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1990年代後半から、急激に日本に普及した「ケータイ」。もともとは非固定電話としての用途が主流だったが、メールやカメラ機能が発達し、ウェブへのアクセスが可能になり、現在では多機能を備えた何ものにも替え難いガジェットの1つとなっている。待ち合わせにしても、空き時間の使い方にしても、「ケータイ以前」に僕らがとっていた行動は、今とは全く様子が違うのを思い出してみて欲しい。
「ケータイ」は僕らをどう変えたのか?
今回は、現在渋谷で公開中の作品から、「ケータイ」の持ついろんな魅力をひも解いてみたい。

© 2008 天使のいた屋上製作委員会

『Deep Love アユの物語』(配信開始:2000年)、『恋空』(配信開始:2005年)など、ケータイ小説から始まったコンテンツが書籍や映画にリメイクされていくスタイルが、ここ数年で特に目立つようになってきた。現在渋谷シアターTSUTAYAにて公開されている映画『天使のいた屋上』も、ケータイ発のコンテンツを活用したメディアミックス作品の1つ。201万人の女子中高生会員を誇る携帯向けホームページ無料作成サイト「フォレストページ」内のケータイ小説コミュニティサイト「フォレストノベル」で、映画化を前提とした小説を公募・投票する企画「ユアシネマ」にて第一回大賞を受賞した作品だ。ケータイ小説の特徴は、ちいさな画面でドラッグしていきながら読んでいくために発達した、短い文と改行の多い文体。出版のような流通市場を通さないので、自分の言葉が直接読者個人に届くことや、アクセス数の増減で人気の有無が数字でリアルに表示されることも大きな特徴といえる。今回の『天使のいた屋上』は、行き場を失った男子高校生と、学校の屋上にいた少女との交流を描いた青春物語。ケータイ小説の読者たちを惹き付ける本作には、お互いの気持ちを伝える道具としてケータイが使われている。現代ならではの恋のカタチは、あなたにはどう響くだろう?

©2008 DREAMWORKS LLC. All Rights Reserved.

またケータイは、自宅でも外でもいつでも手元に置いてある、非常にプライベートな持ち物の1つでもある。それは逆に言えば、ケータイの着信は、どこにいても自分のプライベートに直接割り込んでくるものである、ということ。しかも、電話の相手の居所や正体を突き止めることは出来ない。スピルバーグが製作総指揮を務めた『イーグル・アイ』は、このプライベートなツールが緻密にネットワーク化された21世紀という社会の恐怖を描いたサスペンスだ。渋谷ピカデリーで公開中の本作では、一般市民であるジェリーとレイチェルは、携帯電話を通して、次から次へと下される無茶な指令に否応無く従い、気がつけば事態は、国家の危機管理体制を揺るがす極限レベルにまでスケールアップしていく。携帯、ATM、監視カメラ、電光掲示板、交通信号、GPSなど、全ての情報が1つのネットワークの元で緻密に管理される現在のテクノロジー。現代社会にいきる限り、だれもその監視から逃れることはできないのだ。

さて、最後に11月7日からプロモ・アルテギャラリーにて開催されるアベル・バロッソ展について。アベル・バロッソは、1971年、キューバ生まれのアーティストで、プロモ・アルテギャラリーでは、2003年にも彼の個展を開催した。キューバは、キューバ革命以来の社会主義国家として、国外からの情報を遮断するためにネット検閲が導入されている。2008年4月には、国営電話会社から、それまで政府関係者と外国人しか利用できなかった携帯電話サービスが開始されたが、国民の平均月収が18米ドル相当であるのに対して、最も安価な携帯端末価格はおよそ65ドル相当、回線コストはおよそ120ドル相当と、非常に高価だという。今回、会場では、木材に手彫りで携帯電話を模した立体作品が展示される。アベル・バロッソは、これらの作品から、キューバの電脳化の問題をアナログな木版で風刺しているが、一方で、完成した作品に宿る手彫りの温もりや質感は、「ケータイ」では決して手に入らない良さがある。だからといってキューバの現状を讃えるわけではないけれど、今回の展覧会をきっかけに、自分の握りしめる「ケータイ」の役割について、改めて思いを馳せてみるのも楽しいだろう。

Abel Barroso"cellphone" ©PROMO-ARTE

2008年/日本/108分/配給:アステア/©2008 天使のいた屋上製作委員会

タイトル:
天使のいた屋上
上映場所:
渋谷シアターTSUTAYA
上映期間:
2008年11月8日〜
上映時間の詳細は、劇場までお問い合わせ下さい。
監  督:
高木 聡
出  演:
小柳友、波瑠、中山麻聖、中林大樹、鈴木一真、
水木薫

 

2008年/アメリカ/配給:角川映画、角川エンタテインメント/©2008 DREAMWORKS LLC. All Rights Reserved.

タイトル:
イーグル・アイ
上映場所:
渋谷ピカデリー
開催期間:
2008年10月18日〜2008年11月21日
10:50/13:30/
16:10/18:50
監  督:
D.J.カルーソ
出  演:
シャイア・ラブーフ、ミシェル・モナハン、
ロザリオ・ドーソン、マイケル・チクリス、
アンソニー・マッキー、ビリー・ボブ・ソーントン

 

Abel Barroso Arencibia “La ciudad en su laberinto”/©PROMO-ARTE

タイトル:
アベル・バロッソ展
上映場所:
プロモ・アルテギャラリー内常設展示場スペース
開催期間:
2008年11月7日〜2008年11月23日
12:00〜19:00
※毎週月曜日は休館日になります。

 


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