レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

電車の中で誰かがDSを使ってゲームしているなんて日常的な光景だし、ネットでブログを書くのも全く特別なことでは無い。「現実ではないけれど、あたかも現実であるかのような感覚を沸き起こす」ことをバーチャルリアリティと呼ぶけれど、そのバーチャルリアリティが日常化することで、今や私たちはそれらを現実として受け止めているような感覚にすら陥っている。
バーチャルリアリティが現実に取って代わるとき、残されるのは私たちの「からだ」。
<身体>の問題は、1990年頃からアートの世界でも主要なキーワードの1つとなっている。今回は、渋谷で開催されているイベントから、<身体>をテーマにした作品を探してみた。

『ホッテントットエプロンースケッチ』(2006/日本/70分)より

10月25日から、アップリンクXでは、今年冬公開され異例のヒットを記録した七里圭監督最新作品2作品『眠り姫』『ホッテントットエプロンースケッチ』のアンコール上映会が行われている。1967年生まれの七里監督は、早稲田大学に在籍中にシネマ研究会に所属し、在学中から映画の現場で働き始め、約十年間、廣木隆一、鎮西尚一らの助監督を経験。2004年、山本直樹原作の映画『のんきな姉さん』を監督し、劇場デビューを果たした。『ホッテントットエプロンースケッチ』は、愛知芸術文化センターの委嘱により製作されたアートフィルム。同センターではこれまでも、ダニエル・シュミット『KAZUO OHNO』、勅使河原三郎『T-CITY』、天野天街『トワイライツ』など、「身体」をテーマにアート映像作品を連作していて、本作はその第14作目である。主人公は、隠れた場所に醜いアザを持つという少女。劇中は、彼女の心象風景である非現実的な映像(山の中にいる一頭のホルスタインの姿、廃墟の床に落ちたザクロの実)が続くが、その現実的にはあり得ない映像を、どこまでも生々しく写し取っていくのが、本作の特徴。原作は、新柵 未成さんによる短編詩『ホッテントットエプロン』で、七里監督は、この詩を全くセリフのないリアルな映像の羅列のみで映画化してみせている。劇中には、主人公とそっくりの球体関節人形も登場する。1人の少女と1体の少女人形が並ぶ映像は、生身の「身体」の有機的な生々しさを強調する。

朝海陽子 <ホームアローン、東京>
2007 発色現像方式印画 作家蔵

また、東京都写真美術館では、10月18日から日本の新進作家展vol.7 「オン・ユア・ボディ」が始まっている。これは、東京都写真美術館が写真・映像の可能性に挑戦する若手作家を発掘・支援するプロジェクトの中核となる展覧会で、ここでも「身体」をテーマとした計6人の作家たちの作品群が展開されている。出品者の1人である澤田知子は、様々な職業の制服を身にまとって被写体となった『コスチューム』で2004年に第29回木村伊兵衛写真賞を受賞。その他の作品でも、自らを変装し外見を変化させることで、外見と内面の関係の曖昧さを追求してきた。今回出品された『TIARA』では、澤田は「ミスコン」でステージに並んで美を競い合う女性たちに扮している。誰が一番美しいか、作品に近づいて目を凝らして、自分の審美眼の意味を感じてみて頂きたい。 同じく本展に出品中の朝海陽子は、自宅で映画を観る人々の表情を撮影した『Sight』を発表し、2008年に第9回コニカミノルタ・フォト・プレミオ特別賞を受賞した。今回展示されている作品群でも、自宅で思い思いにくつろぎながら『ホームアローン』や『バンビ』といった映画作品を"見ている"人たちを"見る"ことができる。映画を見ることで見られていることを意識しなくなった人々が、無防備な姿で没頭している様子は、バーチャルリアリティにハマった人たちの姿そのもの。取り残された<身体>に、あなたは何を見るだろうか?

澤田知子 <TIARA>
2008 発色現像方式印画 作家蔵

『眠り姫』(2007年/80分/配給:Charm Point)より

タイトル:
「ホッテントットエプロンースケッチ」
『眠り姫』+『ホッテントットエプロンースケッチ』より
上映場所:
UPLINK X
上映期間:
2008年10月25日〜2008年11月14日
21:00
※うち、「ホッテントットエプロンースケッチ」上映
11/8(土)、11/10(月)、11/12(水)、11/14(金)
監  督:
七里圭
出  演:
阿久根裕子、ただてっぺい、大川高広、井川耕一郎
人  形:
清水真理

 

志賀理江子 <千愛子>「CANARY」より
2007年
発色現像方式印画
作家蔵

タイトル:
日本の新進作家展vol.7 「オン・ユア・ボディ」
上映場所:
東京都写真美術館
開催期間:
2008年10月18日〜2008年12月7日
10:00〜18:00 (木・金は20:00まで)
※いずれも、入館は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜日(休館日が祝日または振替休日の場合、その翌日)

 

『ホッテントットエプロンースケッチ』


一覧へ