古代の壁画から始まる絵画の歴史をたどり、長い歴史を経て進化してきた絵画表現を批評するのは難しい。絵画史上では高く評価されてきた抽象画をなんの前知識もなくいきなり鑑賞したってその「良さ」を感じ取れるはずはないし、だからこそ知識がなければ美術館は何となく敷居が高い場所だと感じてしまうのは当然だろう。 でも、そんな方こそ「展覧会」に足を運んでみて欲しい。
Bunkamura ザ・ミュージアムでは、アメリカン・リアリズムの代表的画家アンドリュー・ワイエスの制作過程を伝える展覧会『アンドリュー・ワイエス 創造への道程』が開催中だ。ほぼ全ての作品をペンシルヴェニア州の生家とメイン州の別荘で描いたワイエス。荒涼とした平凡な田舎の風景と、そこに暮らす人々を捉えた作品群は、第一次世界大戦以降資本主義社会へと激変を遂げたアメリカの姿とは異なる、アメリカの「原風景」を伝えるものとして多くのファンを生んでいる。
ワイエス自身は、鉛筆による素描について「とてもすばらしい黒の鉛筆の芯を強く押しつける。そうすると、芯が折れることがある。そうやって、対象との間に起こる私の強い印象を表現するのだ」と、水彩については「その時感じたことをそのまま素早く描くことができる」と語っている。会場に並ぶ習作群には、ワイエスの関心の在処や意識の変化が饒舌に示されており、静謐な完成作のリアリズムの奥に隠された、対象へのワイエスの深い情熱を感じとることができる。
- タイトル:
- アンドリュー・ワイエス 創造への道程
- 開催場所:
- Bunkamura ザ・ミュージアム
- 開催期間:
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2008年11月8日〜2008年12月23日
10:00〜19:00
毎週金・土曜日21:00まで
(入館は各閉館の30分前まで) - 料 金:
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当日 一般/1400円
中・高生/1000円
小学生/700円
松濤美術館で開催されている『素朴美の系譜〜江戸から大正・昭和へ〜』は、ヨーロッパや中国のリアリズム絵画の表現の台頭でときおり絵画界から退けられながらも、脈々と引き続いてきた自由でおおらかな絵画表現の傾向「素朴美」を伝える展覧会だ。会場には、近代初頭に庶民の間で「おみやげ」として売られた大津絵から、禅僧・白隠が人々への教化の手段として描いた禅画、夏目漱石が文学活動の傍ら余技として描いた南画などが並んでいる。一見バラバラにも見える作品群だが、どの作品も表面的な写実にこだわらず、心の内を率直に描いている点が共通。ビュッと勢いよく引かれた線描の1つ1つを眺めていると、絵を描くという行為そのものの楽しみや、それを誰かに伝えるというシンプルな喜びなど、描いた人の人間味がストレートに伝わってくるからおもしろい。「絵を描く」という行為は、一部の誰かに特権的なものなのでなく、文字と同じように誰かに気持ちを伝える大衆メディアの1つ。「落書き」を楽しんだ幼い頃の衝動がよみがえった。
- タイトル:
- 素朴美の系譜 江戸から大正・昭和へ
- 開催場所:
- 渋谷区立松濤美術館
- 開催期間:
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2008年12月9日〜2009年1月25日
9:00〜17:00
※金曜のみ(1月2日除く)9:00〜19:00
※入館は16:30まで - 展示替え:
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前期 12月28日まで
後期 1月4日から - 料 金:
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当日 一般/300円
小・中・高生/100円