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日本時間の2月23日。アメリカ映画最大の祭典アカデミー賞が発表され、滝田洋二郎監督「おくりびと」が外国語映画賞を、加藤久仁監督「つみきのいえ」が短編アニメーション賞をそれぞれ獲得した。日本映画での外国語映画賞の受賞は、1956年に本賞が設けられて以来今回が初めて。また、短編アニメ部門も、日本人監督作品の受賞は初めてのものである。アカデミー賞は、基本的にはアメリカ映画に対して労と成果を讃える映画賞であり、世界三大映画祭を中核とするFIAPF(国際映画製作者連盟)公認の映画祭には含まれてない。しかし、その知名度故に、マーケットへの影響力は国際映画祭以上。実際にこの受賞を受け、「おくりびと」は、今後、ギリシャ、韓国、ポルトガルなど世界38カ国での配給が決定。また「つみきのいえ」も各地の映画館での凱旋上映が決定した。
今回は、このように映画祭での評価を得ることで上映の機会が設けられた実力派の映画をピックアップ。第60回カンヌ国際映画祭(2007年)での受賞作から、渋谷でも2本が公開中である。

 

UPLINK XFACTORYで2月14日から上映を開始した『彼女の名はサビーヌ』は、第60回カンヌ国際映画祭(2007年)の監督週間部門にて、国際批評家連盟賞を獲得した作品。監督を務めたのは、クロード・シャブロル、アニエス・ヴァルダ、パトリス・ルコントらが監督するフランス映画に多数出演してきた女優、サンドリーヌ・ボネールである。 初の長編監督作品である本作は、自閉症である彼女の妹サビーヌが、正確な診断を受けることなく、長期にわたる不適切なケアによって歩んだ悲劇を伝えるドキュメンタリーだ。
フランスの有名女優であるボネールは、自分が身内の病状を作品として世間に発表することについて「“セレブ的行為”の一つと受け取られてしまうのではないか、露骨で慎みがないことだと思われるのではないか、そんな懸念を抱いていた」という。しかし、それでも本作の制作に踏み切ったのは、「自閉症者を抱える家族の代表」になろうと決心したことがきっかけ。「自閉症者のケアの現状について、公の機関に訴える」ことを目的として、彼女は本作で、25年に渡って撮りためた映像を巧みに組み合わせ、若かりし頃の生き生きとしたサビーヌと、入院期間を経て施設に暮らす現在の彼女の「変化」を容赦なく見せ付けている。 本作の上映に合わせて、トークイベントや討論会にも積極的に参加してきたというボネール。本作がフランスにおいて一般に知られることとなったのも、彼女の積極的なプロモーションがあってのことだ、という。昨年末には、『彼女の名はサビーヌ』の先行上映会に合わせて来日もはたした。しかし、一方で本作を「自閉症ケアの現状」を改善させる為の手段として割り切ることは出来ないのは、本作での「あるがままのサビーヌ」の姿を見つめる家族としての「眼差し」にある。サビーヌの「きれいなところ」、「美しいと言えないところ」「優しい面」と「暴力的な面」…。激変を遂げたサビーヌに対して、25年間変わることのないボネールの「眼差し」は、妹へ向けられた愛に満ちた「抱擁」でもあるのだ。

2007年/フランス/85分/配給:アップリンク

タイトル:
彼女の名はサビーヌ
上映場所:
UPLINK X
UPLINK FACTORY
上映期間:
UPLINK X
2009年2月14日〜
13:00/15:00/19:00
UPLINK FACTORY
2009年2月14日〜
10:30
監  督:
サンドリーヌ・ボネール
出  演:
サビーヌ・ボネール

『彼女の名はサビーヌ』より、若かりし日のサビーヌとボネール

 

また、同年のカンヌ国際映画祭にて最優秀脚本賞を受賞したのが、現在シアターN渋谷にて公開中のファティ・アキン最新作『そして、私たちは愛に帰る』である。 監督・脚本のファティ・アキンは、1973年、トルコ系移民二世として工場労働者の父と教師の母のもとハンブルクに生まれた。俳優を志し、93年から舞台やテレビドラマに出演していたが、在ドイツのトルコ移民役などステレオタイプの役柄ばかりであることに嫌気がさし、ハンブルク造形芸術大学へ進学。95年、監督デビュー作となる短編「SENSIN…YOU‘RE THE ONE!」を発表し、この映画でハンブルク国際短編映画祭で観客賞を受賞した。初の長編映画となった「SHORT SHARP SHOCK」(98)はロカルノ映画祭の銅豹賞、アドルフ・グリム賞、バヴァリア映画賞など全部で9つの賞を獲得。偽装結婚から生まれる愛を情熱的に描いた「愛より強く」(2004年)でベルリン映画祭金熊賞(グランプリ)をはじめヨーロッパ映画賞最優秀作品賞・ドイツ映画賞などを受賞。そして、「愛より強く」以来の劇映画となった本作『そして、私たちは愛に帰る』で、巧みな構成力とストーリー展開への評価を得て、2007年カンヌ映画祭最優秀脚本賞と全キリスト協会賞を受賞した。
ハンブルク国際短編映画祭(95)、ロカルノ映画祭(98)、ベルリン映画祭(04)、そしてカンヌ映画祭(07)と、受賞と共に知名度を広げ、より大きな映画祭へとその発表の舞台へと広げていったアキン監督。日本では、ベルリン映画祭での受賞をきっかけにした2006年にアキン監督が初めて紹介されている。
今回の作品『そして、私たちは愛に帰る』は、ドイツと、トルコを渡ってすれ違う3組の親子を描いた群像劇。「生と死は隣あわせ、すべての死は生誕である」??そんなアキン監督の死生観をにじませながら、映画は、運命に導かれるままめぐり合い、別れ、そしてつながってゆく3組の親子を追っていく。彼らの姿に、「幸せと不幸せ」「生と死」が背中あわせに存在する人生というものの不思議さといとおしさ、そして、だからこそ「いつだってやり直しができる」という大きな希望を感じずにはいられない。

2007年/ドイツ・トルコ/122分/配給:ビターズ・エンド

タイトル:
そして、私たちは愛に帰る
上映場所:
シアターN 渋谷
上映期間:
2009年2月28日〜2009年3月20日
14:00/18:40
監  督:
ファティ・アキン
出  演:
バーキ・ダブラク、ハンナ・シグラ、ヌルセル・キョセ、トゥンジェル・クルティズ 他

『そして、私たちは愛に帰る』より


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