最近、ギャラリーや美術館などで、デザイナーやコピーライターなど「クリエーター」と呼ばれる人々が作品を発表している機会をよく目にする。展示されているのはポスターやCM、コピーなど。依頼に応じてモノを作り報酬を得る彼らの活動は「仕事」として行われるものだが、それでも機知に富んだ表現にぐっと胸を鷲づかみにされることもよくある。一方で同じように表現活動を行なっている人々の中で、「アーティスト」と呼ばれる人もいる。クリエーター兼アーティストなど作品によって肩書きを変える人もいる。肩書きは「依頼されてモノづくりをするかどうか」を基準に、前者ならクリエーター、後者ならアーティストとすることが一般的。しかし、美術家、音楽家、映像作家などのアーティストであっても、パトロンがいたり、展示会に向けて作品を作ったりと、要望に答える形でモノ作りを進めることも多いだろう。では、アーティストとクリエーターの違いとは、一体何だろう。
今回は、これから渋谷での公開を控える3作の映画をピックアップ。主人公は俳優、美術家、音楽家と幅広いが、賞賛と羨望を込めて「アーティスト」と呼びたくなる人々が勢ぞろい。自分の表現と時代とのギャップに悩む俳優、既存の価値を一変させる美術家、なにがあっても結局歌い続けてしまうラッパー…。「アーティスト」とは、何を作っているかではなくどう生きているかにこそ宿る魅力。彼らにしか成し得ない特別な世界の見え方を、作品を通して体感してみてはいかがだろうか?
- タイトル
- アーティスト The ARTIST
- 上映場所
- シネマライズ
- 上映期間
- 2012年4月7日〜
- 上映時間
- 上映スケジュールの詳細は劇場まで
- 監 督
- ミシェル・アザナヴィシウス
- 出 演
- ジャン・デュジャルダン
ベレニス・ベジョ
ジョン・グッドマン
ジェームズ・クロムウェル
シネマライズでは4月7日から、英国アカデミー賞最多5部門を受賞した白黒サイレントの話題作「アーティスト The ARTIST」がスタートする。ハリウッド黄金時代を舞台にした同作。サイレント映画界の大スターだったジョージはエキストラだったペピーを見初め、女優への道に力を貸す。1929年、アメリカでは初めてのトーキー映画が公開。トーキーの台頭と共にスターの階段を駆け上がるペピーと、「サイレントこそ芸術」と固執して没落するジョージ。ジョージに恋するペピーは、何とか彼を復活させようとするのだがー。
ハリウッド転換期を背景に、表現者として生きる映画俳優、女優たちの恋愛模様を描く同作。俳優の眉の動きが伝えるニヒルさ、視線で語る恋心、背中で魅せる哀愁など、CG主流の現在の映画界に流星のごとく登場した白黒のサイレントの美しさに注目したい。
- タイトル
- はじまりの記憶 杉本博司
- 上映場所
- シアター・イメージフォーラム
- 上映期間
- 2012年3月31日〜
- 上映時間
- 上映スケジュールの詳細は劇場まで
- 監 督
- 仲村祐子
- 出 演
- 杉本博司 ほか
シアター・イメージフォーラムでは3月31日から、現代美術家・杉本博司さんを追ったドキュメンタリー「はじまりの記憶」が公開される。杉本さんは1948年東京生まれ。ロサンゼルスで写真を学び、1974年からNYに在住。自然史博物館のジオラマを撮影したシリーズや全米の映画館などで撮影したシリーズなど、写真の可能性を「現実を切り取るもの」から「コンセプチュアルアートの手段」へと広げた美術家として知られる。
作中では日本、NY、南仏、シドニーと、国境を超えた創作活動に密着。杉本さんの言葉と作品を通して、美術家の素顔と視線の先を見つめる。監督は塚本組として「六月の蛇」などの助監督を務めた中村佑子、音楽は渋谷慶一郎、ナレーションは寺島しのぶが担当するなど、強力な布陣がそろう。
- タイトル
- SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者
- 上映場所
- 渋谷シネクイント
- 上映期間
- 2012年4月14日〜
- 上映時間
- 上映スケジュールの詳細は劇場まで
- 監 督
- 入江悠
- 出 演
- 奥野瑛太、駒木根隆介、水澤紳吾、斉藤和美、北村昭博、永澤俊矢、ガンビーノ小林、美保純
渋谷シネクイントでは4月14日から、ラッパーが主人公の青春映画「SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」が公開される。2009年に公開された「SR サイタマノラッパー」は自主制作ながら、まだ何者にもなりえていない若者の鬱屈したパワーをみずみずしい感性で撮り上げ、渋谷ユーロスペースでは立見が出るほどの驚異的なロングヒットを記録。シリーズ3作目に当たる同作の舞台は埼玉から群馬、そして栃木へ。初のライブシーンや巨大フェスシーン、さらにHIPHOPシーンで活躍中のラッパー達がキャスティングされている点も見どころ。
ラッパーの夢を諦めきれない主人公の葛藤や喜びと、それを分かち合い、ぶつかり合う男たちの青春劇。「ヒップホップが怖いから苦手」という女性にも、リズムに乗せて歌い上げられる言葉たちにぜひ耳を傾けてもらいたい。リアルで切実な男たちの魂の叫びとして、胸に響いてくるに違いない。