ライブハウスの巨大スピーカーでノリノリで聴く音楽体験も、自分の部屋でゆっくりと耳を傾けるCDなどでの音楽体験も素晴らしいが、客席よりも近い距離でミュージシャンたちに迫り、ステージを下りた彼らの日常生活をも捉え尽くす音楽映画は、音楽の魅力をもっと深く知るための道しるべの一つ。
今回は、現在渋谷の映画館で公開中の音楽映画から3本をピックアップ。音楽の魅力とは、「歌詞」「メロディー」「音」など表面的な構成要素以外にも、ミュージシャンの生き様、歌うことの意味、人生における歌の役割などからもにじみ出るもの。音と映像を使うことで、より詳細にそれらを捉える音楽映画をきっかけに、今まで知らなかった新しい音楽の味わいを楽しんでみては?
- タイトル
- ボブ・ディラン・イン・フィルム
- 上映場所
- シアター・イメージフォーラム
- 上映期間
- 2010年3月13日〜2010年4月9日
- 上映時間
-
11:00/15:00/19:00
※各回の上映作品は公式HPまで - 監 督
- マーティン・スコセッシ ほか
- 出 演
- ボブ・ディラン ほか
シアターイメージフォーラムでは、ボブ・ディランの9年ぶりの来日に合わせた特集上映会「ボブ・ディラン・イン・フィルム」を開催している。1941年ミネソタ州出身のボブ・ディランは、ビート詩人たちがたむろするグリニッジ・ヴィレッジでフォーク・シンガーとしてデビュー。反戦運動が盛り上がる1960年代、「風に吹かれて」や「戦争の親玉」などの曲で、プロテストソングのカリスマとして祭り上げられるように。しかし1965年、バンド編成でエレキギターを手にしたディランは、フォークソング愛好家から「裏切り者」扱いされることに。今回上映されるのは、ディランの転機となった1965年の全米ツアーを追った「ドント・ルック・バック」(1967年、D・A・ペネベイカー監督)、同時期にディランのバックバンドも務めたザ・バンドの解散ライブで、豪華ミュージシャンの共演でも知られる「ラスト・ワルツ」(1978年、マーティン・スコセッシ監督)、一方で知名度を高め、現在までに40枚以上(内14枚のプラチナ・ディスク)のアルバムを発表するディランの変遷をインタビューを交えて記録した「ノー・ディレクション・ホーム」(2005年、マーティン・スコセッシ監督)の3本。
一人のミュージシャンが歌を通して時代を体現し、新たな時代を先駆けた様子を伝える作品群から、改めて音楽の影響力の大きさを感じて欲しい。
「ヤング@ハート」は、アメリカ、マサチューセッツ州在住の年齢75歳から93歳までのおじいちゃん、おばあちゃんからなるコーラス隊。1982年に高齢者向け公営住宅ウォルター・サルヴォ・ハウスの住人により結成されたこのコーラス隊が他のコーラス隊と異なるのは、彼らが歌いあげるのが、コールドプレイ、ソニック・ユース、ラモーンズ、ボブ・ディラン、トーキング・ヘッズなどによるロック音楽であるという点。現在ユーロスペースでは、メンバーを入れ替えながらヨーロッパツアーなども成功させてきた彼らの来日を記念して、2008年に公開されてロングランを記録したドキュメンタリー「ヤング@ハート」(2007年、スティーヴン・ウォーカー監督)のリバイバル上映を行っている。ロックの名曲を老人たちが歌うギャップへのおかしさもさることながら、同作の良さは何より「歌うことは生きること」「生きることが歌うこと」という彼らの比類なき生き様と歌い様。
年を取ることもかっこいいし、死ぬことだって怖くない…自然とそんな風に思わせてくれる彼らに、どんなミュージシャンにも負けない強い魂を感じるのは、きっと私だけではないはず。
- タイトル
- チャンドマニ 〜モンゴル ホーミーの源流へ〜
- 上映場所
- UPLINK FACTORY
UPLINK X - 上映期間
- (F)2010年3月20日〜2010年4月9日
(X)2010年3月20日〜 - 上映時間
-
(F)
12:30
(X)
〜4/9(金)
16:40/18:40
4/10(土)〜
20:50 - 監 督
- 亀井岳
- 出 演
- ダワースレン、ザヤー、ダワージャブ、センゲドルジ
アップリンクでは、ホーミーの故郷「チャンドマニ村」を目指す二人の青年が、モンゴル人である自分自身と向きあう旅を描いた「チャンドマニ 〜モンゴル ホーミーの源流へ〜」(2009年、亀井岳監督)が公開されている。ホーミーとは、アルタイ山脈周辺民族の間に伝わる喉歌と呼ばれる歌唱法で、喉の筋肉を極度に緊張させ、しぼりだすように発声するもの。2006 年に初めてホーミーを生で聴き、チャンドマニ村へと向かったという亀井監督。「遊牧民の生活と美しい自然の中で育まれてきた本来のホーミーを、今、映像に刻み付けておかなければならない」と決意し、1年半後に撮影をスタートさせた。風の中に溶けこんでいくようなホーミー、少数民族による昔ながらの芸能など、心に響く音の数々が散りばめられている同作は、遊牧民による本来の「ホーミー(喉歌)」が失われつつあり、一方で、観光客相手にお金が稼げるホーミーを習う人が増えているというモンゴルの現状を伝えるドキュメンタリーでもある。