
近年バラエティやドキュメンタリー番組などで度々問題になる演出方法の一つとして、「やらせ」がある。やらせは街頭インタビューや体験レポートなど目の前でおこった出来事・事実を伝えるはずの部分で、その事実を歪曲するほどの過剰な演出が加えられることを揶揄(やゆ)したもの。しかし一方で、目の前の事実を端的に派手に伝えるためのナレーションやテロップなどの「演出」は当たり前に行われているものであり、過剰な演出である「やらせ」と通常の演出の間には、明確な差異はない場合が多い。どこまでが「虚構」で、どこまでが「事実」なのか。それはこれまで映画やテレビ作品で常に問われてきた問題の一つ。ときには作品そのもののテーマとなる場合もある。今回はドキュメンタリーとフィクションの境界に位置づける映画作品3本をピックアップ。舞台裏を「舞台」にしたメタフィルム、「実際の街の音」を劇中で効果的に利用する劇映画、フィクションだということを秘密にした「ドッキリ」映画。3本それぞれの視点から、ドキュメンタリーとフィクションの境界はどう映るだろうか?
- タイトル
- 28 1/2 妄想の巨人
- 上映場所
- ユーロスペース
- 上映期間
- 〜2010年8月20日
- 上映時間
- 21:10
- 監 督
-
押井守
- 出 演
-
奥田恵梨華、田辺桃子、須藤雅宏、水橋研二、柏原収史、舞台『鉄人28号』キャスト&スタッフほか

2009年/日本/74分/配給=デイズ/©光プロ・八八粍/デイズ・ポニーキャニオン 2010
ユーロスペースでは現在、「舞台裏」をモチーフにした押井守監督の映画「28 1/2妄想の巨人」が公開されている。押井監督は昨年、初めての舞台演出作品として横山光輝原作の人気コミック「鉄人28号」を上演。同作はこの舞台作を元にした舞台裏ドキュメンタリー作品で、「舞台演出しながら、同時に映画が撮れれば面白い」との思いで稽古の合間に撮影した。映画上の主人公・言子(あきこ)は舞台現場に、スチルカメラマンという設定で配置。映画内では、正太郎を思わせる少年が登場したり、押井監督が失踪したりと、フィクション・ノンフィクションの境界を混乱させる複雑な設定が折り重なっていく。
- タイトル
- シルビアのいる街で
- 上映場所
- シアター・イメージフォーラム
- 上映期間
- 2010年8月7日〜
- 上映時間
- 11:15/13:15/15:15
/17:15/19:15 - 監 督
-
ホセ・ルイス・ゲリン
- 出 演
-
グザヴィエ・ラフィット、ピラール・ロペス・デ・アジャラ

2007年/スペイン、フランス/85分/配給:紀伊國屋書店、マーメイドフィルム
シアター・イメージフォーラムでは8月7日より、劇場公開が日本初となるホセ・ルイス・ゲリン監督の話題作「シルビアのいる街で」がスタートした。ゲリン監督はジョン・フォード監督の「静かなる男」へオマージュを捧げたドキュメンタリー「イニスフリー」(1990年)が話題を集めた鬼才。今回の作品は「フィクション映画にドキュメンタリーの手法を取り込みたい」との思いでスタート。ドイツとフランスの国境付近にあるストラスブールを舞台に、撮影では多言語が飛び交うカフェ客らの様子や、電車の往来など、「街それ自体が持っているリズム」に合わせて「俳優の動きをコントロールした」とゲリン監督。街のノイズをオーケストラのように奏でる音響設計と物語の連鎖に注目だ。

2010年/日本/配給:株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシー/©TBSテレビ / 吉本興業
ヨシモト∞ホールでは8月より、お笑いコンビ「野性爆弾」のロッシーに「ドッキリ」を仕掛けたお笑いスペース・ファンタジー映画「無知との遭遇」が公開されている。吉本興業製作映画を一挙に紹介する上映企画「Laugh&Peace ムービーフェスタ」の一環での上映。監督はTBSのバラエティ制作センターチーフプロデューサーを務め、「さんまのスーパーからくりTV」や「ひみつの嵐ちゃん」などのヒット番組を手がける合田隆さん。撮影では千原ジュニア、ロッシーがそれぞれ本人役で出演し、「村民全員が宇宙人」という「馬鹿げた」設定で、一人うそを信じるロッシーの姿をドキュメンタリータッチで写し取っていく。宇宙平和のために立ち上がるロッシー。悪の星人と戦うロッシー。そんなロッシーのまっすぐな正義感に敬意と笑いがこみ上げる。