
「『本当に困った、困った、どうしよう、どうしよう』と考えた結果、いきなり起業したりとか」
西:今度は中村さんから最近の就職、仕事選び事情を伺えればと思うんですが、「企業側のトレンドとしては、今、学生さんが100社エントリーする時代だと言われています。企業としては確度が高い人だけが応募してくれると選考も楽になるんじゃないかという思いもある。一方、仕事を求める方の価値観も多様化していて、自分の目線で見ることができる人も増えている。結果的に見方によっては本気で考えるチャンスが生まれてきたんじゃないか」と中村さんはおっしゃっています。今日は若い方も結構いらっしゃるので、中村さんの考えを教えていただけますか。
中村:10年前の僕自身の就職活動の時期にもそうだったんですが、今はネットで簡単にエントリーできてしまう時代ですから、100社エントリーをする人が実際にいるんですよね。でもその企業を十分調べようとしたら100社エントリーは物理的に無理だと思いますし、採用する企業の側から見ても、エントリー数が多くなるほど絞りにくい。企業と人が相思相愛で結ばれるところが、膨大な量の情報の濁流の中で離ればなれになってしまうような例がたくさん起きているように感じます。バブル期には、企業の担当者に求職者が焼き肉をおごってもらったり、旅行に連れていってもらったりしたという話も聞きます。一方で今はそういう時代と比べて就職が難しい分、就活が自分のことを見つめる機会になっているのかなと。この機会に「本当に困った、困った、どうしよう、どうしよう」と考えた結果、大企業志向になる方も生まれれば、いきなり起業を目指す方も生まれます。自分のことを本気で考える機会が生まれるという意味では 非常に可能性のある時代で、それはそれで僕は面白いんじゃないかなと思っています。
西:こういう環境だからこそ、本気でいろんなことを考えてみなきゃいけないということですね。
中村:そうです。まず自分の目線で考える。ただそうするとやっぱり働いてみないと分からないこともありますから、特に若い人たちは「今の自分に何もない」ということに気付くことも多いです。仕事百貨では「こういうのがいいよ」「こういうのがあるよ」という風に情報提供するというスタンスをとっています。僕は漠然とした「やりたいこと」を少しずつ具体化させるためにはいろんな人の話を聞くとか、仕事百貨を見ていただくとか、そうやってボキャブラリーを増やすことが必要だと思っていまして、ボキャブラリーが自分の考えをまとめるヒントになる、そういう話をよくしています。
西:テレビを観ていると、やっぱり大企業を受ける方が非常に多く、倍率がすごいですよね。一方、中小企業はまだまだ低倍率だったりして、バランスが悪いという報道がよくされています。その辺の実態はどうでしょうか?
中村:仕事百貨でも掲載前は応募がなかったのに、掲載後に突然応募者が増えることがあって、改めてマッチングが出来ていないと感じますね。大企業に絞ると就職活動をしている学生は閉塞感を感じざるをえないですが、世の中にはまだまだ面白い仕事がいっぱいありますから、そういうところも見てほしいですね。