レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

ラインアップ発表記者会見(2008.09.18)より。
中央は、コンペティション部門に出品の『コトバのない冬』にて監督初挑戦を果たした俳優、渡部篤郎と、主演の高岡早紀

2008年10月18日(土)から26日(日)まで、六本木ヒルズと渋谷Bunkamuraをメイン会場に、第21回東京国際映画祭(以下、TIFF)が開催される。
TIFFは、世界に2,600以上ある国際映画祭の頂点に立つカンヌ、ヴェネチア、ベルリンに比肩し世界4大映画祭の1つと評されることを目指して1985年に開催されて以来、日本唯一の国際映画製作者連盟公認の国際映画祭として、日本の映画産業を支えてきた。
21回目となる今回は、プログラミング・ディレクター矢田部吉彦さんが72の国と地域で制作された690本の候補作から“東京サクラ グランプリ”を選出する「コンペティション」部門15作品のほか、日本公開前の話題作を先行上映する「特別招待作品」、アジア圏で制作された秀作を特集した「アジアの風」、新作日本映画を海外へ発信する「日本映画・ある視点」、海外から注目される日本アニメーションの上映企画「animecs TIFF」。更に今回から新設される“エコロジー”をテーマに「自然と人間の共存」を伝える作品を集めた部門「natural TIFF」など、合計約300本の映画が上映される。
渋谷のメイン会場となるBunkamuraでは、18日から24日までル・シネマ1/2にて、また24日から26日には、通常は演劇のための舞台として客席との一体感を実現すべく設計された「シアターコクーン」、東京フィルハーモニー交響楽団のフランチャイズホールでもある世界有数のコンサートホール「オーチャードホール」での上映も行われる。今回のリコメンドでは、そんな特別な施設で映画が鑑賞できるチャンスに合わせ、Bunkamuraそれぞれの施設で上映されるTIFF作品の中でも特におすすめの作品3本をピックアップしてご紹介したい。

『パブリック・エナミー・ナンバー1(Part1&2)』 2008年/フランス/246分/© 2008 LA PETITE REINE

シアターコクーンでは、TIFFのメイン企画でもある「コンペティション」の中から、合計6本の作品が上映され、最終日の26日にはその中から選ばれたグランプリ作品が上映される予定だ。もちろんその全てに目を通すのも楽しいが、特に今回は、10月25日(土)の15:20から上映されるアジアンプレミア作品『パブリック・エナミー・ナンバー1(Part1&2)』に注目したい。本作は、カーペンターの『ジョン・カーペンターの要塞警察(ようさいけいさつ) 』(1976)のリメイク作品『アサルト13 要塞警察』(2005)を監督したことで知られるジャン=フランソワ・リシェ監督の最新作。『アサルト13』は、ハリウッド級の銃撃戦に、監視しているような冷静な視点が合わさって絶妙な効果を生んでいた。今回の作品の見所は、主演のヴァンサン・カッセル(「憎しみ」「アレックス」)を始め、ジェラール・ドパルデュー(「終電車」)、リュディヴィーヌ・サニエ(「8人の女たち」)、マチュー・アマルリック(「潜水服は蝶の夢を見る」)など、現在の仏映画を支えるスターたちが総出演している点。上映時間は246分と長く、現在日本での配給は未決定である。当日は休憩を差し込んでPart1 とPart2が一挙に上映されるとのこと。フランス映画ファンなら足を運ばざるを得ない。

『羅生門』1950年/日本/88分/配給:大映(現:角川映画株式会社)/©1950 角川映画

また、客席数2,150席を誇るオーチャードホールでは、主に「特別上映」部門から合計5作品が上映される。故・市川崑監督の唯一の未公開作品『その木戸を通って』にも注目だが、黒澤明監督没後10年という機会を得て、角川映画がデジタル復元を行った黒澤明監督の代表作『羅生門』も見逃せない。本作は、1951年のヴェネチア国際映画祭でのグランプリによって、海外に黒澤明や日本映画が知られるきっかけとなった日本映画を語る上で欠かせない名作。土砂降りの雨に煙る羅生門の廃墟の映像、妖艶な魅力を放つ京マチ子の佇まいなど、復元された映像美を大画面で鑑賞できる醍醐味を味わいたい。

ル・シネマでは期間中、アジア各地の新作から、各映画祭での受賞作で日本公開未決定の話題作、不朽の邦画など計40本以上の作品が上映される。中でも映画の好みに関わらず注目したいのが、『実験アニメ作家・手塚治虫』だ。これは、手塚治虫の初期作品の中から特に実験的なアニメーションを集めたの4作からなるプログラム。手塚アニメの記念すべき第一作『ある街角の物語』(1962)から、フィルムを直接傷つけて作品中のヒーローを攻撃した『おんぼろフィルム』(1985)、一人の少年がスキップしながら人類の行く末を辿っていく、動画枚数4000枚、全編ワンカットで構成された『ジャンピング』(1984)、チャイコフスキーの「交響楽第4番」の音楽に乗せて、草創期からテレビ放映までアニメーションが辿った道のりを伝える『森の伝説PART-1』(第一、第四楽章のみ完成)まで、どの作品も、現在では巨匠として知られる手塚治虫の、野心的なアニメーション作家としての瑞々しい姿を伝えてくれる。

「実験アニメ作家・手塚治虫」より、『おんぼろフィルム』1985/日本/5分37秒/©手塚プロダクション

 

タイトル:
第21回東京国際映画祭
メイン会場:
六本木ヒルズ
Bunkamura
開催期間:
2008年10月18日〜2008年10月26日
主  催:
財団法人日本映像国際振興協会
公式HP:
第21回東京国際映画祭
※それぞれの作品のチケット購入方法は、公式HPをご参照ください。

 

2008年/フランス/246分/© 2008 LA PETITE REINE

タイトル:
パブリック・エナミー・ナンバー1(Part1&2)
上映場所:
シアターコクーン
開催期間:
2008年10月25日(土)
15:20〜19:42
監  督:
ジャン=フランソワ・リシェ
出  演:
ヴァンサン・カッセル、セシル・ド・フランス、リュディヴィーヌ・サニエ

 

1950年/日本/88分/配給:大映(現:角川映画株式会社)/©1950 角川映画

タイトル:
羅生門
上映場所:
オーチャードホール
上映期間:
2008年10月25日
11:30〜12:58
監  督:
黒澤 明
出  演:
三船敏郎、京 マチ子、志村 喬

 

『ある街角の物語』1962/日本/38分/©手塚プロダクション

タイトル:
実験アニメ作家・手塚治虫
上映場所:
ル・シネマ1
上映期間:
2008年10月22日
19:30〜20:52
監  督:
手塚治虫

 


『羅生門』


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