渋谷文化 PROJECT

「香港ノワール」は、夜間のロケーション撮影を多用したコントラストの強い色調の映像に、犯罪などを主題とし、作品内に行き場のない閉塞感が覆う映画ジャンル「フィルム・ノワール」の香港版。1986年に、ジョン・ウー監督の香港マフィア映画『男たちの晩歌』が公開され大ヒットを記録し、それまでカンフー映画やコメディが主流だった香港映画界に、新ジャンル「香港ノワール」がもたらされたとされている。ジョン・ウーは、1993年以降ハリウッドに招かれ、『フェイス／オフ』『Ｍ：Ｉ-２』、現在渋東シネタワーで公開中の「三国志」のリメイク作品『レッドクリフ』などのアクション大作を次々と監督しているが、ジョン・ウー不在の香港で「香港ノワール」の最後の騎手として現在の香港映画界を担うのが、今回紹介するジョニー・トーだ。

香港出身ジョニー・トーは、1980年代後半より監督として映画制作を開始した。1989年に、10年越しに再会した男女の恋を描く『過ぎゆく時の中で』を監督して注目され、1999年には、組織と友情に縛られた男たちの運命を描いた『ザ・ミッション　非情の掟』で香港電影金像賞をはじめ数々の賞を受賞。この作品は日本でも2000年秋に開催された香港映画祭にて上映され、絶大な支持を得た。その後も、１つの事件に関わる３つの警察組織を描きわけた『PTU』（2003）、香港裏組織のトップを決める会長選挙を舞台とした『エレクション』（2005）と、夜の香港の闇世界で繰り広げられる男同士の友情と裏切りを精力的に描いてきた。最新作『文雀』は、11月22日から始まる東京フィルメックスで見ることができるが、渋谷でも、注目の近作２作品が、公開／近日公開を控え、ジョニー・トー熱を高めている。

12月6日から、シアターイメージフォーラムにて、昨年の第8回東京フィルメックスでは数十分で前売券が売り切れたというジョニー・トー監督の話題作『エグザイル／絆』が公開される。ベネチア映画祭を皮切りに、アジア、アメリカで、興行的な成功とともに数々の映画賞を獲得し、“「インファナル・アフェア」以来最高の話題作”と絶賛された本作。
９ヵ月間に及んだ現場の様子について、ジョニー・トーは「脚本も無く、物語がどう発展していくかも自然に任せて撮影を進めた」と答えている。公開前に来日した主演のアンソニー・ウォンも「脚本どころかストーリーの説明もなかった」と宣言。中国返還の前のポルトガル領マカオを舞台に、共に育ち、共に同じ組織に入り、共に暮らしてきた長年の幼なじみの５人の男たちが、大人になって再会、お互いを牽制し合いながらやがて絆を深めていく様子が描かれる、というが…。「インファナル・アフェア１、２」シリーズ出演のアンソニー・ウォン、フランシス・ンなど、香港映画に欠かせないスターが登場して繰り広げられた「即興」演技に、目が離せない。

また、渋谷シアターTSUTAYAで公開中の『僕は君のために蝶になる』は、アクションやサスペンスの傑作を生みだしてきたジョニー・トーには珍しい、若い男女の過ぎた過去の記憶を塗り替えていくという、不思議な恋愛映画だ。主演しているのは、「流星花園」（「花より男子」のリメイク作品）にて美男子集団F4のメンバーの１人を演じたヴィック・チョウと、2003年のジョニー・トー監督作『百年好合』にも出演したリー・ビンビン。本作について、ジョニー・トーは、「今までとは全く違う作品にしたかったから、様々な試みをしている」とコメント。これまで、撮影は『エグザイル／絆』同様に脚本を練りながら同時進行で進められることが多かったが、今回は完成された脚本のセリフを「１文字も変えない」ことを自分に課した、とのこと。新たな試練がどんな効果を生み出したのか、ファンには見逃せない１作だ。

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