レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

マンガや小説を原作とする作品が、映画化・アニメ化されて紙面を飛び出した時、なかなか原作を超えることが難しいとよく言われる。もちろん優れた原作を前にして、原作のイメージにより忠実に映画化・アニメ化するというのも作品に対する1つの礼儀のかたちだろう。しかし、紙の上に書き込まれたキャラクターたちが3次元に飛び出すとき、2次元から飛躍するイメージの広がりで、更に面白さをプラスした作品というのも、ごくまれに存在する。
今回は、現在渋谷で上映中の作品の中から、紙から始まったイメージが3次元の世界を得て新たな価値を付け加えた例をいくつか取り上げてみたい。

「ボーメ〜アーティストデビュー10周年記念展」より。
下地によって仕上がりが異なるフィギアの塗装の様子

パルコファクトリーでは、10月3日(金)から20日(月)まで、美少女フィギュアの造形作家ボーメの初期作品から最新作まで約80点を集めた展示会『ボーメ アーティストデビュー10周年記念展』を開催している。ボーメは、現在では食玩ブームの火付け役となった『チョコQ』などのフィギュア制作で知られている海洋堂に、1980年代初頭から造形スタッフとして参加。美少女フィギュアというジャンルがまだ存在していなかった時代において、(三次元的に矛盾のある)二次元の絵のイメージを壊すことなく造形するノウハウをゼロから構築したパイオニアのひとりである。また、塗装に関しても突出した技術を持ち、質感を立体的に伝える塗装技法を多数生み出してきたことでも知られる。今回の展示は、現代美術アーティスト・村上隆氏による等身大美少女フィギュア制作プロジェクト『Project Ko2(プロジェクトココ)』への参加を皮切りに現代アートに進出して以来、10周年を祝したもので、会場には、一般的なフィギュアの倍以上の50cm級のサイズで立体化された美少女フィギュアが並ぶ。フィギュア制作にあたっての村上氏とボーメ氏のファックスによる往復書簡も展示され、それまで一部の人々にしか理解されなかった美少女フィギュアの魅力が、村上氏の質問とボーメ氏の回答を通して徐々に言語化され、明らかになっていく様子が見て取れる。

イメージフォーラムにて10月18日から公開されるブラザーズ・クエイの最新作「ピアノ・チューナ・オブ・アースクエイク」 ©2005 Koninck Studios PTE Ltd., Lumen Films, Mediopolis Film- und Fernsehproduktion GmbH Leipzig, UK Film Council, Arte France Cinema

また、シアター・イメージフォーラムでは、10月4日(土)から10月17日(金)まで、『ブラザーズ・クエイの幻想博物館』と題して、ストップモーション・アニメ作家ブラザーズ・クエイのフィルモグラフィーの中から、16作品を特集上映している。ブラザーズ・クエイは、1947年アメリカ出身の双子の兄弟スティーブンとティモシーからなる。フィラデルフィアの芸術大学で学んだ2人は、イラストレーターとして独立するも、二次元のグラフィックの世界にフラストレーションを感じ、ミニチュア制作に惹かれていった。1978年からは、パペット技術のリサーチのためにイギリス、ベルギー、オランダへ。ロンドン滞在中に短編パペットアニメを制作して以来、25年間ロンドンで映像作家として活躍してきた。2人の処女作「人工の夜景」は、地下室の男の妄想物語で、<人形アニメ>が世界にしられるきっかけとなった作品だ。また、チェコの人形アニメ作家ヤン・シュヴァンクマイエルを敬愛しており、1984年にドキュメンタリー番組の一部として制作した『ヤン・シュヴァンクマイヤーの部屋』は、1987年に日本でも上映され、シュヴァンクマイエルを始めて日本に知らせたことでも有名である。「内蔵を持つ時計」や、「拒食症のような人形」など、陰鬱で退廃的で幻想的な作風は、感性が直接素手でわしづかみにされたかのような衝撃を与えてくれる。

©Cheburashka Project

さて、3次元のアニメーションとして忘れてはならないものに、2008年の北京オリンピックではロシアチームの公式マスコットにもなった国民的キャラクター「チェブラーシカ」がある。児童文学作家エドゥアルド・ウスペンスキーの同タイトルの絵本を原作に、「ミトン」(67)、「レター」(70)、「ママ」(72)など、人形アニメーションの世界的名作を生み出した巨匠ロマン・カチャーノフが監督した映画『チェブラーシカ』は、日本においても2001年にユーロスペースで公開され、子どもから大人まで数多くのファンを生んだ。その後、ソ連崩壊後の混乱の煽りで版権トラブルに巻き込まれたが、2008年、アニメーションの普及・啓発を目的とする三鷹の森ジブリ美術館が配給にこぎつけ、全国で順次公開されてきた。大きな耳をした小さな生き物チェブラーシカは、起こしてもすぐに倒れてしまうので「チェブラーシカ(ばったりたおれ屋さん)」だという。困ったようなはにかんだような表情に、細部まで丁寧に作り込まれた動きを備えた人形たちは、自然と笑みがこぼれるほど無邪気で愛らしいが、一方で物語のテーマとなるのは、現代にも通じる社会のひずみ。そんな社会を優しく生き抜く人形たちの生命力が、『チェブラーシカ』の最大の魅力となっている。渋谷のユーロスペースでの公開は、10月10日まで。

「ボーメ〜アーティストデビュー10周年記念展」の会場に並んだ80点の美少女フィギュア

「ストリート・オブ・クロコダイル」©Koninck Studios Ltd.1985 Courtesy of BFI

タイトル:
ブラザーズ・クエイの幻想博物館
上映場所:
シアター・イメージフォーラム
上映期間:
2008年10月4日〜2008年10月17日
11:00/13:30
16:00/18:30
監  督:
ブラザーズ・クエイ

 

ボーメ展会場風景より。『Project Ko2(プロジェクトココ)』のコーナー

タイトル:
ボーメ〜アーティストデビュー10周年記念展
開催場所:
PARCO FACTORY
開催期間:
2008年10月3日〜2008年10月20日
10:00〜21:00
※入場は閉場の30分前まで
※最終日は18:00にて終了

 

1969年・1971年・1974年・1983年/ロシア/73分/配給:三鷹の森ジブリ美術館/© Chebur ashka Project

タイトル:
チェブラーシカ
上映場所:
ユーロスペース
上映期間:
2008年9月20日〜2008年10月10日
21:15
監  督:
ロマン・カチャーノフ
美術監督:
レオニード・シュワルツマン
音  楽:
ウラジーミル・シャインスキー

 


「チェブラーシカ」より
© Chebur ashka Project


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