レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

今週末の渋谷では、渋谷にある27のライブハウスの協力のもと、C.C.Lemonホール、SHIBUYA109前や道玄坂通りなどのスペースでフリーライブ(一部有料)を繰り広げる音楽イベント「第3回渋谷音楽祭」(11/15・16)と、渋谷・西麻布から15店舗のクラブハウスが参加して、日中から代々木公園でDJ演奏が楽しめる音楽フェス「TOKYO DANCE MUSIC FESTIVAL 2008」(11/16)が同時開催。渋谷発信のライブハウス・クラブハウスカルチャーを体感できる絶好のチャンスとなっている。そんな中、実は渋谷の映画館でも、「音楽」をテーマとした作品が溢れていることにも注目。渋谷にある映画館は計23館だが、音楽に関わる映画作品を上映中/近日上映予定の会場が計8つもあるのだ。
「音楽映画」とひと言で言っても、ミニシアターの聖地・渋谷だけに、上映作品は実に多彩。今回は、現在渋谷で上映中の「音楽映画」の中から、特にキャラクターの濃い作品をピックアップした。取り上げた作品から、それぞれの上映映画館の傾向も見えてきた。

『帝国オーケストラ ディレクターズカット版』より
(2008年/ドイツ/97分/配給:セテラ・インターナショナル/©SV Bilderdienst)

アッバス・キアロスタミ、アキ・カウリスマキ、フランソワ・オゾンなど、最先端の映画監督作品をいち早く紹介/配給してきた映画館・ユーロスペース。こちらでは、『ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて』と題して、1882年設立以来125年もの伝統を誇るオーケストラ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のドキュメンタリー作品が上映中だ。2005年のアジア・ツアーを追った本作では、ソリスト級の音楽家たちで構成されるというベルリン・フィル 団員1人1人のインタビューから、音楽に対する姿勢や、オーケストラでハーモニーを作り上げることに対する哲学、楽器との関わり方など、団員たちの「生の姿」を伝える。ツアーで演奏されたリヒャルト・シュトラウス作曲の交響詩<英雄の生涯>は、「芸術家とその伴侶、芸術家と対抗勢力との戦いを描いた」とも言われている。本作では、同曲のベルリン・フィル演奏を聴かせながら、団員たちの高揚、葛藤から引退へと、映像パートが同曲のテーマをなぞるように進行していく点にも注目だ。また、本作の公開に先駆けて、ユーロスペースでは同じくベルリンフィルがヒトラー政権下、ナチスのプロパガンダ楽団「帝国オーケストラ」として活動していた時期を捉えたドキュメンタリー作品『帝国オーケストラ』も上映している。ベルリン・フィルを多角的に捉えた今回のシリーズを、クラシック音楽に一歩踏み出す機会にしてみては?

2008年/ドイツ/108分/配給:セテラ・インターナショナル/©Boomtown Media

タイトル:
ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて
上映場所:
ユーロスペース
上映期間:
2008年11月15日(土)〜
11:40/14:00
16:20/18:40
監  督:
トマス・グルベ
出  演:
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、サー・サイモン・ラトル

『ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて』©Boomtown Media

©2006 Shine Global, Inc. All rights reserved

アップリンクは、1987年のデレク・ジャーマン監督作品の配給を行ったことを皮切りに、現在でも宇田川町でカフェ・ギャラリー・映画館の複合施設を運営しながら、ジャンルや規模にとらわれずに常に「インディペンデント・スピリットを持った作品」を発信し続けている。
そんなアップリンクの映画館、アップリンク・ファクトリーでは、『WAR DANCE ウォー・ダンス ー響け僕らの鼓動ー』が上映中だ。 本作に登場するのは、反政府軍によるゲリラ活動が今も続くウガンダの北部の避難民キャンプにある、銃弾で穴だらけの学校。そこに通う生徒たちは、両親と離れ、水道も電気もプライバシーも無い不自由な生活を余儀なくされている。

©2006 Shine Global, Inc. All rights reserved

本作では、そんな子どもたちが、紛争によって全てを奪われた過去の辛い体験を忘れ、音楽を通して新たな希望を見出していく姿を追う。先祖伝来のリズムによって体を揺らして踊る子どもたちの姿に、祖国への思い、明るい未来への祈りが重なり、重苦しい過去を背負った彼らが、生き生きと「子どもらしくいる」様子に驚く。監督を務めたショーン・ファイン&アンドレア・ニックス・ファインは、真実の人間ドラマを捉えるため、これまでに北極の果てから戦火のアフリカまで30以上の国を旅してきた夫婦ユニットだ。

2007年/アメリカ/107分/配給:IMAGICA TV/©2006 Shine Global, Inc. All rights reserved

タイトル:
WAR DANCE ウォー・ダンス ー響け僕らの鼓動ー
上映場所:
UPLINK FACTORY
上映期間:
11月17日(月)
10:30/13:00/15:30
11月25日(火)
13:00/15:30/18:30
監  督:
ショーン・ファイン&アンドレア・ニックス・ファイン
出  演:
ドミニク(木琴演奏者)、ローズ(聖歌合唱団員)、ナンシー(ダンサー)

『シンクロミー』(8分/1971年 )

最後に、芸術性の高い作品やアヴァンギャルドな映像の古典の企画上映などを行いながら、映像作家育成のためのワークショップも開設しているイメージフォーラムでは、アニメーション作家ノーマン・マクラレンの映像作品を特集上映している。「映画は音と映像でできている」とはいうものの、トーキー映画が発達し始めた1930年代から、映画音楽は物語をドラマチックに盛り上げるために利用されてきた側面が目立つ。1930年代から映像作家として活躍したマクラレンは、速い段階から映画における音の存在を重視し、音と映像の関係について問う実験的な作品を発表してきた。今回の上映作の1つである『線と色の即興詩』(6分/1955年)は、即興で演奏された音楽に合わせて、ネガフィルム自体をひっかくことで描かれたスクラッチ・アニメだ。さらに、完成後には、マクラレンがフィルムのサウンドトラック(音の入っている部分) をひっかくことで音楽(音)を追加している点も特徴だ。また、『シンクロミー』(8分/1971年)は、電子音楽と映像の動きが完全に シンクロした、音楽を視覚化したような作品。「動きのある色彩」を探求し続けたマクラレンの集大成と言われている。

『マクラレン 開会の辞』7分/1961年

タイトル:
ノーマン・マクラレン カンヌ国際映画祭セレクション
上映場所:
シアター・イメージフォーラム
上映期間:
2008年10月25日(土)〜
21:00
監  督:
ノーマン・マクラレン

この他にも、伝説のミュージカル「コーラスライン」のオーディション風景から、夢見る若者たちの人生が変わる瞬間の光と影を描いたドキュメンタリー『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』Bunkamuraル・シネマで、平均年齢80歳のおじいちゃんおばあちゃんのロックコーラス隊のドキュメンタリー『ヤング@ハート』シネ・アミューズ・イースト&ウエストでそれぞれ上映中だ。
音楽と言えども、音の楽しみ方はそれぞれ。渋谷音楽祭、TOKYO DANCE MUSIC FESTIVAL 2008で盛り上がったその後は、映画館に足を運んで、あなたの好みにぴったりフィットする1本を見つけてみて欲しい。

『線と色の即興詩』(6分/1955/音楽:モーリス・ブラックバーン)


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